民主党の代表選挙が菅首相と小沢前幹事長のあいだで戦われています。
小沢氏が立候補すると決めたからには、両者で堂々と政策論争をやってほしい−というような声が世間では一般的なようですが、そんなことはこの選挙を実施する前から、つまりは、民主党が昨年の衆院選に勝った直後から、まして、この夏に参院選に負けてからはそれまでにも増して、真剣に、やっておくべきだったことです。
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その期間中、小沢氏は、内閣と党は別だと決め込んで、たとえば、(どうやらたがいに盟友同士であるらしい)鳩山前首相の、特に普天間基地の移転をめぐる迷走も党幹事長として横目に見ていただけで、危ない政策論争からは逃げ通しました。逃げ通しておいて、いま、自分の手は汚れていないと言わんばかりの姿勢をとって、(盟友)鳩山氏を孤立させています。
参院選が終わってからは、自分への支持率が20パーセントにも届かず、国民の支持はほとんど集められなかっただろうという見方には頬かむりをして、「45議席なら俺だって取れた」とうそぶいているそうです。参院選に向けて自分が十分には動かなかったことについても、菅首相に「しばらくは静かにしていろ」と言われたからなどと、無責任で恥知らずな主張を平然としているようです。党を愛する心よりも私怨を優先する、いかにも小沢氏らしい態度ですね。
こんな人間が、事実上首相を決める民主党党首選に立候補して何をしようというのです?
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小沢氏の「政治とカネをめぐる疑惑」について「苦言熟考」は検察の捜査の仕方を批判してきましたし、検察審査会の偽善に満ちた“横槍”にも反対してきました。「説明責任」を果たせというマスコミや野党の主張にも、検察の捜査対象となっている人物に「説明責任」はないと小沢氏を、いわば、かばってきました。
しかし、政治家としての小沢氏は自己中心的で誠実さのない人物です。多くの例を挙げる必要はありません。あの、自民党との“大連立”画策事件を思い出すだけで十分です。
当時、民主党は政権獲得に向けて、少しずつではありましたが、前進していました。なのに、小沢氏は、党の機関にも幹部にも諮ることなしに、単独で、自民党の森元首相らと語らい“大連立”を実現しようとしました。その企てに失敗すると小沢氏は「いまの民主党には政権担当能力がない。連立政権下で学ぶべきだ」と強弁しました。自分の野心を実現させるために、党員・盟友を小沢氏は裏切ったのです。自党の国会議員を事実上“能なし”呼ばわりして自分の愚考・愚行を正当化しようとしたのです。
こんな破廉恥漢が日本の首相になりたがる?
“裏切り”も必要な政治的能力の一つだと小沢氏は信じているのでしょうね。
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「カネと政治」の問題に関しても小沢氏は自分の元秘書などを裏切っています。検察が自分を不起訴にすると小沢氏は、正しい判断を示したと検察を賞賛したのです。小沢氏への不起訴が検察による正義の表現だというのなら、元秘書らの起訴でも検察は正しかったと言うしかなくなります。実際に、検察を賞賛することで、小沢氏は元秘書らを見殺しにしたのです。
この人に、言葉の真の意味で“信”があるとは思えません。小沢氏は、そんなふうに“筋”を通さない人物なのです。
自分の利のためには、無原則に、誰でも裏切ることができるのが小沢氏です。
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小沢氏は、衆院選で民主党が掲げたマニフェストをすべて実行するべきだと述べています。「子ども手当て」「高速道路の無料化」「高校無償化」などへの国民の支持率は過半数に達してはいなかったはずです。あのマニフェストの中には、国民が「押しつけてほしくない」と感じているものが数多くありました。しかも、小沢氏は、そういう政策を実施するための財源をいまも示していません。「予算の組み替えで財源は出てくる」?
衆院選の前にも「20兆円(少なくとも7兆円)ぐらい、すぐに出てくる」と小沢氏らは主張していましたよね。なのに、自分たちが作り上げたマニフェストが政権交代後に深刻な財源不足に直面すると、ここでも小沢氏は、自分が任せられているのは党務だというつもりだったのか、何の策も提案しませんでした。普天間問題のときとおなじように、また逃げ通したのです。
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鳩山氏が首相を辞め、小沢氏が民主党幹事長の座を降りてから何か月が経ちました?
二人がそうしたのには、そうする理由が何かあったわけでしょう?その理由はどこへ行ってしまったのでしょう?辞任などなかったかのように、鳩山氏は、“長老”を気取って、菅首相と小沢氏のあいだを取り持とうとしましたし、小沢氏もすっかり「国民の期待に応える気」になっているようです。
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万が一にも小沢氏が首相になった場合、国会が正常に動きますか?
小沢氏が持ち前の“豪腕”であらゆる難局を乗り切ってくれるはずだ?
国民の意思を無視する、意見に背く、そんな魔法が現実にありえると思いますか?小沢政権を何パーセントの国民が支持するでしょうか?
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「首相をころころと変えるのはよくない」という大多数の国民の考えを、素人のたわ言だとばかにする人たちが、小沢氏の支持者の中に数多くいるようです。
「よくない」に決まっているではありませんか。まして、制度の上では、首相は、二つの衆院選のあいだ(長ければ4年間)は在職して政策遂行に励むことになっています。民主党がいま党首選挙を行うのは、あくまでも、党の規約で「党首は2年間」となっているからでしょう?言ってみれば、国が想定している首相任期を、一政党の規約と事情を優先して縮めているわけでしょう?本末転倒というのではありませんか、こういうの?
そんな問題だらけの党内規約を盾にして、党内人事抗争を展開し、自分の野心を満たそう?
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菅首相が最高だと主張しているのではありません。
菅首相は「脱・官僚依存」「行政の無駄の排除」などという、国民が民主党に最も求めていたものを、無思慮にも軽視してしまいました。それだけでも民主党の党首として失格していると思っています。
つまり、菅首相がどうであれ、小沢氏の「俺が首相になるときだ」という考えは理屈に合っていない、筋が通っていない、と「苦言熟考」は考えているのです。
そもそも、小沢氏は、一部の崇拝者が信じているような大きな器の人物ではないはずです。自己保身に汲々としてきた、計算高い、旧時代の政治家だと思えます。年季が入った裏切り常習者に見えます。
代表選で示される小沢氏の政策がどうであれ、この人物の言動からは明るい日本の未来像はまったく見えてきません。
民主党のこの代表選には“大義”がありません。
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<参考記事>
民主代表には…菅氏66%、小沢氏18%
(読売新聞) [2010年9月5日]
読売新聞社が3〜5日に実施した全国世論調査(電話方式)で、民主党代表選(14日投開票)について聞いたところ、次の代表に菅首相がふさわしいと思う人は66%、小沢一郎前幹事長は18%だった。
告示直前の前回調査(8月28〜29日実施)は「菅氏67%―小沢氏14%」で、世論の支持では依然として菅氏が小沢氏を大きく上回っている。民主支持層に限ってみると、菅氏74%(前回77%)、小沢氏20%(同17%)だった。
争点となっている昨年衆院選の政権公約(マニフェスト)の取り扱いに関しては、状況に応じた修正を主張する菅氏への支持は71%で、マニフェスト通りの政策実現を目指す小沢氏支持は17%にとどまった。