第153回 付録  “優柔不断”の“成果”

  <米軍普天間飛行場移設問題で、政府は、沖縄県名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブ沿岸部に建設する代替施設の工法を「埋め立て方式」に戻す方向で最終調整に入り、米政府側に伝えた> 読売新聞 2010年5月19日

          −
  
 アメリカ軍普天間基地の移設をめぐる鳩山首相の“のらりくらり”と“優柔不断”は、結局のところ、アメリカ政府との協議・交渉を日本の有利へと導くための意図的な作戦ではなかったことが「学べば学ぶにつけ、(海兵隊の部隊が)連携し、抑止力が維持できるという思いに至った」という発言で最終的に明らかになりました。
  鳩山首相という人物は、もともとは、その過剰な敬語・謙譲語の使用からも推察できるように、この上なく“愚直”な人物だと思えます。ですが、米軍の抑止力をこのように、たいして深く検討したあとも見せずに認めてしまっては、身も蓋もありません。これでは“愚鈍”の領域に達しています。この発言で、対米協議・交渉の技術面での切り札をあっさりと放棄してしまったのですから。
  この“愚鈍”さをこれでもかとばかりに大衆の目にさらしているのは、首相側近の、論理的で建設的な思考ができない、首相にも勝る愚か者たちです。普天間基地の移設に関する首相の理想論を実現可能な政策へと結実させようと努めた側近は一人もいなかっただけではなく、彼らは、“愚鈍”な鳩山首相が、自分の意図とは無関係にではありますが、とにかく達成した重大な“成果”にもまだ気がついていません。その成果を最大限に活用すべきだとは考えていません。
  日本の大新聞がようやく、沖縄県民が言う「沖縄差別」に言及し始めました(2010年5月13日 朝日新聞)。<普天間に限らず、米軍基地そのものが沖縄には不要なのだ。沖縄の苦しみ=過剰な負担を分かち合おうとしない本土にはまだに沖縄差別の気持ちがあるのだ>という意見が沖縄で高まっているという、沖縄県民に同情的な記事です。大新聞はこれまで、鳩山首相民主党の混迷をあげつらうだけで、自民党長期政権と本土国民が沖縄県民に長年にわたって、不公平な、大きな苦しみを押しつけて平然としている事実には知らぬ顔を決め込んできていました。自民党の機関紙なみの報道しかやってきていませんでした。ですから、大新聞のこの変化は大きな進展です。
  鳩山首相が達成した重大な“成果”というのはこのことです。つまり、沖縄県民の心を、結果として<基地はいらない>と再びまとめ上げたことです。(沖縄の負担を軽くするために関西も何かするべきだと発言し始めた橋下大阪府知事を稀な例外として)本土の国民がいかに利己的であるかをすっかり明らかにしたことです。
  普天間基地の移設に関する対米協議・交渉は今後、この<沖縄県民の心>を中心にすえて、それを切り札として行われれなければならなりません。「5月末決着」にこだわる必要はありません。<沖縄県民の心>に誠実に応える−それが民主党=本土政府の責務です。