第382回 “2 SET”ではなく“SET 2”で

 日本の女子バレーボール・リーグ(JAPAN V.League Women 2018 - 2019)の試合をときどき(YouTubeで)観ます。

 その中継放送ヴィデオを見ていて、些細なことではありますが、ちょっと落ち着きが悪いと感じるところがありますので、今回はそのことにつて書くことにします。

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 落ち着きが悪いと感じるのは、得点や勝利セット数などを示す、テレヴィ画面左上部のグラフィックの枠の中に、たとえば、いま戦われているのが第2セットだとすると、“2” と “SET” が上下に並べて表示されていて、横書きに直せば “2 SET” としか読めないからです。

 試合が行われているのが英語圏の国で、放送しているのがその国のテレヴィ会社であれば、この表示は “SET” が上に“2” が下になります。

 つまり、第2セットが戦われていれば、日本ではその横書きは “2 SET”とされているが、英語圏では “SET 2” となるわけですね。

 英語圏ではなぜ “SET 2” という流れになるかというと、それが “SET NUMBER 2” を意味するからです。“” を “SET” の前に置いて同じ意味を表示したい場合には、普通は “2nd (second) SET” という形になります。

 “SET NUMBER 2” も “2nd (second) SET” も、セットがいま何番目であるかを表示しているわけです。

  一方で “2 SET” が(まずは見た目に)落ち着きが悪く感じられるのは、“2” という数字が複数であるのに、それにつづくのが “SET” が単数になっているからです。

 では、日本のグラフィックでは “2 SETs” と “SET” を複数形にすれば正しい表示になるのかというと、もちろん、そうではありません。英語圏では “2 SETs” と書けば、それは「(おなじ戦況の)セットが二つある」ということを示していると受け取られ、いま戦われているのが「二番目のセット」であるとは素直には理解されないだろうからです。

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 ところで、アメリカに“AAA”という名の自動車保険会社がありますね。これは、最も一般的には「トリプルA」と呼ばれています。「スリーA」ではありません。もちろん「スリーAs」でもありません。

 なぜ「スリーA」または「スリーAs」ではないのかというと、この “AAA” は、同じAが三つ集められたものではないからです。

 ここでの “AAA” は American Automobile Association の略称です。ここで一つの “A” が代表しているのは、“American”  “Automobile”  “Assiciation”と、それぞれに異なっているのです。

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 アメリカの大学の運動部を広くまとめ運営する組織に “NCAA” というのがあります。National Collegiate Athletic Associationがそう略称されています。日本では一般的に「全米大学運動協会」と呼ばれています。

 さて、この “NCAA” を英語圏では普通はどう発音するかというと、それはやはり “NC2As” (NCトゥーエイズ)ではありません。「NCダブルA」なのです。

 二つの“A”が代表しているものが“Athletic” と “Association” とに異なっているからです。

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 つまり、英語圏では、ある物が同じ形体・状態などで複数存在するのでなければ、それは、通常は、複数扱いしないということです。

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 アメリカの大リーグの下部に“AAA” とランクされる組織があります。当初、その最下部組織を “CLAS A” としたのに、その上を “CLASS 2As” にせず、“AA” = “DOUBLE(CLASS) A” に、その上を “CLASS 3As” にせずに “AAA” = “TRIPLE (CLASS) A” としたのは、“AA” が “CLASS A” を二つ集めたものではなかったし、“AAA” が “CLASS A” を三つ集めたものではなかったから、だと思われます。

 その“AAA” を日本では普通には「3A」と表示しています。が、これは正しい書き表し方ではない、ということになります。日本語ででも、あくまでも「トリプルA」(あるいはそのまま「AA A」)とされるのが正しいでしょう。

 もちろん、文法的には、“3As” という表記はありえますが、単に「3A」はまずありえません。また、“3A” が  “AAA” =  “TRIPLE A” と読まれることも、英語圏では、よほど“努力”されない限りは、ありえません。

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 そこで日本のバレーボール・リーグ。

 それぞれのセットがまったく同様に戦われることはありえないし、文法上も首をかしげる類の表記ですから、“2 SET” は、ここで使われる表記としては、ふさわしくないでしょう。

 そろそろ“SET 2” = “SET NUMBER 2”と表示を変えてはどうでしょうか。縦書きならば “SET” を上に、“2” を下にということです。

 その方がちゃんとそのまま世界に通用するはずですから。

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