第336回 一世代で貧困から脱却か フィリピン

  フィリピンのマカティ市内に住み始めたのは2006年の5月のことです。
  それからあまり時を経ないうちにわたしは、この国のビジネスセンターの活気あふれる景観を自宅コンドミニアム・ユニットの窓から見る限りでは、フィリピンでの暮らしはかなり興味深いものになりそうだ、と感じるようになりました。
  “このアジアの、いわゆる後発国は、経済的にこれからどう成長していくのか−−”
  さて、そんな景観の中に、ちょっと気を引きつけられる建物が一棟ありました。わたしのコンドから遠くないところにある、建築途中で打ち捨てられた状態になっていた8−9階建てのビルディングでした。
  ガソリンやディーゼルの排気のせいか、すっかりくすんでしまったブロック壁。錆びきったようにしか見えない、むき出しの黒っぽい鉄筋。−−建物のすべてが朽ちかけているように見えたものです。
  建築中に資金が切れてしまっていたのでしょうね。
  その建物は、その後も、手がつけられないまま、ずっと放置されていました。
  ところが、昨年の秋。その建物に再び工事の手が加わり始めたのです。すでに10年間以上は見捨てられていたはずだし、遠目には、もう取り壊さないとそのどこかが崩落し始めるのではないかとさえ見え始めていた建物に。
  フィリピン経済の成長はここまで来たのかと、改めて思わずにはいられませんでした。
  長く打ち捨てたれていたこの建物にさえ追加投資をして近ぢか収入を得ようという者が現れたのです。
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  TERESA CEROJANO という人が Associated Press(AP通信)にこんな記事を書いていました。
  【World Bank: Philippines can end poverty within a generation 】 JAN 14, 2015
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  MANILA, Philippines (AP) The World Bank said Wednesday the Philippines can eliminate poverty within a generation as sustained economic growth in recent years has translated into more jobs and higher incomes.
  世界銀行が水曜日(14日)、近年の経済成長が仕事を増加させ所得を上昇させることにつながれば、フィリピンは一世代のうちに貧困をなくすことができると述べた。
  The bank said in a report that more than a million jobs were created between October last year and October 2013, pulling unemployment down to a 10-year low of 6 percent.
  世界銀行の報告書によると、フィリピンでは2013年10月から昨年10月までのあいだに雇用が100万件以上増え、失業率も過去10年間で最低の6パーセントまで下がっている。
  Real incomes of the bottom 20 percent of Filipinos grew much faster than the rest of the population and unemployment among the poor dropped. The government's program of conditional cash transfers is effective in reaching those most in need, the report said.
  フィリピンの下層20パーセントに属する人びとの実質収入の伸びは他の階層よりもうんと速く、貧困層の失業率も下がっている。報告書は、フィリピン政府による条件付現金配布政策が効果的に貧困層に届いていると伝えている。
  Poverty has remained at high levels in the Philippines relative to some East Asian countries, reflecting a succession of corrupt governments in past decades and the country's vulnerability to natural disasters including typhoons.
  フィリピンの貧困度は、過去数十年間にわたる歴代の腐敗政権と、台風を含む自然災害への脆弱さのせいで、他のいくつかの東アジア諸国と比べれば、高いところにとどまってきた。
  The bank forecasts the Philippine economy will expand 6.5 percent this year, slightly down its earlier forecast of 6.7 percent. It estimated full-year growth last year at 6 percent, down from an earlier forecast of 6.4 percent due to slower government spending and lower farm production.
  同銀行の見通しでは、フィリピン経済は、6・7パーセントという以前の見通しよりは低いものの、今年6・5パーセントの成長を見せる。昨年一年間の成長率は、前の予測の6・4パーセントよりは低く、6パーセントになると見られているが、これは政府による財政支出が遅れがちだったことと農業生産が少なかったことによる。
  It said sustaining such high growth and accelerating reforms can lead to massive cuts in poverty and to wealth being shared by more people. Government data shows that about a quarter of the country's 100 million people have income of less than 18,935 pesos ($1,290) a year.
  いまの高成長がつづき、改革が加速すれば、フィリピンは貧困を大幅に削減し、富をもっと多くの人びとに分配することができる。政府資料によれば現在、フィリピンの人口1億人のうちの四分の一は18、935ペソ(1,290米ドル=約155,000円)以下の年間収入で暮らしている。
  "If growth is sustained at 6 percent per year and the current rate at which growth reduces poverty is maintained, poverty could be eradicated within a single generation," said Rogier van den Brink, a World Bank economist.
  「もし年間成長率が6パーセントに維持され、貧困がいまの割合で減っていけば、フィリピンの貧困は一世代のうちに根絶されうるだろう」と同銀行のエコノミスト、ロジエール・ヴァン・デン・ブリンク氏は述べている。
  Over the long-term, if growth is sustained at 6 percent per year, per capita income can double within a decade, grow five times in two decades, and increase 11 times in three decades, the report said.
  長期的には、もし年間成長率が6パーセントに維持されれば、一人当たりの所得は10年以内に二倍になり、20年後には五倍、30年後には十一倍になるだろうと同報告書は見ている。
  But it said a more aggressive approach to addressing stubbornly high underemployment in required.
  ただし、報告書はまた、引きつづく高い失業率に手を打つ積極的な対策が求められるとも述べている。
  The report said changes needed include increasing investments in infrastructure, health and education; enhancing competition; simplifying regulations to promote job creation and protecting property rights to encourage more investments.
  社会的基盤や健康、教育への投資増加、競争の推進、雇用創造のための規制簡略化、投資増加を促すための財産権の保護などの改革が求められると同報告書は指摘している。
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  マカティに住み始めてからやがて9年になります。超高層ビルが次つぎと建てられています。道路上にはブランドニューの自動車があふれるようになっています。インフラストラクチュアーの工事がいたるところで行われています。大型のショッピングモールがあちこちに新設されています。
  さて、これから10年後。この国はいったいどんなふうになっているのか?
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