第266回 「つなげられない」症候群

  今回も日本語について。  
  日本の報道機関に「一文の前後をつなぐことができない症候群」が広がっています。それが広がることで、報道機関の思考力、論理展開力がますます脆弱になっています。
  報道機関の日本語表現力の低下は、日本人全体の思考力、論理展開力を貧しいものにします。
  目の前の問題を見据えて、それに(できるだけ)正しく対応していく能力を日本人はしだいに失っています。
               *
  次の三文を見てください。
  《1》<15日とけかかった雪が再び凍結して路面が滑りやすい状態が続いていて気象庁は転ばないよう足元に十分注意するとともに交通への影響にも注意するよう呼びかけています>【各地で厳しい冷え込み・路面凍結 転倒に注意】 NHK 1月16日 7時7分
  《2》<当時、現場付近は雪の影響で路面が凍結していて、警察は原付きバイクがスリップしてガードレールに衝突したとみて調べています>【路面凍結 バイクで転倒し死亡】 NHK1月15日 13時37分
  《3》<30歳代の捜査官は18日、イスラマバードの官舎自室で首をつった状態で発見されたとされる。2008年から約3年間の水利・電力相時代にアシュラフ首相が手掛けたレンタル発電機事業を巡る汚職疑惑を中心になって手がけ最高裁は15日、捜査官が提出した報告書を基に首相の逮捕を命じていた。地元警察は自殺との見方を示したが、捜査官の父親が「遺体に拘束されたような痕がある」と調査を求めていた>(2013年1月26日 読売新聞)
               *
  《1》と《2》は「苦言熟考」が前にも指摘したことがある、NHKがここ久しく患っている“〜いて”病の典型例です。
  <路面が滑りやすい状態が続いていて>のあとに、その状態が何を引き起こしているかについてではなくて、どうしても<気象庁は>と新たな“主題”を持ってくるのだったら、<路面が滑りやすい状態が続いていて>と<気象庁は…>を論理的につなぐための言葉が必要になります。「路面が滑りやすい状態が続いているために気象庁は…」ではどうでしょう?「路面が滑りやすい状態が続いていることを受けて気象庁は…」でも文の前後は論理的つながります。「路面が滑りやすい状態が続いていることから気象庁は…」でもいいでしょう。<気象庁は>の位置を変えて「路面が滑りやすい状態が続いていますので、転ばないよう足元に十分注意するとともに交通への影響にも注意するよう気象庁呼びかけています」とすればすっきりとした文になります。
  <現場付近は…路面が凍結していて>と<警察は…>も論理的に正しくつながっていません。「凍結していたことから、警察は…」なら文の前後が、ぎくしゃくすることなく、つながります。「路面が凍結していたために原付きバイクがスリップしてガードレールに衝突した(もの)とみて、警察が調べています」と書けば、もっといい文になります。
  《3》は“すこぶる”つきの悪文です。
  まずは、<電力相時代にアシュラフ首相が手掛けたレンタル発電機事業を巡る汚職疑惑を中心になって手がけ>というぐあいに<手掛け>と<手がけ>を一文の中に重ねて使っている未熟さ。
  次には、<(30歳代の捜査官は…手がけ>が<最高裁は…>とまったくつながっていないこと。「この捜査官は、2008年から約3年間の水利・電力相時代にアシュラフ首相が手掛けたレンタル発電機事業を巡る汚職疑惑捜査の中心人物で、同捜査官が提出した報告書を基に最高裁は15日、首相の逮捕を命じていた」とでも書いておけば、分かりやすい文になっていたはずです。
               *
  日本の報道機関が論理的に一貫した文を書くことができなくなっているという事態を日本人は深刻に受けとめなければなりません。
  “一文の前後が正しくつなげられない頭”から建設的な意見や考えが生まれてくるとは思えません。

               *