第158回 相変わらず、ずいぶん恥知らずですね

  <沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題で、日米両政府は28日朝、移設先を米軍キャンプ・シュワブがある「沖縄県名護市辺野古」とすることを明記した日米同盟に関する外務、防衛担当閣僚(2プラス2)の共同文書を発表した>そうです(2010年5月28日14時13分 読売新聞)。
  同新聞によると、その主な内容は…
  ▽普天間飛行場代替施設は米軍キャンプ・シュワブ辺野古崎地区(沖縄県名護市辺野古)及び隣接する水域に設置
  ▽代替施設の位置、工法の検討を2010年8月末までに完了
  ▽米軍の訓練の沖縄県外移転を拡充。鹿児島県・徳之島の活用を検討。グアムなど国外への移転を検討
  ▽在沖縄米海兵隊8000人のグアム移転を着実に実施
  というものだそうです。
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  沖縄の米軍普天間基地の移設をめぐる迷走と優柔不断に関して鳩山由紀夫首相を責めるのは実に簡単です。
  安請け合い。二枚舌。不勉強・無知。無能。八方美人。変節漢
  「ひきょう・無責任・場当たり的」などと呼んでいるのは毎日新聞の古賀攻記者です(2010年5月26日)。
  いずれも、首相がこれまでやってきたこと=無策を批判する言葉としては、大方のところで、ふさわしいものだと思われます。
  しかし…
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  古賀記者がこう言っているのは正しいのでしょうか?
  <ことは主権国家同士の交渉だ。約束を積み上げて妥協を引き出すセオリーに反して、過去の政府間合意を平気で白紙に戻すような政権は、外交の世界で相手にされない>
  これは、自民党から民主党への政権交代をどう意味づけるかで、どうにでも言い換えができる批判です。
  日本の政治史上で、事実上初めてと言ってもいい、画期的な昨年の政権交代では、民主党にその意思と能力があったら、“革命”と呼んでも大仰ではない類の“大変革”ができていたかもしれません。
  <外交の世界で相手にされない>ほど衝撃的な普天間基地移設案。<過去の政府間合意を平気で白紙に戻す>ほど大胆な移設案。
  沖縄の米軍基地の大半をグアムやテニアンに移設してもらう−というような“大変革”。
  このような大きな変革を実現するためには、むしろ<過去の政府間合意を平気で白紙に戻す>覚悟と必要があるとは思いませんか?
  すんなりと<外交の世界で相手に>されるような通常のやり方では、基地の大半は言うまでもなく、普天間基地の海外への移設も実現しませんよね。
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  古賀記者が(おそらく)したり顔で<8カ月間にわたる迷走は、普天間移設にかかわるすべての当事者を傷つけた。沖縄の期待感をあおったつけは、琉球の歴史にまでさかのぼって沖縄と本土との溝を広げた>と断言しているところはどうでしょう?
  <普天間移設にかかわるすべての当事者を傷つけた>ですって?
  こんなことでアメリカが傷つく?いえ、“迷走”は首相と民主党の愚かさ=論理的な思考の欠如が招いたもので、責められて当然なことです。ですが、こんなことで傷つくほどアメリカは“ヤワ”ではありませんよ。この問題に関するアメリカの態度はすこぶる計算高いものです。そう思います。
  いまの日本にそんな財力はありませんが、もし、グアムやテニアンへの移設費用をすべて持つと日本政府が言ったら、アメリカは喜んで耳を傾けてくるはずです。敵地などへの上陸作戦を本領とする海兵隊が沖縄で誇示できる“抑止力”は、広い海域をカヴァーする第七艦隊と違って、きわめて限定されているのですから。
  すでに、海兵隊員とその家族など、計8000人をグアムへ移動させるという案があるのですよ。日本と同じく財政的に逼迫しているアメリカが考えているのは“米国の負担をいかに小さく保つ形で”抑止力を維持するか、ということに違いありません。グアムやテニアンへの移転費用を日本政府から引き出す望みがないいまは、現状維持というのがアメリカにとって最良の案であるわけです。沖縄の人びとの反基地感情が急激に盛り上がりさえしなければ…。
  <沖縄と本土との溝を広げた>ですって?
  日本全土の米軍基地の75パーセントを沖縄が引き受けさせられているのはやはりおかしい、と沖縄の人びとが思うことのどこが悪いのでしょう?戦後の65年間、毎日新聞を含めて、本土の人間はどれほど、沖縄にのしかかっている苦しみを自ら引き受けようとしてきたでしょうか?古賀記者はそんなふうには考えていません。溝が広がったとすれば、それは、本土の人びとが沖縄の窮状に理解を示さないからであって、意図したことではなかったにしても、そのことを明確にした鳩山首相はその“成果”を誇っていいぐらいです。
  それに、自民党がまとめていた、いわゆる現行案に沿って事を進めていたとしても、米軍あるいは米軍兵士などによる大きな事件や事故が一つ起これば、沖縄県人のあいだに再び、もう基地はごめんだ、本土にももっと負担してもらうべきだ、という声が一挙に高まっていたかもしれませんよ。沖縄には、基地撤廃という“期待感”がこれまでも脈々としてあったのではありませんか?<沖縄と本土の溝>は鳩山首相民主党ではなく、自民党長期政権と本土の人びとが作り出し、維持してきたものです。
  沖縄の期待感に応えよと言うのではなく、いままでの溝の広がりを維持していれば万々歳だったのに、と言わんばかりの古賀記者の頭はどこか歪んでいます(LOOPYとはこういう頭脳をさす言葉だと思います)。
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  古賀記者=毎日新聞だけではありません。ほんの一部の例外的な記事を除けば、本土の報道機関はこれまで、沖縄の負担を他の都道府県はいくらかでも引き受けるべきだと、本土の住民に向かって、主張したことがありません。
  鳩山首相民主党の無策と無能力を非難する報道機関は、なぜ、本土住民を利己的だと批判しないのでしょうか?沖縄に対する差別をなくすべきだと訴えないのでしょうか?
  新聞の購読者が本土で減る?テレヴィの視聴率が本土で下がる?
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  古賀記者は鳩山首相に向かって<結果責任を負えば、政治道徳が芯まで腐るのを、いくらかでも食い止められる>と述べています。よくこんな恥知らずなことが言えますね?!自省する心がこの記者にはないのでしょうね。
  では、沖縄の人びとの苦しみを戦後ずっと無視してきた新聞の“道徳”は?公平・公正な報道に努めているかのように常に装っている報道機関の“正義感”は?
  “道徳”が芯まで腐っているのは、むしろ、報道機関の方かもしれませんよ。
  本土住民に負担の引き受けを求めない報道・論評はまったく信じるに値しません。そんな報道・論評は、おそらく、国民の目を欺く、悪意に満ちたものです。
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  ほんとうに、日本はいったいどうなっているのでしょうね?
  まがいものばかりが我が物顔でのさばっていて…。