第148回 ここまで落ちぶれ果てたか 自民党

  安倍・福田・麻生と三代つづいた無能総裁が自由民主党を事実上破壊してからまだ半年間しか過ぎていません。なのに…。
  いえ、昨年8月の衆議院議員選挙での自民党の大敗は、政権末期の麻生首相の数々の愚かな言動からも、事前に十分に予測できていましたよね。ですが、ほぼ半年後のいま、この党がここまで落ちぶれ果てているだろうと見ていた人は多くはなかったはずです。

  <落ちぶれ果てている>というのはこういうことです。
  読売新聞社が2010年2月5〜6日に実施した全国世論調査の結果を見てみましょう。
  まず、鳩山内閣の支持率は44%、不支持率は47%でした。<支持率は前回調査(1月16〜17日実施)の45%から横ばいだったが、不支持率は5ポイント上昇し、昨年9月の内閣発足以来、初めて支持率を上回った>わけです。
  一方、<小沢民主党幹事長の資金管理団体を巡る政治資金規正法違反事件で、元秘書の石川知裕衆院議員らが起訴されたことを受け、小沢氏は幹事長を辞任すべきだと思う人は74%に達した>ということです。
  さらに<「小沢氏は幹事長を辞任すべきだ」と答えた人に限って、衆院議員を辞職すべきかどうかを聞くと、「辞職すべきだ」66%、「その必要はない」29%となった。小沢氏が土地購入資金を「個人的な資金である」などと説明していることに「納得できない」と答えた人は86%に上った。小沢氏を起訴しなかった東京地検の判断は適切だったと思う人は31%で、「そうは思わない」51%が上回った>そうです。
  民主党には最大級の逆風が吹いているのに対して、自民党にとってはこの上ない好機が訪れているわけですね。

  ところが<夏の参院比例選の投票先を聞いたところ、民主27%(前回28%)、自民22%(同21%)>。
  読売新聞は<その差は縮まった>と書いていますが、動いたのは1パーセントポイントで、統計上の誤差の範囲に含まれています。
  つまり、検察とマスコミが阿吽の呼吸で協力し合って、あれだけ反小沢=官僚支配擁護のキャンペインを展開した結果として、<小沢は悪い奴だ><小沢に牛耳られている民主党もだらしない>という“国民的合意”がほぼできあがったというのに、自民党への支持は格別には伸びていないのです。自民党は<民主党に代わる政党だ>とは見られていないのです。
  これが<自民党の落ちぶれ>でなかったら、いったい何なのでしょう?

  小沢幹事長の政治資金“疑惑”を検察が(単なる政治資金規正法違反容疑ではなく、まるで大きな(斡旋)収賄容疑でも存在するかのような勢いで)調査・捜査し始めると、自民党は<ここぞ>とばかりに、この問題に全神経・全能力を振り向けることにしました。検察が不起訴としたあとでも、小沢氏を(司法上の<推定無罪>の原則など完全に無視して)<限りなくクロに近い(灰色)>と決めつける発言も厭いませんでした。
  そんな反小沢・反民主キャンペインの中心になっているのが総裁 谷垣禎一、幹事長 大島理森政務調査会長 石破茂の“旧人御三家”です。<自民党政権時代にはどんな不正もなかった>とでも言わんばかりの顔つきで、彼らが小沢氏と民主党を非難するところを見ても、その言葉をそのまま受け取る者はいないに違いないのに。そのことが、上の世論調査でもすでに明らかになっているというのに(22%!)。

  あの衆院選挙の投票日前に<苦言熟考>はこう述べていました。
  <ただ、ちょっと心配されるのは、完敗後の国会で自民党が「野党力」をちゃんと発揮できるだろうかということです。選挙キャンペイン中にすでに野党化してしまっている自民党による民主党批判を聞いていると、自民党には立派な野党になる力も残っていないのではないかと思えます>
  この危惧は、民主主義が成熟することを望む日本国民にとって不幸なことに、すでに現実になっています。
  自民党がこれほどの“好機”を迎えているというのに、この“旧人御三家”(さらには与謝野馨鳩山邦夫などといった“負け犬”たち)には世論を動かす力がありません。どうやれば世論を味方につけることができるかが彼らにはまったく分かっていません。

  実のところ…。
  小沢氏への民主党幹事長辞任要求ほど愚かな政治戦術はないのではありませんか?
  小沢氏にまつわる大きな“疑惑”の存在を本気で信じているのなら、同氏に民主党幹事長をやらせた状態で夏の参議意議員選挙を迎える方が自民党にとってどれほど戦いやすいかは、政治の素人にも分かることでしょう。
  “疑惑”が事実であろうとなかろうと、この際だから、選挙上手の小沢氏には幹事長を辞めてもらおうという程度の浅はかな考えにとりつかれているのなら、それはいずれ国民の知るところとなります。自民党の支持率向上にはけっして寄与しません。
  小沢氏への議員辞職要求にもいまの自民党の愚かさがよく表れています。
  それが小沢氏であれ誰であれ、ある人物から国会議員職を奪うことができるのは、投票権を持つ国民=有権者だけです。自らがけっして認めていない“不正”に責任を感じて辞職した議員が(数々の汚職・不正議員を生み出してきた)自民党にかつていましたか?責任を取らせることができるのは、あくまでも、国民=有権者です。それが民主主義の基本でしょう?

  <落ちぶれ果てた>自民党は、自民党政権下の野党が用いた(かつては自らが非難の対象としていた)国会戦術を、恥じることもなく、採用しています。いかにもあの“旧人御三家”が考えつきそうな、新鮮味と想像力に欠けた戦術です。
  自民党は、堂々と選挙で勝つこと、を考えて新たな戦術を組み立てるべきです。そのためには(使い古された戦術しか考えつかない)“旧人”グループに身を退かせて、新鮮な顔ぶれと頭脳を中心にすえて党を根本から再建しなければなりません。

  <苦言熟考>は、先の衆院選挙の直後の第130回エッセイにこう書いています。
  <小沢氏は、戦術の上ではこの選挙での民主党勝利の第一の功労者であるかもしれませんが、その根本のところの体質は、田中角栄元首相の下で培われた、すこぶる自民党的なものです。「カネ」「裏技」「独断」「豪腕」「壊し屋」などなど、民主党を突如危機に陥れる要素を、いくつも持った人物です>

  小沢氏はいま民主党を深刻な危機に陥れています。
  小沢氏の元秘書たちを巻き込んだこの政治資金規正法違反事件で検察は、見込み捜査を繰り返した挙句に、(狙いをつけていた)脱税ででも(斡旋)収賄ででも、小沢氏を起訴することができませんでしたが、マスコミの協力を得て(上の世論調査にも見られるように)民主党のイメッジを傷つけることには大成功しました。
  小沢氏に頼りきってきた民主党の自業自得です。
  
  そんな民主党政党支持率で上回ることができない自民党
  国会両院の(本来は不景気対策などを第一に議論しなくてはならない)予算委員会で時間を取って民主党の“不正”をいくら責めても、自民党への支持率は高まりません。国民=有権者は、自民党に国会でわざわざ指摘されなくても、とっくに<民主党に失望している>のです。
  自民党はいま、自らはどういう政党になるか、が問われているのです。その問いに答えられなければ、次の参院選挙でも勝てはしないでしょう。
  小沢氏に民主党幹事長を辞めさせても、衆議院議員を辞職させても、自民党はその<落ちぶれ>状態から立ち直ることはできません。
  次の、共同通信の記事を読んでください。<自民党はここまで落ちたか!>と再確認するのに実にふさわしい内容です

  <谷垣氏「首相自ら証人喚問で」 母の資金提供問題で追及姿勢>(2010年2月13日)
  <自民党谷垣禎一総裁は13日、宮崎市内で講演し、鳩山由紀夫首相への実母からの資金提供問題に関して、「家族の中でいろんな話があったのではないかとの議論が出てきた。首相自ら証人喚問で疑惑を晴らしていかなければならない」と首相自身の喚問の可能性に言及、追及姿勢を一段と強めた><谷垣氏は、実弟自民党鳩山邦夫総務相が、首相側の資金要求をうかがわせる実母との会話内容を明らかにしたことを受け、「首相はでっち上げだと気色ばんでいるが、それなら自分か、どなたかが明快な説明をしなければいけない」と指摘、説明責任を果たすよう強く求めた><また、小沢一郎民主党幹事長の資金管理団体の収支報告書虚偽記入事件にも触れ、「首相も小沢氏も自分の件は終わったかのように言っているがそうではない。自民党は妥協しない。検察や国税の動きがどうなるかもある」と述べた>

  鳩山兄弟の内輪の諍いを利用して自民党への支持率を上げる?つまりは、80歳を超えている母親を国会に呼び出して、二人の息子のうちの一人の主張に反する証言をさせる?「自民党は妥協しない」?
  それで自民党への信頼が“回復”する?
  次元が低い(母親への惻隠の情のかけらもない)そんなことしか党首が考えつかない政党に国民が再び政権を与えると信じているのですね、“落ちぶれ果てた”自民党は!