第248回 ついに想像力も枯れ果てて…

  【日本の労働力、2030年に950万人減 厚労省試算】(2012年7月23日 朝日新聞
  <少子高齢化への今後の政府の対策がうまくいかないと、2030年の労働力人口は10年の約6630万人から約950万人減る、との推計を厚生労働省が23日まとめた><労働力人口は15歳以上で、働いているか、働く意思はあるが失業中の人の数を示す。国立社会保障・人口問題研究所が5年に1回見直している将来推計人口をもとに、失業率などを推計して厚労省の雇用政策研究会が試算した><厚労省の推計では、労働力人口は、経済のゼロ成長が続き、若者の就労支援や高齢者の就業促進などの施策の効果がまったくない最悪のケースだと、20年は440万人減の6190万人、30年は5680万人になると見積もった>
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  厚生労働省がまとめる資料や情報を信じる者も、やはり、いないのでしょうかね。自分が主張したいことだけに縋りついて、ほかの誰かが言うことにはだれもちゃんと耳を傾けない国に日本はなってしまっているのでしょうかね。
  推計だとはいえ、「2030年の労働力人口は2010年のそれから950万人も減る」というのですよ。そのときの日本の経済・財政力への悪影響を考えると、これはただちに深刻に受けとめられるべき数字だと思えるのですが、政界ででも、官界ででも、報道界ででも、だれもまともには反応していないようです。
  想定される事態について危機感を抱く者がだれもいないということは、早めに手を打とうとはだれもしないわけですから、つまりは「経済のゼロ成長が続き、若者の就労支援や高齢者の就業促進などの施策の効果がまったくない最悪のケース」には現実味があるということになります。
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  上の推計が発表されてからきょう(8月11日)までに政界がやってきたことは、相変わらずの政党間の駆け引きだけではありませんでしたか?「消費税」「社会保障」「一体改革」「内閣不信任案」「首相問責決議案」「近いうちの衆議院解散」
  厚生労働省(官界)は「最悪のケース」を避けるための試案を描き出しましたか?「俺たちは“推計”を提出した。あとは国会で」
  報道機関は、上の推計が持つ意味を国民に正しく伝えようとしましたか?「いや、いまはオリンピック報道に絞り込んでいないと、購読者数が減って(視聴率が下がって)しまう。政局の動きを追うだけで手一杯でもあるし…」
  労働力人口の減少については、みんなが知らんふり。
  というよりは、もっと恐ろしいことに、そのことに正当な危機感を抱くだけの想像力が日本人全体からなくなっているのかもしれませんね。
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  消費税の引き上げには(次の選挙で落選しない=負けないように、有権者の不満におもねって)反対する者が、それに相当する財源の捻出方法については、卑怯にも、いっさい語らない。
  デフレのときに消費税を引き上げるなどモッテノホカだ、まずは景気をよくしなければ、という“物知り顔”が、実は、すでに破綻している財源のバラマキ=財政赤字の拡大以外には、その景気“回復向上策”を持っていない。
  消費税率の引き上げが可能になりかかってくると、政府・民主党の多くの政策をバラマキだと大声で非難していた政党が(選挙区や業界への“出血大サーヴィス”こそが自らの政党生き残りのための最善の策だとばかりに)たちまちのうちに、独自の公共事業大拡大案を公表する。
  “脱原発”へ基調を変更しているかのように振舞っていた政府・民主党が(全国的な漠然とした“民意”だけでは集票できない。頼りになるのは、やはり、カネを集めてくれる産業界と、カネを回せばおとなしくなってくれる地方自治体だと“センゾガエリ”して)恥知らずなことに、原発有用論に戻ってしまう。
  最高裁判所が何をどう解釈しようと、ふつうの感覚の持ち主には(特に衆議院での)“一票の格差”はあまりにも明白であるのに、つまりは、住む地域によって、おなじ日本人の投票権が不当に不平等になっていると見えるのに、既得の権益を守りたいだけの国会議員たちは、是正することを長年にわたって拒否しつづける。
  TPP(TRANS-PACIFIC STRATAGIC ECONOMIC PARTNERSHIP AGREEMENT 環太平洋戦略的経済連携協定)への参加をどうするかについて、参加すれば日本の農業がつぶれる、一方で、参加しなければ日本の産業界が衰退する、さあ、どうするか、というところで、一切の思考をとめてしまう。
  政界がこんなふうに目先のことしか考えないから、あるいは、目先のことしか考えない政界を見慣れすぎているから、日本人全体が、将来を正しく見通す力をなくしてしまう。将来を正しく憂える能力を枯れさせてしまう。
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  労働力人口が6630万人から950万人(約14パーセント)も減ってしまう、というのですよ。
  上の推計には書かれていないようですが、減った労働力人口の中身はどうなっているでしょう?当然なことに、全体としての人口構成とおなじように、高齢者の割合が高く、いきのいい若年労働者が少ない形態になっていることでしょう。
  少子高齢社会では、厚生労働省がいっている「経済のゼロ成長」さえ“達成”できないはずです。
  だれが日本の産業力を維持し、高齢社会を支えるのでしょう?
  ほんの18年後のことですよ。
  逆に、2012年の18年前といえば、1994年。いわゆる“バブル”景気に穴が開いて、日本は経済・財政面で転落への道を転がり始めていましたよね。でも、これという手をだれも打ちませんでした。さて、現状は?
  2030年はそんな先ではありません。
  想像力を回復しましょう。それが難しいということであれば、せめて、必要なだけの危機感を抱ける人間になりましょう。
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  政争に明け暮れることを政界にやめさせることから始めませんか?
  「決められる政治」も当然に必要なのですが、いま真に求められているのは「先を見る政治」だと思います。先が見えれば、自然に、いまは何を決めるべきかが分かってきます。
  愚かで怠惰な政界に日本を滅ぼさせてはなりません。
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