第152回付録  「筋を通す」

  「こんな人物がまだいるのだな!」と久しぶりに感じた。すっきりした気分になった。
  元検事で名城大学教授の郷原信郎氏のことだ。
  時事通信が少し前に報じたところによると、郷原教授は<民主党から夏の参院選への出馬を要請されたものの、断った>そうだ。<小沢氏(民主党幹事長)の公設秘書が逮捕・起訴された西松建設の違法献金事件を含め、検察の捜査に一貫して批判的で、民主党有志の勉強会などにしばしば講師として招かれていた>のに…。

  断った理由がいい。実に筋が通っている。
  <小沢一郎幹事長が資金管理団体政治資金規正法違反事件で不起訴となった後、「公平公正な検察の捜査の結果」と語ったことに言及。「(小沢氏を)全く信用できない。石川知裕衆院議員(小沢幹事長の元秘書)らの逮捕を批判しながら、なぜ自分が不起訴になったからといって検察を持ち上げるのか」と述べた>というのだ。

  政治資金規正法違反の容疑で自分の元秘書たちへの取り締まりが始まり、マスコミが小沢氏に(的外れなことに!)“説明責任”を果たすように求めだしたころ、小沢氏は、検察の捜査は不当であるという趣旨の発言を繰り返して、検察特捜部に対する戦いの姿勢を鮮明にしていた。いや、その姿勢に問題があったとは思わない。元秘書たちへの捜査が、最終的には、西松建設などからの小沢氏への不正献金=小沢氏による収賄あるいは斡旋収賄(特捜部にとって悪くとも、脱税)事件として立件しようという検察の意図があまりにも明らかだったし、小沢氏には、当然なことに、自分を法的に守る権利があったからだ。

  だが、自分が不起訴となったとたんに<検察の捜査は“公平公正”だった>ですって?
  検察特捜部=司法官僚への完敗宣言ではないか、これでは!
  郷原氏が小沢氏は<全く信用できない>と言ったのは当然だ。
  小沢氏の発言は“ご都合主義”そのものの、“敵”を利する、実に軽々しいものだったのだ。

  それほど遠くない過去のことだ。自民党との“大連立”をひそかに画策していたことがばれ、それに失敗したあと、小沢氏は<いまの民主党には政権担当能力が十分ではないから>という趣旨の理由を述べたことがあった。自分の党と党員への大きな裏切り発言だった。策士がその策に落ちたらいかに醜くなるかがよく分かった事件だった。
  小沢一郎という人物は、おそらく、そういうやり方でずっと政界を生き延びてきたのだ。自分の都合しだいでは平気で仲間を裏切ることができる、そんな人物なのだ。
  そんな人物が、政権獲得後の“新生”民主党を導く指導者にふさわしいとは、とても思えない。

  それにしても、“豪腕”の異名を持つ、政権政党の幹事長のことを<全く信用できない>とおおやけに言い切ることができる人物が(相手の追い落としだけをもくろむ自民党などの政敵を除けば)いまの日本にどれぐらいいるだろうか?
  郷原氏のように筋を通すことができる人物がまだ日本にもいることを知って、ほんの少し安堵した。