第360回 「反日」はこんな形で四半世紀前にもあった

  「反日」といえば、いまでは主に中国と韓国の、政府の対日姿勢と国民の感情について語られることがほとんどですが、25年=四半世紀前にはいまよりも露骨に「反日」キャンペインを展開した国がありました。
  覚えていますか?
  「亡国好戦法」を理不尽・卑劣なやり方で“成立”させ、アメリカ政府への「朝貢外交の深化」(と日本の「再大日本帝国化」)に向かって突き進む安倍晋三首相と自民党(さらには公明党)の国会議員たちの記憶からは消えているようですが、それはアメリカでした。
  当時は、アメリカが世界で最大の「反日」国だったのです。
  1990年7月23日の加州毎日新聞のコラム「時事往来」に書いた【反日広告】というコラムを読んでください。
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  =加州毎日新聞(California Daily News)は1931年から1992年までロサンジェルスで発行された日系新聞です=
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  「いまから数年後のことを想像してください。十二月。家族がうち揃って大きなクリスマスツリーを見に行く。“ヒロヒト・センター”に立てられたツリーを…」という言葉が流れるテレビ広告がニューヨーク都市圏で放送されているそうだ。広告は「どうぞ、日本製自動車を買いつづけてください」との声が聞こえたあと、「もうたくさんだ」という白い文字が黒いスクリーンに浮かび上がるという作りになっているという。
  自動車会社GMの<ポンティアック>部門の販売部門が流しているCMだ。五本製作されたCMはすべて、その「もうたくさんだ」のメッセージで終わるらしい。
  『ニューヨーク・タイムズ』(七月十一日)に、日本人やその文化を攻撃する広告が米国で増加している事実を報告する記事があった。書いたのはランドール・ローゼンバーグという記者だ。
  同記者によると、日本車の進出で苦境に立たせられている自動車販売会社が地方のラジオ・テレビ局、新聞や雑誌などで展開する広告に反日的な内容が多いという。
  おなじくニューヨーク地区で流されている自動車販売会社の広告に、米国人と日本人の身長差を露骨に比較するものがあるそうだ。この広告は<カトラス・シエラ>を売り込むために<トライスター・オールズモービル>の販売会社が流しているもので、「われわれの車が“日本人の”ではなく、米国人の家族サイズに合わせて造ってあるのはそのためです」と、日米の身長差を強調しているとのことだ。
  一方、情報化する社会に立ち遅れまいと、自社の活動を自由にするための法案の議会通過を狙って、電話会社<ベル>がこの春新聞に出した意見広告はこうだった。「最初は消費者向け電気製品だった。次は自動車産業。われわれ電話通信産業がこれにつづくのでしょうか」という文章があって、その下には、すぐにも飛び掛りそうに腰を低く身構えた厳めしいサムライの写真が添えてあったという。
  この新聞広告は、在ワシントンの日本大使館が苦情を申し入れたために、その後、掲載が中止されているそうだ。
  GMの広告責任者フィリップ・アラスシオ氏は、反日広告には直接触れないながらも、「比較広告を打つときは、消費者のニーズを考慮した基準というものがある。消費者のニーズというのはだいたい肯定的であり、そこからあまり離れては、危険を冒すことになる」と述べ、露骨な反日広告の効果に疑問を表明している。
  反日広告が始まったのは昨年冬からだといわれる。「米国車の品質は日本車に劣っていない」ということを信じようとしない米国の消費者に不満を表明したクライスラーアイアコッカ会長の一連の広告がその始まりだとされている。だが、クライスラーのこの広告はいちおう、日本車の品質を認めたうえで製作されており、日本人や日本文化に言及するものではなく、その意味では反日の度合いは小さかった。
  反日広告が危険なのは、ごく普通の米国人の意識の中に、それと気づかれることなく、特定の、ゆがんだ日本像が築かれるからだ。
  ローゼンバーグ記者は、学者の意見だとしながら「これらの(反日)広告に見られる図式と感情は、第二次世界大戦時の米国文化の中にあふれた反日的な日本像に不快なくらいよく似ている」と指摘している。
  『ロサンジェルス・タイムズ』が十六日の社説で、海部首相が先ごろ発表した<日米コミュニケーション改善構想>について「日本はイメージの問題だけではなく(コメ市場を開放するかどうかなどという)現実の問題も抱えているのだ」と述べ、イメージ改善には実際の行動が伴わなければならない、と厳しい注文をつけていた。
  日本政府の対米政策のまずさが、これらの反日広告の登場を許しているという一面も否定できない。
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  「貧すれば鈍する」国=いまのアメリカには表立った「反日」キャンペインを展開するだけの活力が国自体にも民間にもありません。
  残っているのは、アメリカ政府が抱く「まだ存在している自国軍事力の優位さを武器に日本を“子分化”しよう」という強い願望・欲望だけだと見受けられます。
  安倍自民党政府は、日本の立憲主義・平和主義を自ら破壊してまで、アメリカ政府への「機嫌取り」へと舵を切りました。
  ロサンジェルス・タイムズ紙が25年前に書いた「日本はイメージの問題だけではなく(コメ市場を開放するかどうかなどという)現実の問題も抱えているのだ」という意見、つまり「イメージ改善には実際の行動が伴わなければならない」という指摘に、いま、安倍自民党政府は「コメ市場を開放する」以上の、最大級の“譲歩”=日本の軍国化で応えたということです。
  「貧すれば鈍する」アメリカが行う現代の「反日」キャンペイン=「カネも出せ・兵も出せ」に安倍自民党政府は(日本の「再大日本帝国化」という野望を裏に隠しながら)完全に屈服して見せたわけですね。
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  四半世紀後。陰湿度を増して(主に「親日派」であることを自称する人々によって陰で)展開されている「カネも出せ・兵も出せ反日キャンペイン」が安倍自民党による日本国憲法破壊を下支えしているという事実を、日本国民は決して見逃してはなりません。
  対米追随「亡国好戦法」を早急に廃止しないと、「貧すれば鈍する」=外交に“陰湿度”を極めつつあるアメリカ(と「再大日本帝国化」の野望実現に向かって盲進する安倍自民党)によって日本はとてつもない不幸な事態に直面させられることになるでしょう。
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  [12月24日 追加] 【「オキナワへの侮辱」 ケネディ大使「辺野古が最善」発言】 東京新聞 2015年12月24日 (http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201512/CK2015122402000113.html
  <声明は「計画に激しく反対してきた沖縄の圧倒的多数の人々に対する脅威、侮辱、挑戦であり、同時に法律、環境、選挙結果を恥ずかしげもなく軽視する行為だ」と非難。「米国政府が、沖縄市民の自己決定権や健全で安全な環境で暮らす権利を含む基本的人権を否定することをやめるよう米国市民として強く求める」と訴えた>
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[12月29日 追加] 【辺野古移設 米国からも反対 地方議会で決議広がる兆し】 東京新聞 2015年12月28日 (http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/list/201512/CK2015122802000101.html) <米軍普天間(ふてんま)飛行場(沖縄県宜野湾(ぎのわん)市)の移設に伴う名護市辺野古(へのこ)の新基地建設に反対する決議を採択する動きが、米国の地方議会で広がりだした。カリフォルニア州のバークリー市議会に続いて二十一日には、東海岸マサチューセッツ州ケンブリッジ市議会が反対を決議>
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