第307回 フィリピン大学女子ヴァレーボール:優勝したのは

  「苦言熟考」は2013年11月30日の【第296回 フィリピン ヴァレーボール 学ばないことには】 (http://d.hatena.ne.jp/kugen/20131130/1385761437)
で、フィリピン女子ヴァレーボールの質が過去数年のあいだにかなり向上してきたと述べたあとに、こう書いています。
  <ところが……。フィリピンのヴァレーボール界には大きな問題が残っています。各ティームのヘッドコーチを先頭に、指導者たちの能力が“世界に通用するレヴェル”からは程遠い状態のままなのです><素人の身でありながらそう言いきることができるのは、世界のトップクラスのナショナルティームやクラブティームが参加して開かれる大会で、コーチたちがどういう采配をふるっているかを(テレヴィ観戦の際に)注意深く見つめてきたからです><残念なことながら、フィリピンのコーチたちの中に「この人はそういう世界的な大会を見て、そこから学んでいるに違いない」と思われる人は、わたしがこれまで見てきた限りでは、皆無です>
  この【第296回】には、しかしながら、次のような文章を追加していました。
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  〔追記〕 UAAPの中の一校、ADMU (ATENEO DE MANILA UNIVERSITY) が、この12月1日に始まるシ−ズン76に備えてタイ人コーチを迎えたということです。フィリピンでは初めての試みだそうです。どんな采配を見せるかが楽しみになってきましたね。
  〔追記〕12月1日のADMUの試合を見たところでは、このタイ人コーチのタイムアウトの取り方、選手交代のさせ方は“国際的な水準”にあると思えました。
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  その UAAP (UNIVERSITY ATHLETIC ASSOCIATION OF THE PHILIPPINES) 女子ヴァレーボールのシーズン76が3月15日に終了しました。優勝したのは、シーズン前のいくつかの分析では、参加8大学中のベスト4に入ることができれば上出来だろうと見られていた ADMU (ATENEO DE MANILA UNIVERSITY) LADY EAGLES でした。そう、(女子)ヴァレーボールの“先進国”タイからヘッドコーチを招いていた、あの大学です。
  “先進国”のコーチ力が、フィリピンの大学女子ヴァレーボールに“奇跡”を呼び寄せたのです。
  前のシーズンで準優勝していた ADMU LADY EAGLES が「ベスト4に入ることができれば上出来だろう」と見られていたのは、セッターと、ティーム内で第二、第三、第四のアタッカー、さらには重要な控え選手の5人が卒業していたからです。新ティームでは、シーズン75から残った第一アタッカーとリベロを除けば、ゲイムの“司令塔”であるセッター(1年生)を含めて全員が、大学での実戦経験に乏しかったからです。
  試合をテレヴィで見ているだけの身には、このタイ人コーチが選手たちにどういう練習をさせていたかなどは知りようがありませんが、優勝後のインタヴューに応えてコーチは“If you believe you can win, we will win. (信じれば勝てる、ぼくらが勝つ)”と選手たちに言い聞かせていたと語っていました。試合中のタイムアウトでは“(Keep your)heart strong” “(Play a) happy (game)”と言いつづけていました。
  たしかに、どの試合ででも、展開が不利になっているからといって、プレイヤーたちがパニックに陥っているように見えたことはありませんでした。
  フィリピンの主要新聞「 INQUIRER 」は3月15日、こう伝えていました。
  <“I think what worked for us this year was we played with no pressure unlike last year when everyone was expecting us to make it to the finals.(わたしたちはプレッシャーがない状態でプレイしました。決勝戦まで進むことをみんなが期待していた去年とは違って) When we reached the final four, our coaches were already proud of us, and that made us confident,”(ファイナル・フォー=予選上位の4ティーム行う決勝シリーズ=まで来たときにもう、コーチたちはわたしたちのことを誇りに思ってくれました。それが自信になりました) said Alyssa Valdez who was also this year’s finals Most Valuable Player. >
  タガログ語はもちろん、英語も得意ではなかった、このタイ人コーチは、それにもかかわらず、プレイヤーたちの心理・精神状態の掌握の仕方にも十分に長けていたのですね。
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  シーズン前には高く評価されていなかった ADMU がどういうふうに優勝にまでたどりついたかに興味がある方は次の記事を読んでください。
  【Ateneo’s road to the championship】 By Mark Giongco INQUIRER.net Saturday, March 15th, 2014
  MANILA, Philippines : Ateneo had to go through a wringer before clinching its first ever UAAP volleyball crown Saturday.
  And the Lady Eagles’ improbable championship run started nearly a month ago when they finished third in the elimination round.
  Here’s a look at Ateneo’s road to its historic title:
  - Ateneo booked its place in the stepladder Final Four as the third seed with a 10-4 record.
  The Lady Eagles beat the no.4 Adamson Lady Falcons at the start of the semifinals, 26-24, 25-23, 25-21 on Feb. 22 to advance into the next phase.
  - Tagged as the underdog, Ateneo stunned no.2 National University, 25-17, 12-25, 31-29, 28-26, to force a do-or-die for the last finals berth.
  - Riding high on their win over the Lady Bulldogs, the Lady Eagles prevailed anew, 25-22, 8-25, 25-19, 25-22 to book a ticket to the finals against a familiar foe.
  - On a roll, Ateneo showed it stands as a serious threat to La Salle’s reign with a 17-25, 25-23, 25-13, 25-20 shocker in their finals opener - negating the Lady Spikers’ thrice-to-beat advantage.
  - The Lady Eagles fell short, 14-25, 20-25, 25-19, 24-26, in Game 2 as the Lady Spikers regained their form.
  - Ateneo though, proved its Game 1 win was no fluke with a grueling 25-21, 25-23, 18-25, 16-25, 17-15, victory last Wednesday as the Lady Eagles moved closer to history.
  - Nothing to lose, Ateneo was the steadier team as it hurdled its fifth knockout game of the playoffs to cap its seemingly impossible feat with a championship clinching 25-23, 26-24, 25-21 win - foiling La Salle’s ‘four-peat’ bid.
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  予選ラウンドで4位になったティームでも勝ちつづければ駆け上がることができるステップ・ラダー方式の決勝シリーズ=ファイナル・フォーで、予選3位の ADMU(10勝4敗)は、最初に、4位だった Adu (ADAMSON UNIVERSITY) の挑戦を負けなしの一勝で退けました。次には、予選ラウンドで2戦2敗していた相手 NU (NATIONAL UNIVERSITY 予選12勝2敗)にも、すべての予想を覆して、負けなしで2勝を挙げ、決勝進出を決めました。しかし、最後に対戦する、有力プレイヤーが二人抜けただけの、過去3年間の連続優勝校 DLSU (DE LA SALLE UNIVERSITY 予選14戦全勝) に対しては、初めから、直接対戦の第一試合にかならず勝ち、さらには、それに勝てばそのあとに行われることになっている3試合のうちの2試合をものにしなければならないという極めて不利な状態=THRICE-TO-BEAT DISADVANTAGE =にあったわけです。
  つまり、優勝決定戦にたどり着くまでに ADMU は「これに負ければ、自分たちのシーズン76が終わる」というゲイムを5回も勝ち抜かなければならなかったのです。上の記事の中の“the Lady Eaglesimprobable championship run”という記述はけっして誇張ではありませんよね。
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  ADMU の優勝を違った角度から眺めてみたい方は…
  【Heart-strong’Ateneo clinches UAAP women’s volley crown】 By Celest R. Flores INQUIRER.net Saturday, March 15th, 2014
  MANILA, Philippines : Ateneo reaped the sweetest reward of its “heart strong” campaign in UAAP season 76.
  The Lady Eagles, surviving a mammoth thrice-to-beat edge off a seasoned La Salle side, clinched their first-ever UAAP women’s volleyball championship in stunning fashion on Saturday.
  Ateneo shut down rival La Salle in three-straight sets, 25-23, 26-24, 25-21 before over 21,000 passionate volleyball fans at the Mall of Asia Arena.
  “If you believe you can win, we will win,” Thai head coach “Tai” Bundit, who brought the “heart strong” battle cry, amid the post-game pressure.
  And the Lady Eagles were oozing with confidence against the powerhouse Lady Spikers, managing to come back from seven points down in the second set, 16-21, to go up 2-0.
  They rode the momentum in the third set and led by as much as nine points, 19-10, which stunned La Salle momentarily.
  The Lady Spikers tried to resuscitate their flat-lining bid and pulled to within two, 19-21, but an error from Ara Galang and three straight markers from Valdez wrapped the win and a first-ever championship for Ateneo.
  Valdez finished with 21 points, Michelle Morente added 11 and Ella De Jesus 10 for the Lady Eagles.
  Meanwhile, it was a bitter ending to La Salle’s perfect elimination round campaign as the Lady Spikers missed a chance to make it a “four-peat.”
  Only Galang wound up with double digits for the Lady Spikers with 11 points as graduating Aby Marano only had eight points and Mika Reyes, six.
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  Shakey`s V-league Season 11 First Conference がもうすぐ始まります。新聞報道によると、このファースト・コンファレンスは、マニラ首都圏外の3ティーム(Southwestern University −セブ, St. Louis University −バギオ、Davao Lady Agilas −ダヴァオ)を含めた12の大学ティームで構成されています。UAAP からは ADMU のほかに、シーズン76で3位となった NU (NATIOAL UNIVERSITY)、4位だった Adu (ADAMSON UNIVERSITY)、さらには FEU (FAR EASTERN UNIVERDITY)、UST (UNIVERSITY OF ST. TOMAS) が、首都圏のもう一つの大学リーグ NCAA (NATIONAL COLLEGEATE ATHLETIC ASSOCIATION) からは ARELLANO、ST. BENILDE、SAN SEBASTIAN、UPHS (UNIVERSITY OF PERPETUAL HELP SYSTEM) の4校が選ばれています。ダヴァオのティームはオールスター編成になるようですが、残りは、在校生プレイヤーにそれぞれ2名のヴェテラン・ゲスト・プレイヤーが加わることになっています。
  ここではどんなコーチに率いられたどんな試合が見られるでしょうか。楽しみにしています。
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  そうそう、上の記事にあるように、3月15日に MALL OF ASIA ARENA で行われた ADMU と DLSU の決勝最終戦の入場者数は2万1000人余りだったそうですよ(over 21,000 passionate volleyball fans at the Mall of Asia Arena)。人びとの関心の高さに応えようというので、テレヴィ中継放送も、いつものスポーツチャンネルではなくて、二大ネットワークの一つであるABS-CBNのメインチャンネルで行われました。
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