=これは2008年9月27日に掲載されたものです=
<苦言熟考> =97= アンディー・エグチ
巷間で“最後の自民党政権”とも呼ばれているらしい麻生内閣が始動しました。
その新閣僚名簿を発表したのは、異例なことに、新官房長官の河村建夫ではなく、麻生新首相自身でした。メディアへの露出効果を計算しての(この人らしい)演出でしたね。
ですが、その発表でただちに明らかになったのは、新内閣の能力や意欲の高さではなく、入閣した“世襲”議員の多さでした。自民党がどれほど深く衰退しているかということでした。
自民党国会議員は、そのほぼ半数がいわゆる(二世・三世の)“世襲”議員で占められています(ちょっと古いのですが<2世3世議員データバンク> www.notnet.jp/data01index.htm がいい参考資料です)。
そのことだけでも、すでに、民主主義にとって大きな危機なのですが…。
麻生内閣の閣僚名簿を見直してみましょう(過去の人物の肩書きから“元”を省いています)。
*麻生太郎 総理大臣 母方の祖父=吉田茂 (首相) 父親=麻生太賀吉 (衆議院議員 麻生セメント会長) 妻の父親=鈴木善幸 (首相) 母方の曽祖父=牧野伸顕 (伯爵 外務・農商務・文部大臣) (牧野の父=大久保利通)
*甘利 明 内閣府特命担当大臣 (規制改革/行政改革担当) 父親=甘利 正 (衆議院議員)
*石波 茂 農林水産大臣 父親=石波二朗 (建設事務次官 鳥取県知事)
*小渕優子 内閣府特命担当大臣 (少子化対策担当) 父親=小渕恵三 (首相) 祖父=小渕光平 (衆議院議員)
*河村建夫 内閣府特命担当大臣 (拉致問題担当) 父親=河村定一 (山口県議会議員)
*佐藤 勉 国家公安委員会委員長 内閣府特命担当大臣 (沖縄及び北方対策/防災担当) (非世襲)
*中川昭一 財務大臣 内閣府特命担当大臣(金融担当) 父親=中川一郎 (衆議院議員) 叔父=中川義雄 (参議院議員)
*二階俊博 経済産業大臣 父親=二階俊太郎 (和歌山県議会議員)
*野田聖子 内閣府特命担当大臣 (消費者行政推進担当) 祖父=野田卯一 (衆議院議員)
*鳩山邦夫 総務大臣 父親=鳩山威一郎 (外務大臣) 祖父=鳩山一郎 (内閣総理大臣) 曽祖父=鳩山和夫(貴族院議員) 兄=鳩山由紀夫 (民主党幹事長)
*森 英介 法務大臣 父親=森 美秀 (衆議院議員) 祖父=森 矗昶 (衆議院議員 森コンチェルン創始者) 伯父=森 曉 (衆議院議員) 森 清 (衆議院議員)
*与謝野 馨 内閣府特命担当大臣 (経済財政政策) (非世襲)
(資料 「ウィキペディア」)
さあて…。麻生首相自身も実に華麗な“世襲”議員なのですが、父親が県知事・県会議員である場合を含めれば、その総理・閣僚18名のうち13名までもが“世襲”議員であるというのは、いったい、どうしたことでしょう。
自民党はいま“世襲党”に成り果てています。“世襲”ではなくて独力で議員になった人物の力を利用できない(というよりは、その力を排除してしまう)政党になっています。既得権死守の“貴族”政党へと“進化”してしまい、世襲の果てに疲弊しきっています。
安倍晋三、福田康夫と二代の“世襲”議員が首相の座を(いとも簡単に)放り出した理由の一つには、自民党が責任政党としての活力を失っているという事実がありました。
世襲候補の当選率が以上に高いことは広く知られています。
“既得権益”を守ろうと、それぞれの選挙区の有権者が世襲候補を押すからそうなるわけですが、この現象は議会制民主主義を危機に陥れています。本来、政治家としての能力や資質に欠ける人物が親や祖父などの威光を借りて議員になってしまう恐れが高いからです。いえ、実際に、最近の自民党がその“恐れ”が現実のものであることを証明しています。
国会はある一族による選挙区の“世襲”を禁じるべきかもしれません(言うまでもなく、野党候補もその対象です)。直系の親族だけではなく、伯父・叔父・伯母・叔母なども選挙区もそれに含めましょうか。禁じられても国政に参加したければ、子、孫、議員秘書などはほかの選挙区で立候補すればいいのです。
立候補の自由を制限するのは憲法上で問題があるという(ある意味では実に正当な)意見があります。しかし、“世襲”議員が国政に与えている負の影響はかなり深刻なものだと思えます。 有力“世襲”議員を抱えている選挙区に公金が多く交付されるなどの不公平もあるかもしれません。
“世襲”議員たちによる現代版“貴族政治”から、全体としての国民は何が得られるのでしょう? 真剣に考えてみる必要がありそうです。
麻生新首相はこの閣僚たちと次の衆院選挙に臨むつもりのようですね。“世襲”議員だらけのこんな布陣でちゃんと戦えると、首相は信じているのでしょうね。
万が一にも自民党が勝つようなことがあれば=有権者がそこまで愚かであれば、日本には明るい未来が(少なくとも、しばらくは)ない−ということになってしまいます。
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朝日新聞(インターネット版 2008年9月26日)は<「後継者は進次郎だ」小泉元首相、27歳の次男を指名>というタイトルつきの記事を掲げました。25日に(いかにもこの人らしく)唐突に<次の衆院選挙には出ない>と言明した小泉首相が、その夜、神奈川県で開かれた自派の会合で<「政治活動は続けるが、国会議員は引退する。後継者は進次郎だ」と、次男の進次郎氏(27)を指名した>というのです。
「後継者」(お世継ぎ)を“殿”自身が決めて“家臣”たちに“よきにはからえ”と命じる−。徳川時代ではないのですよ。冗談はヤメテクダサイ!
この<指名>のどこが(小泉氏の専売特許)“構造改革”なのでしょう?
国会にこれほど“世襲”が蔓延すると、政治家の感覚はここまでゆがんでしまう−という典型的な例だと言えましょう。