第146回 インド洋上給油と日本のマスコミ

  読売新聞(2010年1月16日)によると、海上自衛隊による、インド洋上での多国籍の艦船への給油量は、<一回当たり>と<一か月当たり>でそれぞれ、2001年12月〜07年10月では617キロリッターと6900キロリッター、08年2月〜10年1月では186キロリッターと1125キロリッターだったそうです(掲載された表から計算)。給油取りやめ前の数年間には激減していたということですね。

  この変化をどう読むか?
  日本のマスコミは、多くの理屈をつけて、給油取りやめに強く反対してきたこともあって、そうは認めていませんが<日米政府の表向きの説明がどうであったにしろ、この給油活動はアメリカ・ブッシュ政権による対イラク戦争を支えるものだった>ということが、上の事実からただちに分かりますね。イラクへの米軍侵攻がそれなりに落ち着き、“平和維持”をイラク人の手にゆだねようという動きとともに給油量が激減しているのですから。
  <テロ対策特別措置法>に関する自民党政府の説明が「米国等はタリバーン等に対する軍事行動を開始した」とするだけで、イラクには一度も言及されていないにもかかわらず…。あるいは、「給油活動は、テロリストの移動や武器・麻薬輸送を監視する海上阻止活動の一環」(読売新聞2010年1月15日社説)だという給油取りやめ反対派の執拗な主張にもかかわらず…。

  そもそも、この給油活動開始には無理がありました。読売新聞も認めざるを得なかったように「給油活動は、2001年の米同時テロを受けて始まった。従来の国連平和維持活動(PKO)とは法的枠組みの異なる、新たな国際平和協力活動で、法律上も、部隊運用上もハードルは高かった」(同社説)のです。
  いえ、それどころか、アメリカによる対イラク先制攻撃は国連憲章の精神にも国際法にも明らかに違反していたと思います。
  イギリスのブレアー首相などがただちにブッシュ大統領をの侵攻策を支持して自国軍をイラクに送ったという事実も<国際法に違反している>とう事実を否定するものではありませんでした(ブッシュ氏が遠くない将来に国際法廷に呼ばれる可能性も否定できません)。

  加えて、対象とされたテロリストたち、タリバンとアルカイーダが海洋を利用してテロリストを移動させたり、武器や麻薬を輸送したりしているところを捕らえられたり、追撃されたりしたという事実が報じられたことは一度もありません。いえ、そもそも、アフガニスタンパキスタンとの国境付近に(閉じ込められたように)拠点を置くというこのテロリストたちが海上輸送手段を保有しているという証拠も見せられたことがありません。

  日本によるアメリカ軍などへの給油活動は大きな“嘘”に乗って開始されていたのです。
  日本が供給した油などは、アメリカの対イラク戦争でほとんどが使われていたのです。
  ですから、イラク情勢がいくらか落ち着いたいまでは、現に海上自衛隊の給油部隊がインド洋から引き上げることになっても(もともと実態があやふやだった)“国際社会”からも際立った不平の声は上がっていません。読売新聞を含めたマスコミが日本国民を脅したようには、アメリカも怒ってはいません。

  ついでに触れておけば、アメリカ政府の国務省国防総省がいま、沖縄のアメリカ軍基地の移転問題で日本政府に不平の意を繰り返して伝えている大きな理由一つは、<給油取りやめ>につづいて<アメリカ軍基地普天間からの移動>についても日本政府に負けるわけにはいかないからでしょう。これだけ大きな外交政策で日本に二連敗してはアメリカの面子が立たないのです。
  
  この給油取りやめは、日本の対米外交史上で最大の成果です。日本がアメリカ政府の意に反して、外交上で、何かを達成したことがかつてありましたか?
  給油続行を主張しつづけてきた日本のマスコミはこの画期的な外交上の成果をいまだに認知していません。完全に黙殺しています。給油をやめれば日米関係がおかしくなる、国際社会から孤立する、テロリストを勇気づけるなどと、日本国民を脅迫してきたのにそうはならなかったことを反省してもいません。
  
  給油を取りやめた民主党政府のアフガニスタン支援策について、上の読売社説は「自分は安全な場所にいて資金援助するだけでは、感謝はされても尊敬はされない」と“牽制”していますが、日本による過去8年間の給油活動でアメリカは日本を<尊敬>するようになっていますか?<尊敬>するようになった結果として、たとえば、普天間基地問題で日本政府に何か譲歩しましたか?
  甘い、奇麗事を言って日本国民をこれ以上たぶらかしてはいけません、マスコミは。