第262回 末路を歩き始めた“壊し屋”

  12月16日に投開票が行われた衆議院議員選挙では、事前に予想されていたいたとおりに、自民党が圧勝しましたね。
  一方で、必ずしもそうなるとは予想されていなかったのが、民主党を離脱したあとに小沢一郎元氏が率いていた「国民の生活が第一」(後に「日本未来の党」に合流)の事実上の壊滅です。
  前回の衆院選で派手な話題となったいわゆる「小沢ガールズ」も全員が落選したようです。 
  【民主離党組1勝70敗 小選挙区当選は小沢一郎氏のみ】(MSN産経ニュース 2012.12.17 11:20 )
  <2009年の前回衆院選以降に民主党を離党し、今回の衆院小選挙区日本未来の党日本維新の会などから立候補した前衆院議員67人と前参院議員4人のうち、小選挙区で勝利したのは日本未来の小沢一郎氏だけで、1勝70敗となった。比例で小沢鋭仁環境相ら13人が復活当選した>
  【100人超えた“小沢チルドレン”3年で全滅】(中央日報 2012年12月18日)
  <一方、“永遠の政治9段”と呼ばれて日本の政治を30年余りにわたり思うままにしてきた小沢一郎氏の大勝負も結局水泡と消えた。小沢氏は滋賀県の女性知事の嘉田由紀子氏を顔として選挙直前に新党未来の党を作ったが取得した議席数はわずか9議席>< 過去“小沢王国”とまで呼ばれた岩手県の4つの選挙区ですら勝利したのは党で小沢氏だけだった。2009年の総選挙当時に小沢氏の公認を受け民主党で初めて当選した100人余りの“小沢チルドレン”も所属政党が散り散りとなり全国でほぼ全滅した。政治資金裁判で無罪判決を受け華麗な再起を狙った小沢氏の夢もともについえたのだ>
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  「苦言熟考」はずいぶん前から、小沢氏と縁を切るか、小沢流の政治手法を破棄しなければ民主党に明るい未来はない、という趣旨の論を繰り返してきています。(たとえば、「第152回 小沢色を払拭しなければ…」http://d.hatena.ne.jp/kugen/20100323/1269338788) 「第66回 小沢代表のカンチガイ」http://d.hatena.ne.jp/kugen/20090511/1242045358 など)
  ところが、民主党は、小沢切りどころか、前回の衆院選では、小沢氏が主導して出てきた「16兆円余りのカネはどこからでも出てくる」という希望的観測(あるいは、意図的な大嘘)に頼り切ったマニフェストを急ごしらえして(事実としては、自民党政権への大きな嫌気に助けられてではあったものの)選挙戦に勝利してしまいました。
  政治家というのは、そもそも、選挙に勝つためには何でもやるものなのでしょうが、小沢氏は、若いころから、後に破綻することが明らかであっても、あるいは、自らの党を壊すことが想定されるようなことであっても、当座の勝利を求める=自分の権力増大や維持を追求する、そんな人物だったはずです。世間受けがいいことは口にするが、それを具体的にどう実現するかという方策は持たない、そんな人物だったはずです。
  うまくいかなければそれを平気で打ち捨ててそこから逃げ出す…。小沢氏が“壊し屋”と呼ばれるようになったのには、正当な理由があったと思います。
  ですから、今回の衆院選での民主党の大敗の真の原因については、結局は、適切な時期に小沢切りを行うことができなかった=未来志向の新たな政党像を示すことができなかった同党の自業自得だ、とわたしは考えています。
  小沢氏は、それに代わるカネをどこから持ってくるかを明らかにできないのに、自党が決めた消費税増税案にただただ反対するし、破綻していることが誰にでも分かっている、幅広いバラマキを特徴とするマニフェストに(自分の面子を保つために)いつまでも固執しつづけて、民主党を大混乱に落としいれただけでは収まらず、最後には、新人議員を中心とした“郎党”を連れて離党し、民主党の力を徹底的に削いでしまいました。公党の要人としての矜持よりは我欲の実現を重んじる“屁理屈”政治家=小沢一郎の面目躍如、というところだったでしょうか。
  小沢一党の壊滅と民主党の大敗北は、小沢氏と同党が歩んできた“間違いだらけの”道程を振り返れば、あまりにも当然なことだと思えます。
  この「1勝70敗」で、日本の政界を長年にわたってかき回しつづけてきた無節操、無責任な“壊し屋”小沢氏が惨めな末路を歩き始めたというところでしょうかね。
  【惨敗民主党 真摯な総括なしに再生はない】(12月20日付・読売社説)
  <読売新聞の世論調査によると、民主党敗北の理由は、「党内のまとまりがなかった」との回答が51%で最も多い。「民主党政権の実績に不満があった」が21%で続いた。「野田首相に不満があった」は、わずか4%だった>
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  とはいえ、その無節操、無責任ぶりでは小沢氏に劣らない政治家たちが日本界の中心部にはまだまだいます。「俺が…俺が…」の自分中心主義以外には共通項が見えてこない石原慎太郎日本維新の会代表とその番頭に成り下がった橋下徹代表代行(共同代表)。大日本帝国の“栄光”を唯一の自分の置き所としている“復古主義者”安倍晋三自民党総裁
  外交を自らの対外劣等感を解消する手段だと信じていて、それを恥じることがない石原氏と安倍氏、それに、外交については定見というものがない、二枚舌、三枚舌の橋下氏。この三人が組み、衆議院議席数の三分の二以上を占めて、日本の政治と外交を引きずるという構図には恐ろしいものが感じられます。
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  もっとも、日本国民=有権者はこの選挙で自らそれを望んだのですから、これらの政治家たちが何をしでかそうと、少なくとも、次の国政選挙までは、それを受け入れるしかありませんが…。
  待てよ。16日の選挙は“一票の格差”への違憲判決の下で実施されたものでしたね。
  最高裁判所が“自民大勝”のこの選挙自体にも無効判決を出したら、どうなるのでしょう?  
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  いやいや、民主主義というものは、その運用の仕方しだいでは、実に厄介なものにもなるようです。
  【自民、得票4割で議席8割=小選挙区の特性浮き彫り】(時事通信 12月17日(月)17時37分配信)
  <今回の衆院選で各党の得票率と議席占有率の関係を300小選挙区でみると、自民党は43.0%の得票率で237議席を獲得、占有率は79.0%に達した。一方、民主党の得票率は22.8%と自民党の半分程度だったが、獲得議席数はわずか27で占有率は9.0%にとどまった。票差以上に議席数の差が開き、政権交代を起こしやすい小選挙区制の特性が浮き彫りとなった>
  【小選挙区24% 比例代表15% 自民 民意薄い圧勝】(東京新聞 2012年12月18日 朝刊)
  <戦後最低の投票率となった十六日の衆院選は、自民党が定数(四八〇)の六割を超える二百九十四議席を確保する圧勝で終わった。しかし小選挙区自民党候補の名を書いたのは全有権者の約四分の一、比例代表に至っては15・99%だった。自民党の勝利は、必ずしも民意を反映したものではない。多党乱立と低投票率自民党を利した結果であるということが、はっきり分かる>
  <一方、自民党の得票率は小選挙区が43・01%。比例代表は27・62%。ただし、これは投票した人の中での比率だ。全有権者に占める比率は24・67%、比例代表は15・99%となる。選挙区でも比例代表でも自民党候補や党名を書いた有権者は「少数派」だ。ところが、自民党が獲得した議席小選挙区で定数の79%にあたる二百三十七議席比例代表は、同31・67%の五十七議席だった>
  【自民へ政権交代「よかった」57% 朝日新聞世論調査】(2012年12月18日23時15分)
  <自民大勝の大きな理由は、有権者が「自民の政策を支持した」のか、「民主政権に失望した」のか、どちらだと思うかを聞いたところ、「自民の政策を支持」はわずか7%で「民主政権に失望」が81%を占めた。自民支持層でも13%対79%で、公明支持層も「自民の政策を支持」はほとんどいない>