第188回 審議拒否は税金泥棒

  与党時代の、特にその最後数代の首相時代の、自民党の政治力(政権担当能力)の低下ぶりは目を背けたくなるほどひどかったのですが、そこから心配されたとおりに、野党になってからのそれ(野党力)も惨憺たるものであることが、時が経つにつれて明らかになってきています。
  自民党がいま抱えている最大の問題は、すでに政権交代が可能な時代になっている、ということへの理解がまったくできていないことだと思えます。政権が自民党から民主党に代わったように、民主党から自民党への交代もあり得る、ということが誰よりも分かっていないのが自民党です。
  野党による問責決議を理由にして民主党の前官房長官、仙石氏らの辞任を迫り、結果としてそれを実現したことを自民党は“野党自民党”の一大勝利と自負しているでしょうが、これほど愚かな“勝利”はありません。大半の国民には分かっています。仮に自民党が政権を奪還したときには野党側から同じことをされるに違いないということが。
  かつて社会党が得意技とした、政府・閣僚の些細な失言などに何かと因縁をつけて国会審議を停滞させる、という手段をいつまでくり返そうというのでしょう?いまの自民党はあの社会党並みの国会戦術しか展開できない“万年野党”志願者に見えます。
  国会審議拒否作戦も同じです。次に自民党が政権を取れば、野党側は“野党自民党”が残した先例に従って同じことをするでしょう。
  不毛。非生産的。無駄。浪費。
  自民党が再び政権を奪取すれば、野党にそんなことはさせない?衆議院参院で三分の二以上の議席を確保する?
  そんなことが可能だと考える国民は、自民党員の中にさえ、ます、いないのでは?民主党がここまで凋落しているのに、自民党の支持率がほとんど上昇していないのですから。
  政権交代以前の自民党の悪はある種の“老害”ではないかと思えるところがありました。自民党政権末期の重鎮たち、谷垣、石破、大島氏たちの旧態依然とした政権運営森元首相らの無用な口出しは自民党を転落の道に追いやりました。
  なのに、野党になった自民党は“若返り”に失敗しました。まず、政権を奪還する能力を持った若手議員がいませんでした。登用した石原幹事長、山本参議院政策審議会長らには新しいヴィジョンがありませんでした。
  石原幹事長は、父親である東京都知事にも負けないような非論理的な政府・民主党攻撃を展開するだけですっかり自己陶酔に陥っているように見えることが多すぎます。事を“なぜ”つきで説明できない、典型的な旧型政治家であることを自ら証明しています。
  山本参議院政策審議会長は自己顕示欲が隠し切れない世襲議員としか見えません。
  自民党の“野党力”は旧社会党程度。そんな烙印を自らに押すために、としか見えないほどに、自民党はこれでもかこれでもかとばかりに愚かな戦術を展開しています。
  政権交代時代の新ヴィジョンが自民党にないとなると、国民は自己防衛のために、こんな主張をし始めるべきです。
  いずれの政党によるものであれ、国会審議拒否は税金泥棒と同じ、国民への裏切り行為である。
  国会議員には、国会審議を真摯に行うという、国民への義務がある。
  審議を拒否する政党には投票しない。
  日本という国がしぼみ始めているというのに、政策論議を放棄する国会議員?
  政権交代後の日本の政治を見ていると、政治が国を滅ぼしている、と感じないわけにはいきません。
  審議を拒否する国会議員たちを税金で支えつづけるほど愚かなことはありません。
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  2011年2月1日の東京新聞<筆洗>は、小沢民主元代表が強制起訴されたことを受けてこう書いていました。<国会はまた「政治とカネ」一色になるだろう。国会の審議がむなしく空転する場面を想像すると、暗たんたる気分になる>
  国会の審議を「むなしく空転」させるのは国民への裏切り・義務違反であると同時に、非合法ストライキ・税金泥棒に等しい行為だ、と言えない報道機関もだらしない。