第343回 こんな戦争をやった国の言いなりに

  前回【第342回 「米提言書に沿う安保法制」「アメリカにすり寄る安倍政権」】にこう書きました。
  <貧してアメリカは「正しい判断力」を鈍らせ、いや、失ってしまっています。アメリカ流の民主主義を展開するという(日本国憲法に象徴された)理念を支柱にした日米間の“戦後レジーム”をもう支えきれなくなっています> <安倍政権は、そんな、衰退著しいアメリカ政府につけ込む形で、嬉々として「言いなり」になる道を選択しました> <日本をアメリカの番犬にするという方法で、安倍首相は日本の再“大日本帝国”化を実現することにしたのです>
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  安倍政権がその「言いなり」になり「番犬」として奉仕することを決めたアメリカという国が「貧すれば鈍する」ようになった決定的な要因は、国際法の上では“戦争犯罪”とされるべきだった、あの対イラク戦争でした。
  その対イラク戦争アメリカがどう正当化しようとしたのかを振り返ってみましょう。
  「苦言熟考」の【第44回 “罪状”1,2,3,4…】(http://d.hatena.ne.jp/a20e2010/20110722/1311292321)は<「ニューヨーク・タイムズ」が29日「Still Waiting for Answers」(回答はまだ聞いていない)というタイトルの社説を掲載しました>として、その内容を次のように紹介しています。
  * CIAの元長官ジョージ・テネット氏が先日、アメリカにとってイラクは真実の脅威であるかどうかについてブッシュ政府内では一度も真剣な検討がなかったと暴露したことに驚いたのは、自らを欺くことが好きなほんの少数の共和党議員だけだった。 
  * ブッシュ大統領がまずイラクに侵攻することを決め、その決定の上に“いまにも倒れそうな、がたがたの”理由を取ってつけたということは、ずいぶんまえから明らかになっている。
  * 国内で違法な手段での情報収集(スパイ活動)を許可したこと、対テロ戦争で捕らえた捕虜に対する(人権侵害の疑いがある)扱いについても国民はブッシュ政府からまだ真実を聞いていないし、(民主党系の)8人の連邦検事の追放や政府職員への(上下関係を悪用した、共和党候補者を支援しようという)選挙運動に関する新たな疑問も浮上してきた。この、あとの2件については、大統領政策の“設計者”であるカール・ロウヴ氏とホワイト・ハウス幹部に議会は召喚状を出し、証言させるべきだ。
  * 共和党過半数を占めていた上下両院は、ブッシュ氏の“権力掌握”“悪事(MISDEED)”“無能”を見逃してきたばかりか、ブッシュ政権による悪質な“権力乱用”を法律を制定してカヴァーしてきた
  * イラクがウラニュウムを手に入れようとしているという国防省ラムズフェルド長官)のでたらめな指摘を、CIAも国務省もそれを否定していたにもかかわらず、大統領に伝え、世界に向かって公言させたコンドレーサ・ライス(国家安全保障)補佐官(当時)の責任は?あるいは、大統領もそれをうそと知っていながら公言したのだろうか?
  * 大量破壊兵器をつくるためにアルミニウムのパイプをイラクが購入したというウソ、きのこ雲を観測したという話、イラクとアルカイーダとが組んでいるかのようなおとぎ話などで真実が全部分かったとき、ライス現国務長官はなぜ国民にそう知らせなかったのか?議会は長官に説明を求め、ライス氏が拒否すれば議会侮辱の罪で追及すべきだ。
  * イラク侵攻後の状況の読みをCIAなどが誤った理由、侵攻前にブッシュ政府が公表した情報と現実に知っていた情報とを比べるために議会は公聴会を開くべきだ。その際、機密を口実にブッシュ政府が引き伸ばし作戦に出るのを許してはならない。
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  アメリカの政権が共和党から民主党に変わって7年が過ぎたいまでも、ブッシュ政権時代のさまざまな“戦争犯罪”とそれを隠すための“悪事”をアメリカは公式に世界に向かって謝罪してはいません。それは、つまりは、次の対外戦争でもおなじ選択=“義”のない戦争への突入をしかねない、ということです。
  「苦言熟考」は上の記事にこうつづけています。
  <さて、一方、日本は?> <そんなぼろぼろになりかけているブッシュ大統領に会いに行って、安倍首相は「シンゾウ=ジョージ」と呼び合える仲になったとかいって上機嫌になっています。格別の成果をあげたかのように考えています> <「似たもの同士」という言葉がよく当てはまる二人ですね>
  いまの安倍政権の政策遂行過程が対イラク戦争ブッシュ政権が通った道と酷似しているのは偶然ではありません。
  「ブッシュ大統領がまずイラクに侵攻することを決め、その決定の上に“いまにも倒れそうな、がたがたの”理由を取ってつけた」!
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  【第105回 ブッシュ大統領:21世紀初頭の世界の大不幸】(http://d.hatena.ne.jp/kugen/20081224/1230083668)にはこう書いていました。
  <大量破壊兵器に関する「イラクの情報の誤り」は、2003年3月にアメリカ軍がイラクに侵攻して間もなく、だれの目にも明らかになっていましたよね> <覚えていますか?> <まず、アメリカ軍が砂漠のどこかで、地中に埋められていた(放置されていた)数十本のドラム缶を発見したときのこと?> <アメリカ政府は「ここに(毒ガスなどの)化学兵器工場があったかもしれない」というような発表をしました> <ですが、TVニュースで見るドラム缶は、化学薬品など詰めていたと思わせるにはあまりにも薄汚れていて、貧相なものでした。案の定、あのドラム缶は毒ガスなどとは何の関係もない、ただの廃物でしたね> <二つ目は、トゥレイラー> <「これは化学兵器の移動実験室として使われていた可能性がある」というようなことをアメリカ政府は言いました> <この大型トゥレイラーも、ニュースで見た限りでは、化学兵器の実験室という言葉が持つ“洗練された”ものからは程遠い、実に粗末でクタビレタなものでした> <この二つを“重大な発見”として扱うブッシュ政府を見て「この政権は、大量破壊兵器に関する情報は結局何も持っていないくせにイラクへの侵攻に踏み切ったのだ」という確信を新たにしたものです>
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  日本の“大日本帝国化”を推し進めるためには、アメリカの「番犬」になってでも対米軍事同盟を強化しなければならないと妄信している安倍晋三氏は、アメリカの対イラク戦争当時にも、「アメリカにとってイラクは真実の脅威であるかどうかについて……一度も真剣な検討がなかった」ブッシュ政権を無条件に支持していたはずです。
  「ブッシュ大統領がまずイラクに侵攻することを決め、その決定の上に“いまにも倒れそうな、がたがたの”理由を取ってつけた」だけで一方的に突入した対イラク戦争
  安倍政権(と自民党公明党)がいまその「言いなり」になろうとしているアメリカは、かつてはそんな理不尽な戦争ができる国、そんな戦争を現実に行った国だったのです。そしていま、「貧すれば鈍する」国に成り果てたアメリカの理不尽ぶりは、いっそう嵩じています。日本に対しては、軍事力を増強するようにと、あらゆる方面から執拗に圧力をかけてくるだけの国になっています。
  なのに、安倍政権は、アメリカが地球上で今後も展開するかもしれない“理不尽な戦争”についてさえ、無条件で、嬉々として加わる道を選ぼうとしています。
  戦後70年間にわたって、曲がりなりにも、世界に向かって発信しつづけてきた“平和愛好国家=日本”という像を安倍政権は対米「言いなり」政策で木っ端微塵に破壊しようとしています。
  「戦後レジームからの脱却」=“壊憲”=“日本の再大日本帝国化”で安倍首相は、日本を真の愛国者が誇ることができない国に改変しようとしています。
  安倍首相(と自民党公明党)に愛国者面をさせてはなりません。平和主義日本をあの“理不尽戦争”の実行犯だったアメリカにほとんど無条件で売り渡そうという彼らの盲動・暴挙を許してはなりません。
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  「貧すれば鈍する」
  アメリカの「貧すれば鈍する」が対イラク戦争から顕著になったのに対して、日本のそれは1990年前後の“バブル経済の崩壊”から始まっていたといえるでしょう。
  日本が「貧」へと傾きだしてから二十数年後のいま、安倍政権は、その存在自体で、日本がいかに無残に「鈍」しているか=正しい判断力を失くしているかをこの上なく示しています。
  共に「鈍する」日米二か国がが企てている“日本の再大日本帝国化”が、取り返すことができないほど大きな誤謬に満ちた政策であることを日本国民は声高に論じていかなければなりません。
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  2015年4月14日の毎日新聞「余禄」にこんな個所がありました。
  <▲自衛隊を海外に送る転機になったのが1991年の湾岸戦争だった。当時の外務事務次官で先日亡くなった栗山尚一(くりやまたかかず)さんは心残りとして記している。「新憲法の下で掲げてきた平和主義の理念とは何か、との問いに対し、歴代の政治指導者が、未(いま)だに説得力がある答えを内外に提示できないでいることである」(「外交証言録」)>
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  【社説:安保協議再開 対米合意優先は疑問だ】毎日新聞 2015年04月15日(http://mainichi.jp/opinion/news/20150415k0000m070158000c.html
  <新たな安保法制は、集団的自衛権の行使容認をはじめとして国の形を変えてしまうような大きな変更を含んでいる。その特徴をひと言でいえば、自衛隊が米軍とともに世界規模で活動できるようにすることだ> <先日、来日したカーター米国防長官は、日本の安保法制を反映した新たなガイドラインによって「米軍と自衛隊が切れ目なく協力する機会が増える。直面する幅広いチャレンジにアジア太平洋、世界中で対応することが可能になる」と述べた>
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