第216回 小沢さん、それって誇大妄想では?

  「苦言熟考」は数か月前に<小沢氏には自己中心の誇大妄想癖があるのではないかと改めて疑い始めています>と書いたことがあります(第199回 決死隊 あなたが隊長になったら、小沢さん  http://d.hatena.ne.jp/kugen/20110504/1304462822)。ここで小沢氏と呼んでいるのは、いうまでもなく、民主党元代表の、あの人のことです。
  その根拠については<小沢氏の実行力を評価したり、それに期待したりする勢力も小さくはないようです。ですが、過去の数年間に小沢氏が現実に世に示した実行力にはいったいどんなものがありました?><のちに民主党をいまのような惨めな状態に落とし込んだということを除けば、大勝利したあの衆議院銀選挙で掲げたマニフェストのとりまとめぐらいではありませんか?><しかも、そのマニフェストの中の子供手当てにも高速道路無料化にも、高校無償化にも、国民の過半数は反対してましたよね><あの選挙に民主党が勝ったのは俺の力、俺の戦術があったからだと小沢氏は思っているのでしょうが、はたして、そうでしょうか?国民の大多数がただ、もう自民党はいやだ、と考えたからだったのでは?>と書いています。
  一方で、小沢氏が筋を通さない政治家であることについては<小沢氏の「政治とカネをめぐる疑惑」について「苦言熟考」は検察の捜査の仕方を批判してきましたし、検察審査会の偽善に満ちた“横槍”にも反対してきました。「説明責任」を果たせというマスコミや野党の主張にも、検察の捜査対象となっている人物に「説明責任」はないと小沢氏を、いわば、かばってきました><しかし、政治家としての小沢氏は自己中心的で誠実さのない人物です。多くの例を挙げる必要はありません。あの、自民党との“大連立”画策事件を思い出すだけで十分です><「カネと政治」の問題に関しても小沢氏は自分の元秘書などを裏切っています。検察が自分を不起訴にすると小沢氏は、正しい判断を示したと検察を賞賛したのです。小沢氏への不起訴が検察による正義の表現だというのなら、元秘書らの起訴でも検察は正しかったと言うしかなくなります。実際に、検察を賞賛することで、小沢氏は元秘書らを見殺しにしたのです>などとも述べています(第170回 知っています?「筋」って言葉?小沢さん  http://d.hatena.ne.jp/kugen/20100902/1283388618)。
  【小沢氏初公判 「4億円」の出所をどう語る(10月7日付・読売社説)】はこう述べています。<小沢氏は捜査中から検察批判を繰り返し、検察が嫌疑不十分で不起訴とすると、「公平公正な捜査の結果」と態度を一転させた。被告席についた途端、再び検察に批判の矛先を向けるのは、ご都合主義以外の何ものでもなかろう>
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  さて、自分の政治資金取り扱いに関する裁判の開始が間近になった10月2日に、その小沢氏がインターネットを使った番組に出て、自分が思うところを語ったそうです。
  新恭という人が開いている「永田町異聞」というホームペイジが「小沢関連記事に新聞のモラルはないのか」と題するブログで<小沢氏は昨日、「ネットメディアと主権在民を考える会」という市民グループが催した対話番組に出演し、1時間にわたる普通の市民とのやり取りがネット動画中継された>(引用者註:原文のママ)と報じています(2011年10月03日11時24分)。
  それによると、小沢氏の発言の中身は「私自身がなんとしてもこの国を変えなくてはいけないと強烈に思っているので、今までの体制を、制度や仕組みを、行政であれ何であれ変えることになる。いままでの体制のなかで既得権を持ってきた方々にとっては、恐怖となるので、あいつだけは許せない、あいつだけは国政の先頭に立たせてはいかんという意識がはたらくんじゃないでしょうか。…ある意味では政権交代スケープゴートにされたということではないでしょうかね」というものだったそうです。
  いかにも小沢氏らしく、故意にあいまいに述べられた、計算高い発言ですね。小沢氏がここで言いたかったことは、要するに、俺は<いままでの体制のなかで既得権を持ってきた方々にとっては、恐怖となる>存在だ、ということのようです。なぜ<恐怖となる>のかといえば、小沢氏が<なんとしてもこの国を変えなくてはいけないと強烈に思っている>からだそうです。
  待ってください。<この国を変える>といったって、小沢氏がこの数年のあいだにやろうとしたことは<国民(の生活)が第一>というスローガンに乗せた<子供手当て><高速道路無料化><高校無償化>政策の実行だけだったのではありませんか?それも、財源を確保する道すら見当たらない状態で?
  いえ、ですから、小沢氏の、たとえば、財政状態の現実を考慮しないでいられる、そんな無責任ぶりに、ある意味で“恐怖”を感じる者は確かにいたかもしれませんが、言ってみれば、小沢氏というのはその程度の思考しかできない人物で、<いままでの体制のなかで既得権を持ってきた方々>に、小沢氏を怖がる格別の理由があるとはとても思えません。
  待て、<行政であれ何であれ>という表現で小沢氏は<脱官僚(依存)>方針を示唆しているのだ、ですって?だったら、鳩山政権時にも、菅政権時にも、<脱官僚(依存)>に関して小沢氏が何の動きも見せなかったのはなぜだったのでしょうか?“政治とカネ”の問題で、事実上の謹慎状態を強いられていたからだ?もし小沢氏がそんなことを言い訳にして戦いの場から身を隠すような“腰抜け”政治家であるのなら、官僚を含めた<いままでの体制のなかで既得権を持ってきた方々>がこの人をほんとうに怖がることは、やはり、ないでしょう?
  自分が<いままでの体制のなかで既得権を持ってきた方々にとっては、恐怖となる>というのは、小沢氏の、いつもの誇大妄想です。
  だって、ほら、検察が小沢氏を不起訴とすることを決めたときに、この人は、正しい判断を示したと、検察を無条件に賞賛したのですよ。自分の秘書たち3人はまだ起訴されたままだというのに。こんな無節操な、権力への“尻尾振り”政治家を検察が怖がると思いますか?
  それに、裁判を直前に控えた小沢氏が人びとに信じさせたがっているらしい<検察=いままでの体制のなかで既得権を持ってきた方々>という構図はとうに成り立たなくなっているのですよ。だってそうでしょう?検察は小沢氏を起訴しなかったのですからね。小沢氏が愛する陰謀論をここで用いると<検察は起訴権を自ら封じて小沢氏を苦境から救い出し、小沢氏と組んで“国を変えよう”としている>というような、おかしな論が通ることになりはしませんか?くり返します。検察は小沢氏を起訴しなかったのですからね。小沢氏の主張、というだけでなく、そもそも陰謀論というのはいつも、このように簡単に破綻するものです。初めから根拠が薄弱で論理が一貫していない、思い込みで作り上げるのが陰謀論なのですから、そうなるのは当然なのです。
  小沢氏を起訴させたのは検察審査会でした。ですから、検察庁の決定を不服とした検察審査会こそが実は<いままでの体制のなかで既得権を持ってきた方々>だと証明しない限りは、小沢氏の、自分は<政権交代スケープゴート>だという主張、陰謀論は成立しなくなります。…検察に楯突いた検察審査会が既得権の代表者だと、冷静な頭で思えますか?
  <あいつだけは国政の先頭に立たせてはいかんという意識がはたらくんじゃないでしょうか>というのも、かなりの思い上がり者にしか発せられない言葉ですよね。だれかに妨害されなければ自分は<国政の先頭に>立てる人物だ、と言い切っているも同然の発言ですからね。しかし、小沢氏が過去数十年間に実際にやってきたことといえば、いくつか政党を創り、それをつぶしてきたことだけではないのですか?ほかに何かがありましたか?なかったとすれば、自分の権力欲にだけ従って行動する、建設的なことがまったくできない小沢氏のような人物は危険だから<国政の先頭に立たせてはいかん>と<いままでの体制のなかで既得権を持ってきた方々>と国民=有権者が仮に考えたとしても、そのどこが悪いというのでしょうか?
  既得権者を悪と決めつければ自分が正義の殉教者、改革者に見えるのではないか、自分への同情者が増えるのではないか、と考えるのは児戯というものです。小沢氏がそんな程度の、底が見え透いた思考しかできない政治家だと見透かされているからこそ、「その秘書3人に有罪判決があったのだから小沢氏は議員を辞職するべきだ」という意見が世論調査で80パーセントにもなるのです。
  小沢さん、もう誇大妄想に酔いしれるのはやめてください。あなたのその性癖が日本を混乱させています。大きなことを言うのは、自分が<国政の先頭に>立つ政治家であることを、口先でだけではなく、一度、実際の行動で自らちゃんと証明してからにしてください。
  いまのあなたは、あなた自身が創った民主党の党首選挙に、自らはもとより、自派のだれ一人も出馬させられなかった、その程度の政治家なのです。その自覚がないあなたは、もうほとんど道化者にしか見えませんよ。
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  第197回 小沢・鳩山氏 “後出しじゃんけん”でも敗北 (http://d.hatena.ne.jp/kugen/20110414/1302742788
  第192回 小沢さん、鳩山さん、もう消えてください   (http://d.hatena.ne.jp/kugen/20110307/1299468431