第147回 「次は スポーツ 一柳さん です」

  NHKで「次は スポーツ 一柳さん です」というような表現を好むのは、夜9時のニュースの青山キャスターだけではありません。
  と言うよりは、そんな言い方がNHKではごく普通になっています。そして、それが大問題であることにNHKは気づいていません。
  言葉をこのように使うのをNHKはただちにやめるべきなのに。

  なぜ「大問題」なのか、ですって?
  それは…

  「次はスポ−ツ・ニュースの時間です。一柳がお伝えします」
  「次のスポーツ・ニュースは一柳が担当します」
  「次はスポーツ・ニュースをお伝えします。担当するのは一柳アナウンサーです」
  「次は、一柳アナウンサーが担当するスポーツ・ニュースの時間です」
  「次にお伝えするスポーツ・ニュースを担当するのは一柳です」

  …などといった多様な表現がすべて抹殺されてしまうからです。思考が単純で幼稚なものに一元化されてしまうからです。
  簡便さだけを“良”として、言葉の豊かさを日本語から奪ってしまうのはNHKの仕事ではありません。
  むしろ、NHKは日本語の豊かさの保護者・擁護者でなければなりません。
  そうであるのが視聴料を払っている国民への義務であるはずです。

  日本語の表現から豊かさを奪ってしまうと、日本人はいずれ、豊かに思考することを忘れてしまいます。
  いえ、NHKのアナウンサーやキャスター、記事や原稿を書くライターたちはすでに、豊かな日本語の使い手ではなくなっています。豊かな思考者ではありません。

  ですから、たとえば、「けさの積雪 交通が大混乱 です」というような言い方を安易にしてしまいます。いえ、これでも、意味は通じるでしょう。ですが、これは実に幼稚な表現です。
  「けさの積雪で交通が大混乱しています」「けさの積雪が交通を大混乱させています」などの方がまともだと感じませんか?

  <苦言熟考>はこれまでに何度も、NHKが日本語を劣化させている、と非難しています。
  理由は明確です。NHKのような影響力が強いメディアが劣化した日本語を多用するようになると、日本人全体がそれに倣うからです。日本人全体が劣化した日本語を使うようになってしまうからです。
  劣化した日本語を使うようになって…
  日本人全体が劣化した思考しかできなくなってしまうからです。劣化した思考力で国際・産業・経済・科学社会を生きていくことになるからです。日本人全体がそうなることを狙っているのでなければ、NHKはいますぐ、局内で<正しい日本語を使う運動>を起こすべきです。

  <ケイタイ・メイルの普及が日本語を悪くしている>という主張があります。いくらかはそう言えるかもしれません。そこでは日本語の短縮、圧縮、変形がごく当たり前のこととして行われているようですから。
  しかし、ケイタイ・メイルの交換は、あくまで、私的なものです。新たな“奇語”の“奇用”がある特定グループのあだで流行することはあっても、それが日本語の主流になることはまずありえません。

  NHKが日本全国に送り届ける言葉・表現はそうではありません。それが日本人の言葉・表現、思考力を大きく変えてしまいます。NHKはそこのところをよく自覚しなければなりません。
  ニュースの中のある人物が用いた「見れる」や「食べれる」を字幕で「見られる」「食べられる」に変えるだけでは不十分なのです。