第120回 “お言葉”ですが、防衛大臣

  <時事ドットコム>によると<浜田靖一防衛相は22日午前の記者会見で、(略)次期衆院選での世襲制限の争点化について「もっと重要なことがほかにもいっぱいある。世襲だけが論点になるのはどうか」と疑問を呈し、「世襲して何をやるかが問題だ。本人の能力が足りないと思えば、有権者が判断することだ」と強調した>(2009/05/22)そうです。

  内閣府によると浜田氏は<生年月日 昭和30年10月21日、出身地 千葉県、衆議院議員 千葉12区、当選5回、昭和55年 3月 専修大学経営学経営学科卒業、4月 衆議院議員渡辺美智雄事務所入所、平成 5年 7月 第40回衆議院議員選挙初当選、……20年 9月 防衛大臣麻生内閣)>というような経歴の持ち主です。

  <ウィキペディア>は浜田氏について<世襲 2世 父親 元衆議院議員浜田幸一>で、防衛大臣になったことについては<父親が果たせなかった閣僚の夢を息子が適えることと成った>と書いています。

  さて、浜田氏の22日の発言 <世襲して何をやるかが問題だ。本人の能力が足りないと思えば、有権者が判断することだ>

  “きれいごと”というのはこういう発言を指して言うのでしょうね。
  何故といって−−。
  ここには、その<有権者=先代の一族郎党>が世襲候補者を望み、支持する理由がすっかり抜け落ちていますからね。
  問題の世襲選挙区の外から見れば、浜田大臣の言葉はまったく違って聞こえますよね。

  どういうふうにかというと、たとえば−− 

  *何をやるか : 息子(娘など)に先代議員の跡を継がせたい<有権者=先代の一族郎党>がこの息子(娘など)に<何>をやってもらいたがっているかは、実に明らかだと思えます。
  先代が築いた“中央”とのコネクションを守って彼ら(地元)にカネを持ち込みつづけることです。違いすか?
  日本全体の福利厚生を考える力や国際関係の友好的発展を図る思考力などはここには含まれていません。そのことは、世襲候補者が地元<有権者>の耳に何を吹き込んでいるかを考えてみれば分かります。<日米安保条約には不備がある。これを正すためにわたしは…>などと日々真剣に語りかけていると思いますか?

  *本人の能力 : 立候補者本人の<能力>というのは、この<一族郎党>にとっては<先代が築いた“中央”からのカネの流れを絶やさない>能力ということ以外にはないのです。
  自民党では、衆院議員が5〜6回当選するとだいたい大臣になります(いまの麻生内閣では、当初、総理・閣僚18名のうち13名までもが“世襲”議員でした http://d.hatena.ne.jp/kugen/20090428/1240877210 )。大臣になれば<一族郎党>へカネが入ってくるルートがまた太くなりますから、この息子(娘など)が少々<能力>に欠けていても、彼らは必死でサポートしつづけるわけです。
  たしかに、あまりに愚かな息子(娘など)ではそもそも初回の立候補さえかなわないでしょうが、先代が築いたカネの流れを途切れさせないための知恵を息子(娘など)に授けるのは<一族郎党>が最も得意とするところでしょうから、事実上は、まあ、誰でも候補者に担がれる“資格”があるといえます。<本人の能力>は少々足りなくても<有権者=一族郎党>はかまわないということです。
  そこのところが大きな問題なのです、大臣。

  *有権者が判断 : <有権者が判断>しなければならないのは、世襲選挙区では、彼らの世襲候補がいつまでも彼らの言うことを聞いて彼らのために働いてくれるかどうかという点だけです。そうでしょう?
  “中央”からカネを取り込むことに格別不熱心である息子(娘など)は<有権者=先代の一族郎党>に下ろされる(代わりに先代の秘書などが担ぎ出される)こともあるかもしれませんが、まあ、そんなことは稀でしょう。もともと両者の利害は一致しているわけですから。
  
  つまり、浜田氏の22日の発言は、実は、何も言っていないのに等しいということです。
  この二世議員で現職の防衛大臣はただ“現状を維持すればいい”と言っているだけなのです。
  そして−−。
  <有権者=先代の一族郎党>が世襲をこよなく愛するのは、世襲で“現状”が維持できると考えるからでしょう?

  浜田氏の上の発言を聞いただけで<同一選挙区での議席世襲を許すことがいかに間違っているか>がよく分かりますよね。選挙区が“内向き”に固まってしまい、本来必要な関心を国の重要・重大な問題に向けなくなる、という間違いです。
  向けなくなるから、当選回数だけを増やしてやがて大臣(どころか総理大臣!)になってしまっても、世襲議員は、当然のことのように、求められている仕事ができません(安倍、福田、麻生の歴代首相、もっと分かりやすい例としては、酩酊大臣・中川昭一氏を思い出してください)。仕事できないから、官僚の言いなりになる。言いなりになるから、視野が広い政治ができなくなる−−。

  加えて−−。
  世襲追求者である<有権者=先代の一族郎党>は特別に有能な候補者を求めていないし、しかも、世襲候補の当選確率はすこぶる高いものだから、真に有能な人物がその選挙区からは出なくなってしまう、というのも(しばしば指摘されるように)大きな弊害ですよね。

  というようなわけで−−。
  同一選挙区での議席世襲の件は、次の選挙でおおいに議論されるべきです、浜田大臣。
  (議席世襲の弊害というような)<もっと重要なこと>に正しく対処できない議員が世襲で量産されているからです(ちょうどあなたのように、大臣!)。