第306回 そんな二枚舌は通用しません 官房長官

  【米紙「安倍首相は南京事件を否定」菅長官が抗議】という記事がありました(2014年3月5日 読売新聞http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20140305-OYT1T00206.htm
  <菅官房長官は4日の記者会見で、安倍首相が南京事件を否定していると報じた米ニューヨーク・タイムズ紙の2日付の社説(電子版)について、「著しい事実誤認が含まれている」と批判するとともに、同紙に抗議したことを明らかにした><菅氏は「首相がそのような発言をしたことはない」と反論。「日本政府の基本的な立場は、1937年の旧日本軍による南京入城後、非戦闘員の殺害、略奪行為があったことは否定できないというもので、安倍政権も全く同じ見解だ」と述べた>
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  菅官房長官の「抗議」のポイントは「首相がそのような発言をしたことはない」というところにあるようですね。それが「著しい事実誤認」だということのようですね。
  でも、世界中のまともな新聞が備えているまともな論理からは、この菅官房長官の「反論」は愚かしい“二枚舌”、ただの強弁・詭弁、見え透いた言い逃れだと受け取られるはずです。
  なぜといって…。
  たとえば、首相に返り咲いてからの安倍首相が行ったつづけさまの“おともだち”人事。安倍首相は自分の“おともだち”たちが国家主義・排外主義思想の頑なな持ち主であることを十二分に知った上で、その職や地位に任じたのですよ。…安倍首相の思想・信条・意向などを正確に反映させるために。
  “おともだち”たちによる度重なる妄言・暴言に対して安倍首相が取った態度を見れば、そのことが容易に分かりますよね?
  「個人としての発言に政府(首相)が口をはさむのは差し控える」なのですからね。
  そんな“逃げ”が世界のまともな、論理的な思考を基とする新聞を相手にして通じるわけがありません。
  個人としての発言を述べるべき立場にもないし、それをあえて求められたわけでもないときに「個人としての」意見を述べるのは、言うまでもないことですが、それが“おともだち”たちの真意だからでしょう?
  “おともだち”たちの、歴史を歪曲することを主意とした妄言・暴言を「許せない」としない、つまり、彼らをのその職・任から解かないのは、それを「容認」したからだと、世界のまともな新聞が受け取るのは当然でしょう?
  妄言・暴言を得意技とする安倍首相の“おともだち”たちの全員が「南京事件を否定している」のですよ。だから、安倍首相自身も「否定している」のだとみなされのはごくごく自然なことでしょう?…どこに「事実誤認」があります?
  「首相がそのような発言をしたことはない」という点が仮にそのとおりであったとしても、“おともだち”たちが安倍首相の“真意”を代弁しているとニューヨーク・タイムズ紙が理解したことに不審なところはまったくありませんよね。
  菅官房長官の「抗議」「反論」は、世界のまともな新聞には、間違いなく、愚かしい二枚舌発言、ただの強弁・詭弁、見え透いた言い逃れだと受け取られます。
  “筋”を通して物事を考える頭には、菅官房長官の「抗議」「反論」は事実を歪曲する大嘘に基づいているとしか見えません。
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  ところで、菅官房長官の「抗議」「反論」は何かに似ていると思いませんか?
  そうです。いわゆる“従軍慰安婦”問題への安倍政府の態度です。
  「日本軍が直接に手を下して女性たちを強制的に連行したという事実(あるいは証拠)はない」=南京事件を否定する発言を安倍首相自身がしたことはない。
  「強制的な連行があったとしても、それは慰安所経営者などが自らの意思でやったことで、日本軍はそれに関与してはいない」=安倍首相がその職や地位に任じた者たちが「南京事件を否定」していても、それは彼らの個人的な意見であって、安倍首相の意向とは無関係だ。
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  歴史的な事実を、自分が好む方向へと歪めて、日本を“再生”させることを自らの“使命”としているとしか思えないエセ“論客”たちや、そのエセ“論客”たちが歪曲する歴史観にすがらなければ自らのアイデンティティーを保つことができない(安倍首相のような)人びとがいかに卑怯、卑劣な思考の持ち主であるかが、菅官房長官の「抗議」「反論」には、実によく表れていますよね。
  自らはけっして責任を取ろうとしない!
  日本軍が“容認”していなければ“慰安所”も設置されてはいなかったし、“連行”された女性たちもいなかったのですよ。
  いわゆる“従軍慰安婦”問題で“罪”が問われているのは、仮に、日本軍による強制的な連行があったかどうかは別にするにしても、間違いなく、日本軍が“容認”していた−作戦遂行上で有益だとして積極的に利用した−という事実について、なのです。
  “安倍首相のおともだち”たちのうちつづく妄言・暴言も、彼らを首相がその職や任に就けていなければ、おそらくは、それぞれが、彼らのいつもどおりの、個人としての意見・発言だとして片づけられたのでしょうが、その妄言・暴言が大問題だとされるのは、そう、言うまでもなく、安倍首相がそれを“容認”しているからです。妄言・暴言を生み出している彼らの信条を有益なものだとして、安倍首相が積極的に利用しようとしているからです。
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  世界のまともな新聞には見えることが安倍首相と自民党政府には見えない!
  繰返します。「首相がそのような発言をしたことはない」という「抗議」「反論」は、愚かな二枚舌、強弁・詭弁、見え透いた言い逃れとして、世界中で広く嘲笑の的になるはずです。そのほかの、数多くの、二枚舌や強弁・詭弁、言い逃れと並べられて…。
  そんな、だれにでも底が見透かされる、子どもじみた、杜撰な頭脳の持ち主たちがいま、日本の政治を動かしているのです。
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  ニューヨーク・タイムズの社説の内容を上の読売新聞以上に詳しく報じた日本の新聞には出合いませんでしたから「朝鮮日報」が報じたところを抜粋して紹介しておきます。
  記事入力 : 2014/03/04 10:59 【「安倍首相の国粋主義は脅威」=米紙社説】(http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/03/04/2014030401273.html
  <米紙ニューヨーク・タイムズは2日、日本の安倍晋三首相の国粋主義が対米関係にとってますます重大な脅威になっているとする社説を掲載した><以下は社説の要旨>
  <安倍首相の国粋主義は、安倍首相が恥じる第2次世界大戦以降の歴史ではなく、自虐的な戦後レジームからの脱却と新たな愛国主義の創造と向かっている。しかし、安部首相は日本の戦後文化に手を付ける以前に、戦争の歴史をごまかそうとしている>
  <安倍とその他軍国主義者は今も1937年の南京大虐殺はなかったと主張している。安倍政権は先月28日、日本軍によって性奴隷となることを強要された韓国人女性に対する謝罪を見直し、撤回することもあり得るとの意向を示した>
  <安部首相は戦犯が合祀(ごうし)された靖国神社への参拝を単に国のために犠牲になった人々に尊崇の念を示すものだと強調している。参拝を見合わせるようにというワシントンからの明確なシグナルにもかかわらず、安倍首相は昨年12月に参拝を行った>
  <現在の中国との対立関係は、安部首相が平和主義の人々に軍備強化の必要性を説得する上で役立っている。より強硬な軍事的姿勢を主張する日本の異常な動きは歴史修正主義者の動きとも重なる>
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  これを読めば、「首相がそのような発言をしたことはない」という菅官房長官の「抗議「「反論」がいかに的を外したものであるかが分かりますよね。
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  原文は… 【Mr. Abe's Dangerous Revisionism】By THE EDITORIAL BOARD  MARCH 2, 2014
  Prime Minister Shinzo Abe’s brand of nationalism is a becoming an ever more serious threat to Japan’s relations with the United States. His use of revisionist history is a dangerous provocation for the region, which is already struggling with China’s aggressive stance in territorial disputes in the East and South China Seas.
  Mr. Abe, however, seems oblivious to this reality and to the interests of the United States, which is committed to defend Japan by treaty obligation and does not want to be dragged into a conflict between China and Japan.
  Mr. Abe’s nationalism can be hard to decipher, because it is not directed against any country. It is directed instead against Japan’s own history since World War II, which he finds shameful. He wants to shed what he calls the self-effacing postwar regime and recreate a renewed patriotism.
  But before he gets to Japan’s postwar culture, he also whitewashes the history of the war. He and other nationalists still claim that the Nanjing massacre by Japanese troops in 1937 never happened. His government on Friday said that it would re-examine an apology to Korean women who were forced into sexual servitude by Japanese troops. And he insists that visiting the Yasukuni Shrine, which honors Japan’s war dead including convicted war criminals, merely shows respect for those who sacrificed their lives for their country. Despite clear signals from Washington to refrain from visiting the shrine, he went in December.
  A confrontational relationship with China at this time could help him convince a deeply pacifist people of the need for heightened defense preparedness. It seems a peculiarity of Japan that those who advocate a greater military posture tend to overlap with historical revisionists. Mr. Abe’s nationalism aside, however, neither he nor other mainstream Japanese leaders are about to enhance Japan’s military capabilities without American consent because they are deeply committed to the U.S.-Japan security alliance.
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  ニューヨーク・タイムズは「首相がそのような発言をした」とは述べていません。
  たとえば「state」が「明確に発言する」ことを示すに対して、上の黄色太字の「claim」は(上の「朝鮮日報」の訳にあるように)もっと広く「主張する」というような意味合いで使われる単語です。「主張」する手段は「発言」だけではありません。主語が安倍首相一人ではなく「He and other nationalists」となっていることともよく符合しています。
   
  安倍首相の“おともだち”人事も、そう、「靖国参拝」も、国際的には、歴史を歪曲しようという明確な意思に支えられた、正真正銘の「主張=CLAIM」なのです。
    研究社の「リーダーズ英和辞典」 「STATE」:≪はっきり[詳細に]≫述べる、申し立てる、言う  「CLAIM」:…であると主張する
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  2014年3月13日 追加
  【河野談話巡る社説、NYタイムズが該当部分削除】読売新聞(http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20140312-OYT1T00780.htm?from=main6
  <外務省の佐藤地(くに)報道官は12日の記者会見で、米ニューヨーク・タイムズ紙が、いわゆる従軍慰安婦問題に関する河野洋平官房長官談話の撤回を安倍首相が目指していると掲載した2日付の社説(電子版)について、日本政府の訂正要求に応じ、該当部分を削除したことを明らかにした>
  <この社説には、首相が南京事件を否定しているとの記述もあり、日本政府は訂正を要求しているが、この点について同社は応じていない
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