第354回 Donald Trump氏のこの発言だけには…

  アメリカの共和党大統領候補予備選挙に立候補している大金持ちDonald Trump氏は、政治・社会に関するその極めて極端で独断的な意見が(大方の政治専門家の予想に反して)支持を集め、現時点では、最も優位な位置でその選挙戦を展開しているようです。
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  英語版「Huffington Post」が2015年10月4日づけで【Donald Trump: Middle East Would Be Better Off With Saddam, Gaddafi】と題する記事を掲載しています(http://www.huffingtonpost.com/entry/donald-trump-middle-east-would-be-better-off-with-saddam-gaddafi_56116b78e4b0768127025efd)。
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  Donald Trump候補がこれまでにどのような「極端で独善的な意見」を述べているかが知れるようにと「Huffington Post」は「9 Outrageous Things Donald Trump Has Said(ドナルド・トランプ氏の過去の9つの言語道断な発言)」というスライドも用意していました)。
  その中の写真3枚を見てみましょう。
     
     
     
  Donald Trump候補は、メキシコからの移住者に限らず、不法移民を「殺人者」「レイピスト」などと決めつけています。
  「メキシコ政府は利口、頭脳明晰でずるい。悪人たちにカネをかけるのを惜しんで、そういう連中を(アメリカに)送り込んでいる。自国で連中の面倒を見たくないからだ」とも言っています。
  ほかにも(すでに消し去られてはいるものの)こういうTwitter発言もあったそうです(http://twitter.com/GoAngelo/status/617875992594546688/photo/1?ref_src=twsrc%5Etfw)。「(元フロリダ州知事で、ブッシュ元大統領の弟である)ジェブ・ブッシュがメキシコからの不法移民を好きなのは、自分の妻がメキシコ系だからだ」
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  Donald Trump氏の極端さをどんな心情を抱くアメリカ人が支持しているかを想像するのは、どちらかといえば、容易です。だって、"在日韓国・朝鮮人"を差別・排斥することに躍起となっている勢力が日本にもありますからね。
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  さて、「言語道断」な発言を繰り返すことで、一部アメリカ人の劣情を肥大させ、それを政治的なばねにしているDonald Trump氏を支持する理由はどこにも見当たらないのですが、上の「Huffington Post」記事が紹介している同氏の意見の中には、一点だけ、同意できるところがあります。
  まずは記事の全文をコピーします。
  Donald Trump said Sunday that the Middle East would be more stable if Iraqi dictator Saddam Hussein and Libyan autocrat Muammar Gaddafi were still in power (トランプ氏は日曜日、「イラクの独裁者サダム・フセインリビア専制者ムアマール・カダフィがまだ権力を握っていたら、中東はもっと安定していることだろう」と述べた).
  When asked on NBC's "Meet the Press" if he thought the region would be "safer" with Hussein and Gaddafi ruling Iraq and Libya, respectively, the real estate mogul and ersatz Republican presidential candidate replied, "It's not even a contest."
  Trump reasoned that had the United States not forced Hussein out of power in Iraq, the Islamic State would not have come into existence.(トランプ候補はその理由として「もし米政権がサダム・フセインを権力から放逐していなかったら、Islamic Stateは出現していなかっただろう」と述べた)
  And he contended that ousting Gaddafi had led to chaos in Libya, including the fatal 2012 attack on the U.S. consulate in Benghazi.
  "Libya is ... nobody even knows what's goin' on over there," Trump said. "It's not even a country anymore."
  Trump suggested that ousting Syrian president Bashar Assad would yield a "mess" similar to the ones in Iraq and Libya.
  "It's gonna be the same thing," he said.
  Trump made clear that he did not think Assad was a "good guy," but said the rebels fighting Assad "may be worse."
  Trump also doubled down on comments he made earlier in the week hailing Russian president Vladimir Putin's initiation of airstrikes in Syria as a "wonderful thing" that will help the U.S. in its fight against the Islamic State.
  New Jersey Gov. Chris Christie (R), a rival for the Republican nomination, called Trump "painfully naive" on Sunday for welcoming Putin's involvement in the country.
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  「同意できるところ」というのは上にグリーンで表示した個所です。
  「ウィキペディア」によると「Islamic State」というのは(https://ja.wikipedia.org/wiki/ISIL#.E3.83.90.E3.83.BC.E3.82.B9.E5.85.9A.E3.81.A8.E3.81.AE.E9.96.A2.E4.BF.82)…。
  <アブー・バクル・アル=バグダーディーを最高指導者とし、「財務担当」「国防担当」「広報担当」という役割を持つ行政機関の「評議会」が存在…> <評議会」の構成員にいるのは旧イラク軍元将校や政治・行政経験のあるバース党員などイラクである。サッダーム・フセイン政権時代の元将校や元政治家が現指導体制の中核を担っており…>
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  どこにも存在しない「大量破壊兵器」や「化学兵器」を隠し持っていると難癖をつけ(国連総会ででも大嘘をつき)正当化して、ブッシュ(息子)大統領が突入した対イラクサダム・フセイン政権)戦争が生み出した"鬼っ子"がいわゆる「Islamic State(イスラム国)」だということは、いまでは世界の常識になっているはずです。
  ですから、Donald Trump氏はここでは、格別に特異な意見を述べているわけではありません。
  「ある国の悪政は(イラクフセイン政権にしろリビアカダフィ政権にしろ)それがその国の内部にだとどまっている限りは、放っておけ」というのはやはり極論ではあると思いますが、一方で、根拠のない"難癖"をつけてまでも第三国の悪政是正にアメリカが乗り出すことにどれだけの値打ちがあるのか…。
  それも、対イラク侵略戦争では、十数万人ともいわれるイラク人と5000人にも届きそうな数のアメリカ軍兵士が殺されているというのですからね。
  しかも、その介入が「Islamic State(イスラム国)」を生み出し、終わりが見えない混乱と恐怖を中東地域を越えて世界に振り撒くことになっているとなると…。
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  「Islamic State(イスラム国)」を生み出すことになる無謀・理不尽な対イラク侵略戦争を開始したアメリカ政府は、その事実についてはまだ真摯には詫びていません。
  世界に向かって真摯に詫びていないということは、また同様の無謀・理不尽な戦争をどこかで始める可能性があるということです。
  憲法に違反して「亡国好戦法」を(形の上では)成立させた安倍自民党政権が「朝貢外交」の姿勢を顕わにしてまでにじり寄っているアメリカという国は、そんな国なのです。
  「大日本帝国」を復活させたいという願望から、アメリカに媚びへつらって日本を「好戦国」へと変質させようとする安倍首相に勝手をさせてはなりません。
  アメリカ軍を"支援"する活動の中で、そのアメリカが生み出した"鬼っ子"「Islamic State(イスラム国)」に手ひどい仕打ちを日本が受けるようなことがあってはなりません。
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  "鬼っ子"「Islamic State(イスラム国)」を生み出したのは自国だという事実を認めないだけではなく、対イラク戦争の不正義を世界に向かって真摯に詫びようともしないアメリカを軍事的に支援することで「国際社会に頼られる国に日本をする」?
  そんな日本を頼る"国際社会"がいったいどこにあると安倍首相は夢想しているのでしょう?
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