第257回 ビジネス環境が最悪に近い国 フィリピン

  10月24日のフィリピン版「YAHOO NEWS」に【Doing business in PH among most 'difficult' in the world】というタイトルの記事がありました。フィリピンでビジネスを行うのは世界で最も“難しい”方に属する、という内容です。
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  初めてフィリピンを訪れた1984年から今日までの28年間にいったいどれぐらいこの国の産業経済は成長したのだろうか、という、どちらかといえば否定的な日ごろの疑問に、部分的ではあるものの、上の記事は答えてくれています。……ビジネスを立ち上げ、展開するための手続が煩瑣で、それに時間がかかりすぎるために、国内外からの投資が足踏み状態になっている!
  いえ、わたしが住んでいるマカティ市内を中心として、メトロマニラでは、高層ビルディングの建築ラッシュがつづいていますし、市中を走る自動車は、全体としては、1984年とは比較にならないほどに新しく、高価なものになっているのですよ。
  しかし、フィリピン人の多くは、の大半は、こうした現象を起こしているカネは、実はフィリピン国内の産業が生み出したものではなくて、政府公認のOVERSEA FILIPINO WORKERS(OFW)が海外で稼いで本国に送金したものだ、と信じているようです。国民の10人に1人がそうだといわれるOFWは、少なくともほとんどのフィリピン人の目には、フィリピン最大の、外貨が稼げる“産業”となっているのです。
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  上の記事の中身を見てみましょう。
  資料はInternational Finance Corp. と World Bankが最近発表した "Ease of Doing Business"(ビジネスのやりやすさ)報告書に拠っています。
  それによると、フィリピンでのビジネスのやりやすさは、全体としては、185か国中の138番目でした。昨年の183か国中の136番目からさえ位置を下げています(フィリピンより“難しい”国としては、下位10番に the Central African Republic、 Chad、 the Republic of Congo、 Eritrea、 the Congo Democratic Republic、 Venezuela、Guinea-Bissau、Guinea、 Côte d'Ivoire そして Nigerの名が挙がっています)。
  個々に見ていけば…。
  フィリピンで問題があるとされたビジネス上の手続は昨年の15件から1件増えて16件になっています。フィリピンよりも多かったのは、ヴェネズエラの17件と赤道ギニアの18件の、たったの2か国だけでした。
  ビジネスを登記するのにかかる日数は昨年の35日間から36日間に増えています。
  手続の容易さでは、そのほかにも、納税では136番目から143番目に、投資家保護では124番目から128番目に、資金借り入れでは127番目から129番目に、不動産登記では120番目から122番目に、契約実施度では109番目から111番目にと、いずれもランクを下げています。
  また、建築許可を得るまでに29件もの手続が必要で、これは他のいくつかの国々とともに、世界で最も多い数となっています。ちなみに、香港とニュージーランドは6段階の手続で許可が下ります。
  フィリピンでの問題は、ビジネスの片方が債務不履行に陥った際に問題を解決するまでにかかる年数にもあります。5.7年もかかるのです。しかも、貸した側が回収できるのは49パーセントにとどまっています。これに対して、アイルランドでは0.4年しかかかりませんし、日本では92.8パーセントが回収できます。
  ちなみに、手続に関して、ビジネスが最もやりやすいのはシンガポールで、香港、ニュージーランドアメリカ、デンマークノルウェイ、英国、韓国、グルジア、オーストラリアがつづいています。
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  フィリピンはいったいどうなっているのでしょうね?
  国民の多くが英語が使える国なのですよ。外国企業が日常のコミュニケイションに困ることが少ないはずの国なのですよ。
  大学の数も学生数も多く、教育水準もけっして低くはない国なのですよ。労働者の質も、本来は、悪くないはずの国なのですよ。
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  1984年にわたしがフィリピンを訪れたのは、学生時代からの友人のビジネスを手助けするためでした。買いつけた物をコンテイナーで日本に送り出すための手続は、事実上すべてを日商岩井のフィリピン支社にやってもらったのですが、いくつかの書類には目を通しました。そのときに驚いたのは、書類一件に施されたサインの数です。その多さです。少なくとも10人近い役人がその書類を一度は手にとってみていたことが分かったのです。
  多すぎるほど雇っている役人たちに、仕事をしているふりをさせるためのサイン?
  あるいは、故意にサインを遅らせれば、仕事を急がせようというので贈られるかもしれない、賄賂、裏金を受け取る機会を多くの役人たちに分け与えるためのサイン?
  正直に言いますと、そんなことも考えたぐらいでした。
  当時、マルコス大統領の下で、この国は深刻な外貨不足に陥っていましたが、その原因が見えたような気もしたものです。
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  アキノ大統領の時代になってからは、役人たちの不正や汚職は減ってきている、アキノ大統領はクリーンだ、と多くの国民が感じているようです。しかし、ビジネスに関する手続進行の非能率ぶりはいまでも、世界の最低水準にとどまり、たとえば、アフリカの独裁国並みだということになると…。
  28年後のいまも、あのときわたしが感じた“賄賂・裏金”文化は残っているのでしょうか?
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