第272回 “悪文”が日本人をおかしくする

  “悪文”で書かれたニュースを毎晩のように読み聞かせられる視聴者が気の毒に思えてきました。
  悪文を読めば読むほど、あるいは、それに慣れ親しめば親しむほど、読む者の正しい思考回路が壊されてしまいますからね。物事を正しい道筋で考える能力が奪われてしまいますからね。
  日本放送協会(NHK)自身が、何が悪文であるに気づいていないようなので、それがどんなふうに悪文であるか、どういうふうに書き直せばもっと納得して視聴者に聞いてもらえるものになるかについて、改めて、私見を述べてみたいと思います。
  ここで使うのは【震災がれき処理 ようやく半分終わる】(3月23日 NHKニュース)と題された記事です。
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  <東日本大震災で岩手、宮城、福島の3つの県で大量に発生したがれきのうち、処理が済んだ量が50%を超えたことが環境省のまとめで分かり、震災発生から2年で、がれきの処理はようやく半分まで終わりました>
  ⇒⇒前半に「…分かり」後半の「…終わりました」とありますので、ここでは二つの情報が伝えられているように見えますが、後半は前半とおなじことを支離滅裂に言い換えただけにすぎません。そのために「50%を超えた」ことがいいことなのか悪いことなのかさえ不明の内容になっています。
  文中の「ようやく」を生かそうとすると、理解しやすいのは……
  →→環境省(の発表)によると、東日本大震災で岩手、宮城、福島の3つの県で大量に発生したがれきのうち、処理が済んだ分はやっと50%を超えたところで、震災発生から2年がたっても、がれきの処理はまだ半分近くが手つかずのままになっているということです。
  「50%を超えた」を強調したいのなら……
  →→東日本大震災で岩手、宮城、福島の3つの県で大量に発生したがれきのうち、処理が済んだ分が50%を超えたことが環境省のまとめで分かりました。がれきの処理は、震災発生から2年で、その半分余りは終わったことになります。
  もっとすっきりと…
  →→東日本大震災で岩手、宮城、福島の3つの県で大量に発生したがれきのうち、震災からの2年間で処理が済んだ分はまだやっと50%を超えたところだということが環境省のまとめで分かりました。
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  <大震災で岩手、宮城、福島の沿岸部で発生した、津波の堆積物を除いたがれきの推計量は、岩手で366万トン、宮城で1103万トン、福島で161万トンの合わせて1630万トンに上っていて環境省は来年3月末までにすべての処理を終えたいとしています>
  ⇒⇒「1630万トンに上っていて」とあったら、通常の頭脳の持ち主なら、たとえば「早期の処理終了を難しいものにしています」というような内容をつづけるはずです。それをいきなり「環境省は」と受けるのは、明らかに論理破綻です。そんなふうに破綻させている原因が「いて」です。NHKの“いて病”は実に深刻なところに来ています。
  →→岩手で366万トン、宮城で1103万トン、福島で161万トンの合わせて1630万トンに上っていると見られる、三県沿岸部で発生した、津波の堆積物を除いたがれきについて、環境省は、来年3月末までにはすべての処理を終えたいとしています。
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  <処理が済んだ量を県別に見てみますと、宮城56%と最も進んでいて、次いで岩手44%、福島35%にとどまっていました>
  ⇒⇒日本文の“主語”に当たる語に「は」または「が」をNHKがだんだんつけなくなっていることに気づいていますか?典型的な“助詞の虐待”です。上の例には、その悪癖の弱点が惨めなほどはっきりと表れています。最初の宮城が「が」で受けられ、「最も進んでいて」とつながっていることに格別の問題はありません。宮城の「56%」から「44%」まで悪化しているだけの、次の岩手もまあ「が」でいいでしょう。しかし、「35%にとどまって」いた福島を宮城や岩手と同列に扱うわけにはいきません。その違いを明確にするためには「(これに対して)福島」でなければなりません。
  →→処理が済んだ量を県別に見てみますと、最も進んでいる宮城が56%、次いで岩手が44%。福島35%にとどまっていました。
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  <がれきの処理は復興を進めるうえで大きな課題となっていて環境省は地元自治体と協力して処理をさらに加速させたいとしています>
  ⇒⇒またまた“いて病”が出現しています。昔のNHKは「課題となっています環境省は…」というふうにつないでいました。その方がよほどまともだったと思います。もちろん、「課題となっていますので環境省は…」でもかまいません。文の前半と後半が論理的につながりますから。
  →→復興を進めるうえで大きな課題となっているがれきの処理について、環境省は、地元自治体と協力して処理をさらに加速させたいとしています。
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  ほかのニュースからも少し…。
  【中国 卵大のひょう降り9人死亡】(3月21日 NHKニュース)
  <中国の南部や内陸部では、大気の状態が不安定になっており、広東省東莞では、20日、鶏の卵ほどの大きさのひょうが降り、建物が壊れるなどの被害が出て少なくとも9人が死亡し、270人以上がけがをしました>
  ⇒⇒「建物が壊れるなどの被害が出て」と「少なくとも」以下がちゃんとつながってはいません。全体としての「被害」のうちには死者もけが人も含まれているわけですからね。
  →→鶏の卵ほどの大きさのひょうが降ったために、建物が壊れるなどして、少なくとも9人が死亡し、270人以上がけがをしました。
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  とはいうものの、この「ひょう」の記事は、NHKのものとしては平均以上の質に仕上がっています。まれにはそういう記事もあるわけです。
  <中国の南部や内陸部ではこのところ、北からの冷たい風と南西からの暖かく湿った空気がぶつかり、大気の状態が不安定になっています><広東省東莞の郊外では、20日午後4時ごろ、風速49メートルの猛烈な風とともに激しい雨が降り、一部の地域では鶏の卵ほどの大きさのひょうが十数分間にわたって降り続きました><この影響で、工場の屋根が崩れ落ちたり、小学校の窓ガラスが割れたりして、東莞市によりますと、少なくとも9人が死亡し、272人がけがをしたということです><現地の報道によりますと、内陸部の湖南省でも20日、暴風で住宅が倒壊して3人が死亡したのをはじめ、江西省貴州省でもひょうで電線が切れて停電するなど被害が広がっています><中国の気象台は、週末にかけて大気の不安定な状態が続くとして、突風やひょう、雷などに警戒するよう呼びかけています>
  前後で大きな論理破綻がある文はありませんよね。
  NHKには、せめて、この程度の記事を常に書いてもらわなければなりません。
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  そういえば、近年は「工場の屋根が崩れ落ちたり、小学校の窓ガラスが割れたりして」というような正しい「たり…たり」文をNHKはあまり書かなくなっています。かわりに「屋根が崩れ落ちたり、窓ガラスが割れて…」というような、バランスを欠いた文が実に多くなっているのです。
  「たり…たり」文が書けない記者や“いて病”患者の記者が主流になっているNHK。
  早く手を打たないと、報道機関としての信用をなくしてしまいますよ。取り返しがつかない状態に陥ってしまいますよ。


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