第316回 韓国の「漢字排斥」と日本の「憲法破壊」

  「苦言熟考」は2014年4月11日に【第309回 いくらなんでも、やり過ぎでは、それは?】というエッセイを書いています。
  【韓国アイドルの新曲 日本語使用で「放送不適合」】(ソウル聯合ニュース 2014/04/03) (http://japanese.yonhapnews.co.kr/headline/2014/04/03/0200000000AJP20140403001000882.HTML)という記事を読んだからです。その記事というのは−−
  <韓国の5人組女性アイドルグループCRAYON POP(クレヨンポップ)の新曲「オイ」(原題)が、歌詞に日本語的な表現があるとして韓国テレビ局のKBSから放送不適合の判定を受けた><KBS関係者は3日、最近行われた歌謡審議の結果、新曲「オイ」の歌詞のなかで、日本語のピカピカのピカを入れた「ピカポンチョク」という表現が問題になったと明らかにした><これに関連し、所属事務所の関係者は「歌詞を『ポンチョクポンチョク(ピカピカの韓国語)』に修正し、直ちに再審議を申し入れた」と述べた>
  という内容のものでした。「苦言熟考」はこう反応しています。
  <しかし、「ピカ」の「放送不適合」決定については、日韓両国民の相互親善・理解を深めようという観点からは、「完全にやり過ぎだ」としか思えません。いえ、もっといえば、自分(自国)が信じる、実はとうに干からびている“正義”に固執、執着しただけの、未来志向を欠いた、意味がない、というよりは有害な、決定だとしか考えられません> <いまの韓国には「未来志向を欠いた“やり過ぎ”」がいささか多過ぎるように感じます。その「やり過ぎ」のせいで、もともと親韓的な日本人まで“嫌韓”に走らせてはいないかと憂えます?>
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  さて、韓国で“排斥”されているのは日本語だけではありません。漢字もそうなのです。韓国が漢字教育を初等教育から排除してから40年余。そしていま、その是非に関する議論が起き始めているようなのです。
  ハングルと漢字との関係に関する記事を「朝鮮日報」は、この6月だけでも、4本掲載しています。
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  【キャンパスにあふれる漢字を読めない歴史学徒たち】2014年 06月 22日 (http://www.chosunonline.com/site/data/html_dir/2014/06/22/2014062200471.html
  <「先生、質問があります。『ホウキ』って何ですか?」> <これは、ソウル市内の私立大学史学科で教えているA教授が数日前、新入生オリエンテーションで学生と話していたときに受けた質問だ。「蜂起(ほうき)」とは「虫のハチ(蜂)」に「起こる」と書いて、「ハチの群れのように大勢の人々が一斉に反乱などの行動を起こすこと」という意味だ。「歴史学科に志願しておきながらそんなことも知らないのか」と注意しようとしたが、周りの学生たちもみんな分かっていなさそうな顔をしていた> <深刻な例では、戦争で大勝したことを意味する「大捷(たいしょう)」という言葉を、単に大きな戦争を意味する「大戦」と同じだと勘違いしている学生も多かった> <その単語を構成している漢字を知っていればすぐに意味が分かるはずなのに、教科書にはハングル文字だけが書かれているため、意味も分からないまま丸暗記に精を出していたというわけだ>
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  【「漢字を学ばない韓国、東アジアで孤立する」】2014年 06月 19日 10:52
  【漢字教育で論争「ハングル専用政策は違憲」】2014年 06月 19日 10:50
  【漢字教育は反民族行為? ハングルだけ使うのが愛国か】2014年 06月 15日 07:06
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  「朝鮮日報」のほかにも、たとえば、4月には「ソウル経済」の−−
  【韓国で広がる“漢字放棄”に専門家が警鐘—韓国紙】 (レコードチャイナ 2014年4月9日) (http://3g.recordchina.co.jp/news.jsp?id=86268&type=)という記事がありました。
  <2014年4月8日、韓国・ソウル経済の報道によると、同国国会運営委員会は同日、国会のロゴマークと旗の表記に関して、漢字の「國」をハングルに変更することで可決した。2013年には国会の議長のネームプレートもハングルに表記が変わるなど、韓国国内で漢字を使用しない動きが広まっている。これに対し韓国の専門家は警鐘を鳴らしている。9日付で環球時報(電子版)が伝えた> <韓国国会議員の中には、「ハングルに変えることで、ハングルの独創性や優れた点を示すことができる」との意見も聞かれている> <一方で、反対の声も上がっている。朝鮮日報によると、韓国全国漢字教育総促進会の陳泰和理事長は、「韓国国内で、ハングルだけが韓国の文字だと考えている人がいるが、漢字の使用放棄は韓国の伝統文化を根本的に破壊することに等しい。漢字が外国の文字だというなら、なぜ韓国の戸籍はすべて漢字なのか。韓国国会議員が朝鮮半島で数千年にわたり使用してきた漢字を放棄することは正常な考えではない」と指摘している> <報道によると、ある調査では、89.1%の韓国人が小学校での漢字教育再開を望んでいるが、韓国での漢字放棄は一時的なものではなく、すでに後戻りできない流れを形成しているという>
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  【韓国、漢字レベル低下で「文献」読めない学生急増=ソウル市は「漢字教育の強化は韓国語教育の発展を阻害」】(レコードチャイナ 2014年3月22日)(http://3g.recordchina.co.jp/news.jsp?id=85328)という記事には−−
  <報道によると、韓国では1990年以降“韓国語浄化ブーム”が起き、漢字の地位は日増しに低下している。ソウル市教育庁は2014年、3億2000万ウォン(約3000万円)の予算を組み、小中学校での漢字教育を強化する方針を示していたが、ソウル市議会はその予算の一部を削減した。市議会は「漢字教育の強化は韓国語教育の発展を阻害し、漢字の民間教育に良くない風潮をもたらす可能性がある」と説明している>
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  「ウィキペディア」はこう解説しています
  <漢字廃止政策の前後、または政策実行の程度によって習得率が変わり、つまり韓国での漢字教育(知識・能力)は世代によって異なっており、大多数は自分の名前、自国の名称すら書くことができないが、たとえ漢字を扱える人であっても“読めても書けない”人が多い。現在、韓国内で漢字が使用される場面は、漢字圏からの訪問客対策として実施された道路標識や公共交通機関での漢字併記、ニュースなどにおける国名の漢字略称、新聞の見出し文字、「大」など特定文字を強調したい場合、法律関係、仏教関係、冠婚葬祭などに限られる>
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  <ハングルに変えることで、ハングルの独創性や優れた点を示すことができる>と<漢字の使用放棄は韓国の伝統文化を根本的に破壊することに等しい>
  さて、どちらの主張に“理”があるでしょうか?
  韓国のことは韓国が決めればいいのですが、ハングルへの“溺愛”は一方で、日本語の排斥というような、外交に関わる事項にまで影響を及ぼしています。「ハングルは世界一の言語表現手段だ」というような思い込み方がさまざまな形で外交の世界をも飲み込んでいるとしたら……。
  いえ、いえ、韓国国内のことだけ考えても、「漢字の使用放棄は韓国の伝統文化を根本的に破壊することに等しい」という主張には、真剣に傾聴する価値があるのではないでしょうか。
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  漢字排斥の続行と漢字復活。
  あえて私見を述べれば、漢字排斥の動きが“偏狭な愛国心の発動”として韓国国内で広く強く批判される日が遠くないように思えます。いま、韓国の教育現場や日常生活の中に表れているという諸問題を考えれば、性急な漢字排斥は、やはり「やり過ぎ」だったのではないかと−−。
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  そこで、“わが身”を振り返ってみますと、この日本にも“偏狭な(偽りの)愛国心”を煽り立て、性急に、広範な議論を拒んで、日本の平和国家としての存在を葬り去ろうとしている人物がいます。政党があります。
  「特定秘密保護法」「日本国憲法の“解釈改変”」
  “偏狭な(誤った)愛国心の発動”で、330万人にものぼるといわれる膨大な数の日本人を無残な状況下で死なせてから、まだ70余年しか経っていないというのに。
  戦争の実体験がないというだけではなく、戦争とは何であるかの検証をまともには一度もやったことがない(としか見えない)人間の頭数を集め、空論に空論を重ねて、国民を脅し誑(たぶら)かすというやり方で。
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  偽物の愛国心を振りかざして、平和国家=日本を破壊し(ようとし)た、と安倍晋三自民党政権(と公明党)が糾弾される日が必ずやって来ます。
  “偏狭な(偽りで、誤った)愛国心”に永劫の“理”があるはずはありませんからね。
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  28日の毎日新聞・余禄にこんな個所がありました。
  <「私は普通の人間と人体の構造が同じだから神ではない。そういう事を云われては迷惑だ」。戦前、天皇機関説を排撃する神がかり的な天皇論が軍部などにより高唱された時の昭和天皇の言葉である>
  昭和天皇の常識を軍部の「神がかり的な天皇論」が押しつぶしていく過程のことです。
  偏狭な、偽りの、誤った愛国心は平明な常識さえも圧殺する恐ろしい力を持っている、ということを示す逸話ですよね。
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  新聞の報道で知る限りでは、ハングルを「神がかり的な」言語として崇めることの危うさに、韓国は気づき始めているようです。
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  「苦言熟考」は2013年6月20日に【第280回 漢字表記を捨てたもので…】というエッセイも書いています。その中に引用した「朝鮮日報」の記事中では、記者が <漢字が分からないために、現在われわれが使っている韓国語での意思疎通がうまくいかなくなってきている>と指摘していました。
  韓国国民がそうとは意識しないあいだに−−。
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