第283回 ご都合主義の政治を拒もう

  肩肘を張ったものでも特に格調が高いものでもないが、なかなか説得力がある、事はこういうふうに論じるべきだ、という文や文章に新聞紙上で出会うことがあります。そんなときは「日本の新聞を見限るのは早すぎるのかもしれない」などと感じたりもします。
  東京新聞の「筆洗」( 2013年7月16日)がこんなふうに述べていました。
  <衆参どちらかの三分の一の議員の反対で国民が判断できないのは問題、主権者が意思表示できる機会を増やそう−。自民党日本維新の会の主張である▼ならば、再稼働反対の世論が賛成を上回る原発住民投票にどう対応したのか>
  <九六条改正の世論は反対が多い。自分の意見を通したい時だけ国民投票を利用したいという身勝手さが見抜かれているからだろう>
  多くの世論調査で、停止中の原子力発電所の(性急な)再稼動には反対するという意見が過半数を占めているのに、その過半数世論を無視して再稼動への動きを加速させている自民党が、日本国憲法に関しては、単純過半数の賛成で改変を可能にするべきだと言い張るのは筋が通らない、と「洗筆」は言っています。
  片方では「過半数の意見を尊重するべきだ」と言いながら、もう一方では「(自分たちの考えと異なる意見は)たとえ過半数を超えていてもそれを無視する」と自民党は言っているわけですから、「洗筆」が指摘するとおりに、自民党が“身勝手”極まりない、と言われるのは当然ですよね。
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  ここで言っていることとあそこで言っていることが矛盾しているのに“平気の平左”を決め込むというのは日本の大半の政治家の“得意技”です。そんな矛盾を恥だとも感じない政治家が日本には多すぎます。
  そんな政治家たちが日本を駄目にしつづけています。
  上の「洗筆」のような例外もありはしますが、日本の報道機関がそんな政治家たちを糾弾することは稀です。
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  ブログを利用する論者には主観的な“極論”愛好者が多いように見えますが、たまには、自分の論に筋を通そうとしている人を見かけることがあります。
  松本徹三という人が【憲法改正議論のあるべき姿】というブログを書いています(2013年07月15日 http://agora-web.jp/archives/1547876.html)。
  そのブログで述べられていることのすべてに賛同するものではありませんが、次のような個所には説得力があると感じます。
  <中・韓が大嫌いな右翼系の人たちも、日本の安全を守る為には、結局は「日米同盟の強化」に頼るしかない事は承知しているようだ。それなのに「現行憲法は米国の押しつけだ」等と言って、不必要に米国を悪者にしているのは、滑稽であるだけでなく卑怯千万と言わざるを得ない
  「中・韓が大嫌いな右翼系の人たち」がいう“押しつけられた憲法”とその発効の数年後に結ばれた“日米安全保障条約”とは、“戦後”の日本を国際社会の中にどう位置づけするかという点で、もともとは不可分の関係であるはずなのに、“憲法”の成立過程については不平不満を声高に叫びながら、一方の“安保条約”の締結についてはそれを日本存立の根幹として最重要視する、というのは、たしかに“卑怯千万”な論理破綻ぶりだと言えますよね。
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  “ご都合主義”という言葉があります。現代国語例解辞典小学館)には〔自分の定見を持たず、その時の状況に応じて、自分の都合のいいように判断し行動するのをさげすんで言う語〕と説明してあります。
  上の「洗筆」と松本氏のブログは、まさしく、自民党などの“ご都合主義”を糾弾しているわけです。
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  事態を“ご都合主義”で乗り切ろうとする政党や識者・論者などの側には“正義”や“真実”はありません。
  その人たちの“ご都合主義”を黙って受け入れていては、日本はよくなりません。  
  日本をよくするためには、筋が通った政治を行えと、特に政権政党とその政治家たちに求めなければなりません。
  “二枚舌”(「別々の矛盾したことを言うこと」現代国語例解辞典)に甘い顔を見せてはなりません。
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  【普天間問題―「2つの公約」の不誠実】朝日新聞 社説 (2013年 7月 18 日)
  <同じ政党が異なる選挙公約を掲げたら、有権者はいったい何を信じればいいのか><参院沖縄選挙区で、そんな異常な事態が起きている><米軍普天間飛行場沖縄県宜野湾市)の移設問題で、日米両政府は県内の名護市辺野古への移設で合意している><この合意に沿って、自民党本部は公約に「辺野古移設推進」を明記した><一方、党沖縄県連は「県外移設」を主張。党本部は県連のビラを地域版公約と認めなかったが、事実上、二つの公約が併存してきた。こんなことがなぜまかり通ったのか><大半の沖縄県民は辺野古への移設に反対しており、県外移設を求めている。そんななか、自民党候補が「辺野古容認」を訴えれば選挙戦に不利に響く。そのため、県連が「県外移設」を主張することを党本部は黙認した――><有権者をあまりにもバカにしていないか>
  この社説は「有権者をあまりにもバカにしていないか」と(控えめに)批判していますが、事実は、疑いようがありません。自民党は間違いなく「有権者をあまりにもバカにして」いるのです。
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  それでも、“ご都合主義”や“二枚舌”で自分たちはバカにされている、と有権者が感じないとなると…。
  日本を良くするのも悪くするのも、結局は、有権者=国民しだいですよね。
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