第315回  石破茂氏の大詭弁 「根本論を抜きにして」

  自由民主党石破茂幹事長という人は、安倍晋三首相に負けず劣らずに、破綻した論理を弄ぶことを得意とする危険な政治家です。当代随一の(と思われる)詭弁愛好者です。“自分のことを省みる”ということを知らない厚顔無恥の詐欺師なのかもしれません。
  たとえば、2014年05月23日の〔BLOGOS〕に寄稿した【北斗星、安保法制、パーティ、猫など】と題するブログ。
  <先週末から今週初めにかけて、いくつかのテレビに出演して集団的自衛権についてお話ししたのですが、「そもそも集団的自衛権とは何か」という根本論を抜きにして番組が進んでいくことに危惧の念を持たざるを得ませんでした>
  <根本論を抜きにして>ですって?
  これは質の悪い冗談にもなっていません。そもそも「憲法あるいは立憲主義とは何か」という<根本論を抜きにして>時の政権の気まぐれを基にした“憲法解釈の変更”で集団的自衛権の行使容認・拡大を実現しようと猪突猛進しているのはだれなのか?
  安倍政権とそれを支える自民党ですよ。
  過半数の日本人の異論を無視した上で、さらには<根本論を抜きにして>強引極まりない手法で、安倍政権と自民党は、日本を“専制国家”にも等しい国に作り変えようとしているのですよ(「最高責任者は私だ」)。
  近隣諸国との友好関係を保ち増進させるための外交努力にはまったく関心を示さないで、安倍政権と自民党は、日本をただただ“戦争を好む国”に歪めてしまおうとしているのですよ。
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  そんなことをしていて、一方で、たとえば、「(韓国も中国も含めた)アジア諸国からの観光客を増やす」?「増やすのが経済成長戦略の一つの大きな柱」?
  国会での議席数が圧倒的であることに驕り高ぶり、「憲法あるいは立憲主義とは何か」という<根本論を抜きにして>、そのアジアの中のいくつかの国を主たる仮想敵国とする排外思想にしがみついて、日本を“好戦国家”に変化させようと躍起になっている安倍政権と自民党が?
  あまりにも論理が一貫していない政策ではありませんか。
  こんな具合の「経済成長政策」が、狙い通りに、成功することはありえません。
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  【首相、アジア安保会議で演説…「法の支配」強調】 (2014年05月31日 読売新聞)にはこんな内容の記事がありました。
   <【シンガポール=大木聖馬】安倍首相は30日、シンガポールで開幕したアジア安全保障会議(英国際戦略研究所主催)で演説し、東南アジア諸国連合ASEAN)各国が海洋監視能力を強化するのを支援する方針を表明した><フィリピン向けに新しい巡視艇10隻を提供する。東シナ海南シナ海で挑発を続ける中国を念頭に、海洋における「法の支配」の重要性も強調した
  え?あの安倍首相が<「法の支配」の重要性>を<強調した>ですって?
  自国の最高法規である憲法を“亡き者”にすることに血道を上げている、あの安倍首相が?
  上の記事のつづきはこうでした。
  <首相は演説で、海洋の法の支配の「3原則」として、〈1〉国家は法に基づいて主張する〈2〉主張を通すために力や威圧を用いない〈3〉紛争解決には平和的収拾を徹底する――を挙げた>
  1.安倍首相と自民党が<法に基づいて>、つまりは「正規の改憲手続きを経たうえで」、集団的自衛権の行使容認・拡大を実現しようとしてはいないことは、すでに、あまりにも明らかではありませんか。
  2.自民党(と公明党)の議席数の多さをいいことに、安倍首相と自民党が政策推進と国会運営を<力や威圧>を前面に押し立てて強行していることも隠しようがない事実です。
  3.安倍首相と自民党が、諸政策について野党とのあいだで<平和的収拾を徹底>していますか?
  上のアジア安全保障会議での安倍首相の演説は何から何まで、恥知らずの大嘘です。「また安倍首相の二枚舌」だと世界の良心が嘲笑するに違いない類の恥ずべき<演説>です。
  国内では「法の支配」を破壊することに無上の喜びを感じていると見える安倍首相が、国外で「法に基づいて主張する」などと言っても、それがそのまま信じられるはずはありません。
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  そもそも、いまの安倍政権と自民党には、国の重要事項を決定・遂行する資格がありません。
  【12年衆院選違憲状態 最高裁判決、一票の格差訴訟】 朝日新聞 2013年11月20日http://www.asahi.com/articles/TKY201311200295.html?ref=com_top6)などの報道を受けて、「苦言熟考」は【第295回 特定秘密保護法 “違憲状態”のくせに?】でこう書いています。
  <何事によらず、常に“筋”を通すべきだという頭の持ち主には以前から明らかなことでしたが、きょう、20日の最高裁判所の判決で、事はいっそうすっきりしました> <国民の日常生活にただちに、著しく影響を及ぼす事例に関するもの以外の法案の審議を国会(衆議院)は即刻、中止するべきです> <中止して、国会の「違憲状態」を正す作業にはいるべきです> <いいですか、国会は衆参両院ともにすでに「違憲状態」にあるのですよ> <そんな「違憲状態」にある国会には、重要法案を審議し、その法律を成立させる資格はありません> <まして、日本を中国や北朝鮮なみの非民主主義的な、官僚と検察・警察がおおいばりする、寒々とした国にしてしまおうという「特定秘密保護法」を!> <国民の自由を奪うことを主目的とした「憲法改変」がそうであるように!>
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  「解釈改憲」がまたそうであるように!
  そしていま、もっと重要なのは、国会が<違憲状態>にあるのだから、その国会に選出されている首相と内閣も、当然のこととして<違憲状態>にある、ということです。
  安倍首相と自民党には(国の重要事項に関する)政策を遂行する資格がない、ということです。
  最高裁判所の判決を完全に無視する安倍政権と自民党は、国会自体とおなじように、日本最悪の“無法集団”なのですからね。
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  ところで、日本の野党と報道機関が、その本来の役割を果たしていないということが、ここでも明確になっていますよね。野党と報道機関は、安倍首相と自民党の強権に(相撲でいうなら)寄られっぱなし。土俵際に追い詰められたところででしか、つまり、「集団的自衛権行使の条件」などといった枝葉末節についてでしか発言ができない、惨めな“負け犬”に成り下がっています。
  安倍首相と自民党の強権による政治を追認するだけの“負け犬”に。
  安倍首相と自民党には重要政策を遂行する、ましてや、解釈を変えて憲法を歪めきってしまう資格はない、というあまりにも“当然の事実”すら声にできない、いってみれば、土俵の真ん中での相撲が取れない、常に逃げ腰の“負け犬”に。
  日本人にとっては実に不幸な時です。
  多くの日本人が、自分たちがいま、いかに不幸な時代の中にいるのか、を知らないでいることが、その不幸をさらに深いものにしています。
  目覚めるべきときです。
  安倍首相や石破幹事長の大嘘、詭弁に翻弄されていてはなりません。
  物事を「根本論」に基づいて考えれば、当然ながら、そういう結論に至ります。
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  とはいうものの、かならずしも“負け犬”の議論ではない例として参考になる記事がないというわけではありません……。読むに値する記事の一つですよ。
  【特集ワイド:首相が急ぐ集団的自衛権行使容認 非現実的な「事例集」←専門家が指摘】 毎日新聞 2014年06月17日 東京夕刊 (http://mainichi.jp/shimen/news/20140617dde012010008000c.html)  
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《2014年6月27日 追加》
  【社説:選挙制度改革 重い宿題を早くこなせ】毎日新聞 2014年06月27日 (http://mainichi.jp/opinion/news/20140627k0000m070093000c.html
  <確かに選挙制度には一長一短がある。ただし、一度改革すると決めた以上、早く宿題をこなすのは当然だ。違憲状態をだらだらと放置している人たちに、果たして憲法解釈や憲法改正を議論する資格があるのか−−という話でもある
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  【米外交専門誌「不正直な安倍、憲法クーデター試みる」】朝鮮日報 2014/06/26 (http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/06/26/2014062601673.html
  <米国の外交専門誌「フォーリンポリシー」は24日、「不正直な(dishonest)安倍」と題する論評で「米政府はイラク問題のため最近、日本のこうした動きに目を向けられていない。これを利用して安倍晋三首相は目に付かないよう静かに憲法クーデターを試みている」と主張した>
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