第277回 第96条を二度改変すると…

  日本国憲法 第96条 
  この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。
  憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。
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  日本国憲の改変を容易にするために第96条の「三分の二以上」規定を「過半数以上」に変えてしまおうという議論があることについて、あるブロガー(その名前を失念してしまったためにこう表現しなければならないことを申し訳なく思っています)が、大方のところで、こんなふうに言っていました。
  「自民党などが主張する第96条改変に(軽々しく)賛成すると、次には、戦争放棄条項や基本的人権条項などの現行憲法の重要な部分が改憲派の意のままに改変されてしまい、さらには、そのあとで、96条をいまの(「三分の二以上」規定の)条文に再び戻され、その後の再改変=原状回復を、事実上、不可能にされてしまう恐れがある」
  卓見というのはこういう意見を指していうのでしょうね。
  自民党などの第96条先行改変論に乗ってしまうと、改憲の“おいしいところどり”をされただけで、あとの再改憲可能性を、事実上、完全に封じられてしまうことになりかねない、というのです。
  つまり、言い換えれば、第96条の規定を(「過半数以上」に)甘くすると改憲が頻繁に行われるようになるから、憲法憲法でなくなってしまう、という議論は甘すぎる空論で、現実にはもっと恐ろしいことが起こるかもしれない、という警告なのですね、これは。
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  いやいや、自民党などの改憲派が、自分たちが改憲可能勢力を保っているあいだに、第96条だけではなく、現行憲法の根幹である戦争放棄基本的人権の尊重を削除または書き換えようとするはずだとは、勿論のこととして、思っていました。しかし、その次に、その書き換えた分のうちの第96条だけを再び(「三分の二以上」規定の)いまとおなじものに戻してしまい、(「過半数以上」規定が生きているうちに)平和主義、戦争放棄基本的人権の尊重などを唱える憲法に戻そうという者たち=現護憲派の願いを、ほぼ永久に、断ち切ってしまうかもしれない、というふうに考えたことは、わたし自身についていえば、まったくありませんでした。
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  夏の参議院議員選挙改憲勢力が三分の二の議席を得たとしても、現実には、憲法改変反対派の抵抗もあるでしょうし、国民投票を含めて、改憲過程のすべてが改憲勢力が企図しているように滑らかに進むとは限りませんが、この改憲勢力というのは、日本国憲法の根幹部分にはとりあえずは触れないことにして、「日本憲法はとにかく古い。時代に合わせた方がいい」というような、実質的な議論を避けたムード論を盛り上げて国民をたぶらかし、改憲手続き条項だけを先行改変しようという(憲法学者の多くがいう)“禁じ手”を考えつき、それを断行しようとしている、崇高な順法精神のかけらもない、破廉恥人間たちです。彼らがもしも第96条の改変に成功したら、次には、憲法の根幹部分に改悪を重ね、最後の決め手として、この96条を再び元の、改憲が難しい(「三分の二以上」規定の)ものに戻してしまう、という第二の“禁じ手”を使ってくる可能性は十分にありえます。
  そうなると、日本は…。
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  【「憲法尊重、国民の義務に」自民、99条改正を主張】朝日新聞 (2013年5月17日5時48分)
  <衆院憲法審査会は16日、天皇国務大臣、国会議員と公務員に憲法尊重擁護義務を課した99条について議論した。自民党尊重義務の対象を「国民」すべてに広げるよう主張した
  <だが、みんなの党小池政就氏は「国民の尊重擁護義務は倫理的責務にとどまる。法的義務として規定することはない」と現行条文の維持を主張した。生活の党の鈴木克昌氏も「国家権力をしばり、国民の権利を保障する立憲主義の観点から、国民が対象とされないのは当然」と指摘した>
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  つまり、自民党ではすでに、平和主義や戦争放棄基本的人権の尊重などといった現行日本国憲法の根幹部分を破棄したあとの、軍国・国家主義的な“改変ずみ憲法”を“尊重”する“義務”を“国民すべて”に押しつけようと動き始めているのです。北朝鮮のような、自由が限られた、住みにくい国に日本をしようとしているのです。
  第三の“禁じ手”です。
  インターネット上で知るところでは…。
  何らかの形での改憲を支持する憲法学者たちの多くも、生活の党の鈴木氏と同意見です。「国家権力をしばり、国民の権利を保障する立憲主義の観点から、国民が対象とされないのは当然」
  その憲法学者たちによると、先進民主主義国家の憲法の中に「憲法尊重義務を国民(すべて)に課しているものはない」ということです。
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  自民党などの改憲勢力が企てている“日本の北朝鮮化”に加担するのかどうかがいま、国民に問われています。
  日本国民がムードに乗せられていま改憲勢力を支持すると、日本はいまの北朝鮮にも似た、国民主権とは名ばかりの、強権が支配する軍事国家になってしまいます。
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  【改憲護憲派声そろえ「96条守らねば憲法破壊」】東京新聞 2013年5月24日 07時07分
  <安倍晋三首相が意欲を示す憲法九六条の先行改憲に反対する憲法学や政治学の研究者でつくる「九六条の会」が発足し、代表の樋口陽一東大名誉教授らが二十三日、東京・永田町で記者会見した。護憲派だけでなく、改憲派の論客として知られる小林節慶応大教授も発起人として参加。この日は超党派議員連盟「立憲フォーラム」も会合を開き、改憲手続きの緩和を阻止する動きが加速してきた><小林節教授は約三十年間、自民党の勉強会で指南役を務め、自衛軍や新しい人権の規定を唱える改憲論者。だが、九六条先行改憲の問題が浮上して以降は、テレビやインターネットの討論番組に精力的に出演し、真っ向から反対の論陣を張っている>
  <小林教授は「『憲法を国民に取り戻す』と言いながら、権力者が国民を利用しようとしている」と安倍首相を批判。国民の義務規定を増やした自民党憲法草案についても「憲法は国民でなく権力者を縛るもの、という立憲主義を理解しておらず、議論にならない」と切り捨てた>