第202回 野球場の距離表示からでも始めますか

   野球というのはおかしなスポーツですよね。だって、ホームランや安打の数を一本ごとに、打率や防御率を何厘何毛まで、それぞれ細かく競うくせに、球場ごとに、ホームプレイトから外野ウォールまでの距離が違っていても、また、ファウルフライのテリトリーの広さが異なっていても、それはかまわないことになっていますからね。球場の形によっては、打者に有利だったり投手に有利だったり、右打者よりは左打者の方がホームランが打ちやすかったりするはずなのに…。 
  さて、そこで…。日本のプロ野球の球団が本拠地にしている球場のうちのいくつがホームプレイトと両翼・センターのウォールまでの距離を明示しているか知っていますか?そんなことは気にしたことがない?マニラでも見られるNHK国際放送のプロ野球中継やスポーツニュースの映像から推察する限りではほとんどないようですが…?
  ちなみに、大リーグの本拠地球場でその距離が示されていないところをわたしは知りません。いや、大リーグの球場には、日本の大方のものとは違って、ボストン・レッドソックスのフェンウェイ・パークやサンフランシスコ・ジャイアンツAT&T パークのように、球場の形がいびつなものも少なくはありません。ホームプレイトから左翼と右翼の端までの距離が大きく異なっているだけではなく、その両翼間のウォールまでの距離も、あそこでは長くここでは短く、でこぼこに造られているという具合に。ところが、それでも、距離表示はそのいびつな形状に合わせてちゃんとされているのですよね。
  日米間のこの違いはどこから来ているのでしょう?
  日本とアメリカでは情報というものへの考え方が根本的に違っているのだと思っています。
  アメリカ人、少なくともアメリカの野球ファンは、おそらくは、野球というスポーツは一本、一打、何厘何毛を競うものだから、戦う場の形状がそれぞれに異なっているからには、その違いを明示して、つまりはできるだけ正確な情報をフェアに提供して、ファンに了解、納得してもらうべきだ、と考えているのです。ファンの方も、フェアな情報なしには野球が十分には楽しめない、と。
  日本はどうでしょう?プロ野球球団はなぜ、本拠地の外野ウォールの距離表示をさけるのでしょう?
  自分の球場の、ホームプレイトから外野ウォールまでの距離があまりにも短くて、野球ファンを騙しているようで、恥ずかしいから?事実をちゃんと見つめて対処しようとしない、実にみみっちい考えですね、そうだとすると。
  まさか、ウオールに広告を出すスポンサーの数を増やしたいから、ではないでしょうね?
  とにかく、その理由や動機はどうであれ、正しく詳細な情報を野球ファンに提供してファンに楽しんでもらうという第一義のサーヴィスを日本のプロ球団が忘れきっていることは明らかだと思われます。いや、熱心なファンにとってはそんな距離情報が重要なのだという認識がそもそも球団側にはないのだ、というのが正しい分析なのかもしれませんね。
  一方で、ファンの方も、距離表示がないことに抗議することはありません。だれかが抗議したというような報道に触れたことはありません。距離表示は、平均的な日本の野球ファンにとっても、重要な情報ではないのでしょうね。球団もファンも、そこまで追い求めることなく、「まあ、いいか」「そんなもんかな」などというところで思考を止めしまって?
  戦後の日本の歴代政府はみな、アメリカ政府の言いなりになってきた、という政治史観がありますよね。でも、はたしてただただ「言いなり」だったのでしょうか?そうではなくて、アメリカ政府とのさまざまの交渉・議論で日本政府は論理的に負けつづけてきたのではないでしょうか?情報は貴重な道具・武器だと考えるアメリカ政府の理詰めの議論に、あいまいさによる統治しか知らない日本政府は、ほとんどの場合で、太刀打ちできなかったのではないでしょうか?
  福島第一原子力発電所の事故をめぐる情報伝達には大きな問題がある、と日本人の大半は感じているようです。
  <<異なる発表、訂正いくつもあった…首相が陳謝>>(2011年5月31日 読売新聞)という記事の中にこんな個所がありました。
  <菅首相は31日の衆院東日本大震災復興特別委員会の集中審議で、東京電力福島第一原子力発電所事故でのメルトダウン炉心溶融)判明や海水注入を巡る情報の混乱などについて、「明らかに以前の発表と異なる発表、訂正がいくつもあった。最高責任者として痛切に反省し、おわびしたい」と述べ、陳謝した>
  自民党をはじめとする野党各党はこの「情報の混乱」を理由の一つとして内閣不信任決議案を国会に提出するようです(フィリピン時間 6月1日午前8時現在)。小沢一郎民主党代表とその一派も不信任案に同調するものと見られています。
  でも、待ってください。
  国民にとって、今日、ただいま、その「情報の混乱」の最たるものは、不信任決議案を提出し、それが可決されたあとにだれが何をどうするかを、自民党公明党も、小沢氏も、だれ一人として明確には述べていないことなのでありはしませんか?
  菅政権の地震津波原発事故への対応は曲がりなりにも継続して行われていますよね。なのに、今後に関する何のヴィジョンも方策も示さない野党や小沢氏の一派がそれに取って代わる?そんなことになったら、いまの混乱が増幅されるだけでしょう?
  現政権程度にも事後が見えていないのに不信任案をいま提出しようというのは、己を知らない、国民を愚弄する、実に無責任な動きです。大義がまったくない選択です。自党、自己の利得だけに関心がある我利我利亡者だけが思いつく愚かな政治行動です。
  問題の核心は、野党と小沢氏一派は、反政府の姿勢を鮮明にすることはできても、菅降ろしが成功したあとのヴィジョンや方策がないことがいかに間が抜けたものであるかに気づいていない、というところにあります。自分たちのが発している情報が大きな欠陥品であることを彼らは知らないのです。ちょうど、ホームプレイトから外野ウォールまでの距離を示さないことが実はいかにプロ野球の面白さを損なっているかにプロ球団が気づかないように。
  恐ろしいことに、日本の政治指導者たちの知性や理性というのは、日本人全体のそれをそのまま反映して、その程度なのです。
  「明らかに以前の発表と異なる発表、訂正がいくつもあった」というのも当然だと思えます。なぜなら、野党や小沢氏一派がそうであるように、政府にも原子力安全・保安院にも、東京電力にも、いま発するべき情報が何であるかが分かっていなかったでしょうからね。物事をそういう視点から見る習慣がなかったはずですからね。
  どんな情報をだれのためにいつ発信するか…。何がいま一番大事なことか…。
  「日本語が劣化している。その劣化した日本語を使う日本人の思考能力が衰えている。日本人は物を論理的に、筋道をちゃんと立てて考えることができなくなっている」
  「苦言熟考」が言いつづけてきたことです。
  あいまいな思考や論理、情報で良しとする日本人の態度が日本を危うくしています。
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  時事(2011/08/18-20:21)<<海外への通報「認識なかった」=低レベル汚染水放出で−保安院>>
  <東京電力福島第1原発事故で4月、比較的低レベルの放射能汚染水を海に放出した際、近隣諸国への通報が遅れた問題で、経済産業省原子力安全・保安院の深野弘行院長は18日の会見で、「(当時は)混乱しており、外国への通報に十分思いが至らなかった」と述べた。保安院内で当時、海外を含め外部への通報の必要性を認識していなかったことが明らかになった>
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  ちゃんとした距離表示を球場にするようにプロ野球球団に要求すことからでも始めましょうか。そんなことでも日本の凋落を食い止める助けに少しはなるでしょうから。
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  ボストン・レッドソックスの本拠地 フェンウェイ・パーク http://www.ballparks.com/baseball/american/fenway.htm
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  第192回 小沢さん、鳩山さん、もう消えてください http://d.hatena.ne.jp/kugen/20110307/1299468431 (2011年3月7日)
  第185回 鳩山さん 無責任男はもういらない  http://d.hatena.ne.jp/kugen/20110104/1294121809 (2011年1月4日)
  第176回 鳩山さん、恥ずかしくないのですか? http://d.hatena.ne.jp/kugen/20101030/1288411850 
(2010年10月30日)
  第170回 知っています?「筋」って言葉?小沢さん http://d.hatena.ne.jp/kugen/20100902/1283388618 (2010年9月2日)
  第169回 「歓迎“壊し屋”小沢一郎」  http://d.hatena.ne.jp/kugen/20100822/1282426632 (2010年8月22日)
  第152回 小沢色を払拭しなければ  http://d.hatena.ne.jp/kugen/20100323/1269338788 (2010年3月23日)