第199回 決死隊 あなたが隊長になったら、小沢さん

  小沢一郎という人物が現代の日本政界で稀代の大物とみなされている理由がまったく分かりません。
  下の記事を見てください。
  <<菅降ろし、当面控える…小沢・鳩山両氏が一致>>(2011年5月1日13時28分)読売新聞
  <民主党の鳩山前首相と小沢一郎元代表が4月29日夜、都内のホテルで会談していたことが30日、わかった><会談では、小佐古敏荘・東大教授が政府の東京電力福島第一原子力発電所事故の対応を批判して内閣官房参与を辞任したことなどに関し、「政府の原発対応は問題だ」との認識で一致した。ただ、「党内が分裂しているように見られるのは良くない」として「菅降ろし」の動きは当面控えるべきだとの考えでも一致。元代表は「これから何がえるできるかじっくり考える」と述べたという>ことです。
  「党内が分裂しているように見られるのは良くない」「〔菅降ろし〕の動きは当面控えるべきだとの考えでも一致」したのですって!
  いまさら、というのはこういうことを指して使う言葉だと思います。こんなにも当然なことがここ(4月29日になる)まで理解できなかったことを小沢氏は心の底から恥じるべきだとは思いませんか?
  まっとうな考え方をする政治家、いえ、人間ならば、「当面控えるべきだ」ぐらいのことには初めから思い至っていたはずですよね。
  こんな程度の、自己中心の政局認識で大物政治家ぶってるんですよ、この壊し屋氏は!
  地震津波原発事故が連続して発生したあとに小沢氏が行ったことは、この大災害を利用して、まずは民主党内で、自分の政治生命を復活させようという、ということだけだったようにしか見えません。
  岩手にも行った?それは、そこには自分の選挙区があって、子分や支持者も多いから、だったのでしょう?何か高尚なヴィジョンを国民に示すための訪問だったというような報道はありませんでしたよね。
  小沢氏の実行力を評価したり、それに期待したりする勢力も小さくはないようです。ですが、過去の数年間に小沢氏が現実に世に示した実行力にはいったいどんなものがありました?
  のちに民主党をいまのような惨めな状態に落とし込んだということを除けば、大勝利したあの衆議院銀選挙で掲げたマニフェストのとりまとめぐらいではありませんか?
  しかも、そのマニフェストの中の子供手当てにも高速道路無料化にも、高校無償化にも、国民の過半数は反対してましたよね。
  あの選挙に民主党が勝ったのは俺の力、俺の戦術があったからだと小沢氏は思っているのでしょうが、はたして、そうでしょうか?国民の大多数がただ、もう自民党はいやだ、と考えたからだったのでは?
  「これから何ができるかじっくり考える」と言った小沢氏は翌30日になると…。
  <<原発は「政治決断で決死隊を」 民主・小沢氏が対応批判>>(2011年4月30日 21時58分)共同 東京新聞
  <民主党小沢一郎元代表30日夜、自身に近い衆参国会議員約20人と都内で懇談した。出席者によると、福島第1原発事故に関し「根本的な対策を取らなければ大変なことになる。決死隊を送り込んで完全に抑え込まなければならない。政治が決断することだ」と指摘したという><同時に菅政権の原発対応を「原発は安定していない。爆発しないようにしているだけで放射線を垂れ流している」と批判した>ということです。
  この記事からも、小沢一郎という人物の頭が正常に働いていないのは確かだと思えます。
  「決死隊」ですって?
  いえ、「大変なことになる」前に「完全に抑え込まなければならない」ということに異論がある者はいないはずです。
  ですが「決死隊」?
  その「決死隊」をどういう人たちで結成しろというのでしょう、小沢氏は?
  通産省経済産業省原子力関係官僚?原子力安全委員会の役人?まさか?そういう人たちには、そうですね、たとえば、コンクリートをちゃんと混ぜ合わせることもできませんよね。
  では、東京電力あるいはその子会社の社員?東電が契約している人材派遣会社が集めた臨時労働者?
  もし、そうだとしたら、実際に現場で作業を行うそういう人たち、民間人に「被曝死を覚悟して、放射線の垂れ流しを止めてこい」と政治あるいは政治家が命令できる、と小沢氏は本気で信じているのでしょうね?
  信じているとしたら、どんな根拠があって?
  思い出してください、福島第一原子力発電所で最初の水素爆発が起こったあとに自衛隊が行った、あの「ヘリコプターによる放水作業」がどれほどひどい及び腰だったかを。自衛隊は、事前の放射線量検査を徹底して行ったあとでも、ヘリコプターを二機出しただけで、それも、それぞれがほんの二回放水したあとにさっさとあの作業を放棄してしまいましたよね。効果がない、と判断されたためだと報じられましたが、その放水効果を少しだけでも上げるために原子炉建屋の上でヘリコプターがホヴァーリングすることもありませんでした。つまり、日本と日本国民を、生命を賭してでも、守る責務があるはずの自衛隊ですら、その隊員などに、死んでもいいという覚悟で、効果が上がる放水をしてこい、とは命じなかったのですよ。
  いや、もしかしたら、小沢氏は、その自衛隊に、つまりは、原子力原発のことに関する知識が乏しい自衛隊員に「決死隊」として事故を「抑え込ま」せようと考えているいるのでしょうか?そういう作業を行うようにと自衛隊員に命令すべきだというのでしょうか?
  そもそも、小沢氏は、その「決死隊」を送り込めば原発事故を完全に抑え込める、という思い込みをどこから得たのでしょう?「爆発しないようにしているだけで放射線を垂れ流している」だけの原子力安全委員会、安全・保安院、東電などが知らない抑え込みのノウハウを小沢氏はひそかに持っているのでしょうか?
  前の対中国、対米戦争で、十分な武器弾薬と食料を持たせずに、戦略もあやふやなままで、おびただしい数の兵を前線に送り出し、死なせた日本軍幹部と小沢氏はどこか違っていますか?
  精神主義でこの原発事故が収束するとはとても思えません。
  この「決死隊」論は、実に小沢氏らしい、根拠が欠ける、目立ちたがりの、無謀な「指摘」です。
  小沢氏には自己中心の誇大妄想癖があるのではないかと改めて疑い始めています。
  いえ、小沢氏に言われなくとも、おそらくは、ほとんどの日本人が、福島第一原発の状態が悪化して「大変なことになる」のではないか、と恐れているはずです。
  しかし、この段階で、日本の原子力産業の技術力を詳細に検討、検証することもなく、つまり、いまの日本に何ができるのかを冷静に見つめもせずに、思いつきで、「決死隊」として誰かを原発事故の現場に送り込めというような発言を軽々しく行うことにどんな意味があるのでしょうか?
  自分がその隊長を務めるというぐらいの覚悟を持って口にした「指摘」だとはとうてい思えません、この小沢発言は。