第305回  フィリピン 海外就労と貧困

  ウェブ新聞「フィリピン・インサイド・ニュース」(http://www.ph-inside.com/news/)が報じたところによると、フィリピン中央銀行は<2013年度のフィリピン人海外就労者によるフィリピンへの外貨送金額は251億ドルとなり、前年より7.6%増の、同行が統計を取って以来史上最高額を記録し、この額はフィリピンの2013年度国内総生産GDP)の8.4%を占めた>ことを明らかにしたそうです(【海外就労者(OFW)からの年間送金額 史上最高を記録】(http://www.ph-inside.com/news/board.php?board=news02&config=&command=body&no=257&)。  
  うーん。「フィリピンの2013年度国内総生産GDP)の8.4%」ですか……。相変わらず、ずいぶん大きな額ですね。
  しかも、<実際はOFW本人が帰国の際に持ち込む額、あるいは一時帰国するOFWに託して持ち込む、地下銀行を通じてなど、隠れた送金があって、一説には正規の額と匹敵、あるいはそれ以上といわれている>ということですから、その“産業”規模はやはり「それなしにはこの国は立ち行かない」レヴェルに達していると見るべきでしょう。
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  日本の外務省が発表している数字では、フィリピンの2012年の国民総生産は約2500億米ドル一人当たりでは2600米ドル総輸出額は521億米ドルとなっています。
  つまり、総輸出額とほぼ同等かそれを超える額の外貨が「海外就労者」から(公式ルートで)送金されているわけです。
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  一方、<フィリピン政府がOFW向けに設立した公的機関の海外雇用局(POEA)によると、2013年に出国した就労者は180万人>に上り、移民などを含めた<海外在住フィリピン人>はすでに<1千万人を超え>ているそうです。フィリピンの総人口は1億人強と推定されていますから、フィリピン人の約10パーセント、10人に1人が海外で働き、暮らしていることになります。
  マニラ首都圏の人口はおよそ1200万人。東京都が1300万人。……それに近い数のフィリピン人がこの瞬間も海外で働き暮らしているということです。
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  わたし自身の数少ない友人、知人の中からでも4人が中東などに“出稼ぎ”に行っています。「フェイスブック」などに彼らが掲載している写真を見ると、“出稼ぎ”先での暮らしはそこそこに楽しそうなのですが、Eメイルなどで彼らがわたしに訴えるのは「(家族や恋人などと離れての暮らしで)さびしい」「できることなら早くフィリピンに戻りたい」などということです。
  “フィリピン第一の産業”は、その多くが「自分たちの暮らしがそれで成り立つのなら海外に出かけては働きたくない」と感じている(建築現場労働者や看護師、家事手伝いなどとして働く)OFW(OVERSEES FILIPINO WORKERS=フィリピン人海外就労者)に支えられているわけですね。
  国内に強力な産業を新たに興して「海外就労者」への依存を減らしていくという姿勢を歴代のフィリピン政府は特には見せていませんから、(一国の経済実態としてはけっして健全だとはいえない)この状況はまだまだつづくのでしょうね。
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  ちなみに、<2013年度のOFWの主要な送金国は>というと<アメリカ、サウジアラビア、イギリス、アラブ首長国連邦シンガポール、カナダ、日本となっていて、アメリカは移民及び移住者、中東諸国はメイド、建設業が中心、シンガポールもメイド、日本は定住者が送金の主体となっている>そうです。
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  それだけ膨大な数のフィリピン人が海外で働くことになるのは、何といっても、外貨を稼ぐことができる“これ”といった産業が国内にないから。そのせいで、国内の貧困問題がなかなか解決しないから。
  「フィリピン・インサイド・ニュース」には「フィリピンの貧困率」に関する次のような記事もありました。
  <この貧困率というのはフィリピンの場合、2012年基準では1世帯(5人家族)当り、平均月額7821ペソ(約1万8千円)を得ている貧困ライン以下の国民の割合を指すが、この他に『極貧ライン』というのがあって、こちらは月当たり5458ペソ(約1万2千5百円)><2012年現在の貧困率は同庁発表では25%強となっている> 【『無理だ』と経済政策を正直に表明した 経済官庁責任者】(http://www.ph-inside.com/news/board.php?board=news01&command=body&no=317
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  「ウィキペディア」: <IMFによると、フィリピンの2011年のGDPは2131億ドルであり、福岡県とほぼ同じ経済規模である。一人当たりのGDPは2223ドルであり、世界平均のおよそ20%の水準である。2011年にアジア開発銀行が公表した資料によると、1日2ドル未満で暮らす貧困層は3842万人と推定されており、国民の40%以上を占めている>
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  アメリカの「貧困」規定と比較してみますと……
  【Federal Poverty Guidelines】(http://www.familiesusa.org/resources/tools-for-advocates/guides/federal-poverty-guidelines.html)<The new 2014 federal poverty level guidelines have been released (PDF). The federal poverty level for individuals living in one of the 48 contiguous states or the District of Columbia is now $11,670, and $23,850 for a family of four. Separate poverty guideline figures are developed for Alaska and Hawaii, and different guidelines may apply to the Territories.>
  アラスカとハワイ以外の州とワシントンDCでは、一人当たりの年収が1万1670ドル、4人家族なら2万3850ドル以下ならば「貧困層」に属するとされています。1世帯5人なら2万7910ドルです。
  一方、フィリピンの「1世帯(5人家族)当り、平均月額7821ペソ(約1万8千円)」というのは、単純に年額に直すと、9万3852ペソ(現在のレイトで約21万5900円=2100ドル)ですから、アメリカの2万7910ドルのおよそ7.6パーセントに当たります。……フィリピンの「貧困」の程度を推し量ることができますね。
  5人家族で月額7821ペソというのは、一人当たりの1日では、52ペソ=1.2ドル。アジア開発銀行がいうところの「1日2ドル未満」ということになります。
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  フィリピンが根本的な経済構造改革を必要としていることは誰の目にも明らかです。
  その改革が一代だけの大統領の手には負えないものであることも明らかです。
  海外への“出稼ぎ”に頼っているだけではいつまでもこの改革は実現しません。
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  マニラ首都圏では大規模なコンドミニアムの建設が盛んに行われています。海外に住んでいるフィリピン人が主な買い手だと見られています。つまり、国内に住んでいるフィリピン人による購買が産み出している“ブーム”だとは言えない、脆弱な“好景気”だ、というのが実状ではないかとも思われるわけです。
  だからこそ、どんな形にしろ、経済成長がつづいているいまのうちに、抜本的な経済改革にフィリピン政府は着手すべきです。
  IMF(国際通貨基金)に「国民の40%以上」が「貧困層」に属していると認定される国でいつづけてはなりません。
  富の偏在に慣れきっていては、国に明るい未来はありえませんからね。
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  (2月27日現在の交換レイト : 1ドル=¥102.21   P44.61   P1=¥2.29)
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  参考までに、フィリピンの昨年度までの1日当たりの最低賃金はどう規定されているかといいますと……<National Wages and Productivity Commission>
  マニラ首都圏なら 農業以外では429ペソ〜466ペソ、農業は429ペソ 
  首都圏の外は地域によって大きく異なりますが 農業以外では205ペソ〜349.5ペソ、農業は213ペソ〜324.5ペソ
  最も高額に定められているマニラ首都圏の農業以外での賃金は466ペソ、およそ1070円となっています。自分がもらっている時給に近い額だ、と感じる日本人も多いはずです。
  一方の最低額は205ペソ、およそ470円(4.6米ドル)。山間農村部での暮らしの厳しさがここからも知れますね。
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  2014年03月05日  「しんぶん赤旗」より 
          
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