第112回 民主・小沢代表の公設第一秘書が逮捕されました

  民主党の小沢代表が(自民党史上最低の総裁の一人、森元首相らに乗せられて)自民=民主の“大連立”に動いていたことが明らかになったとき、<苦言熟考>は「小沢氏が①党に諮ることなく独断で、②その前の参議院選挙で表明された(自民にはここらで一度政権を離れさせようという)国民の意思を無視して“大連立”を画策したのは重大な過ちだ」「小沢氏の辞意を撤回させて党首にとどめた(鳩山氏ら)民主党幹部の判断も間違っている」という趣旨の文章を書いています。

  http://d.hatena.ne.jp/kugen/20081109/1226209229
  http://d.hatena.ne.jp/kugen/20081109/1226212001

  その小沢代表が先日、唐突に「(米海軍)第7艦隊がいるから、それで米国の極東におけるプレゼンス(存在)は十分だ」(2月24日)、「日本の安全保障、防衛に関連することは日本が果たしていく」(25日)、「米軍でやらなくても自衛隊でやれることはやっていけばいい」(27日)という意見を公にしています(毎日新聞)。
  日本国憲法の根幹を覆そうとしているともとられかねない(日本の本格的な再軍備を熱望している、自民党の最右翼に属する議員・党員でも陰でしか語らない類の)大胆発言です。
  いえ、民主党がどのような考えを抱いていようと、それが党の内に秘められていて国民にまったく知らせられていないのでなければ、何の問題もありません。国民は次の選挙で、その民主党の考えにイエスかノウかの態度を(投票で)明らかにすればいいのですから−。

  ここでの問題は、小沢代表がまた、党議を経ずにこういう重大な考えを公表してしまったというところにあります。あの“大連立”画策がそうであったように!

  いまどんな政党に属しているにせよ、小沢代表は自民党内で育った、自分を磨いてきた、自民党的な体質・思考方法を骨身に染み込ませた政治家です。党内民主主義だとか“開かれた政党”だとかいう概念が理解できない人物です。
  麻生内閣への支持率が13%などといった水準に低迷しているのにもかかわらず、民主党の支持率があまり上がらないのは、一つには、小沢代表にそんな“欠陥”があること(民主党がそんな人物に頼るしかない政党であること)が国民には見えているからではないでしょうか。

  その民主・小沢代表の公設第一秘書が3日、政治資金規正法違反の疑いで逮捕されました(毎日新聞の4日の社説は「今の政治状況を一変させる可能性のある衝撃的な逮捕」だと表現しています)。
  小沢氏は資金集めはいまも、自民党員だったころに習い覚えた汚い手段で行っていたということなのでしょうか?

  ところで−。
  わたしが読むペイパーバックのほとんどは刑事・裁判ものです。だれかが主人公を殺人犯に仕立て上げようなどという場面に頻繁に出合います。<主人公の自宅で見つかった死体は、実は、その主人公が登録している拳銃で殺されていた>というような設定です。(元はロサンジェルス警察の刑事やFBI捜査官だった)主人公が、疑いの目で見る現役刑事などにこんなふうに言います。「俺が、俺の拳銃で殺した男を(誰かに発見されるまで)俺の自宅に置いておく?」「どこにそんなばかな元刑事(FBI捜査官)がいるというのだ!?」

  小沢氏の公設第一秘書が逮捕された理由をニュースを知って、推理小説の中にでてくるそんな場面を思い起こしました。
  政治資金規正法違反の手口があまりにも“見え透いてる”からです。小沢氏ほどの政治のプロが、こんなに簡単に尻尾をつかまれるような手段で資金集めをするものだろうか、と思えてしまったからです。

  問題は、献金した西松建設による(ダミーの政治団体を通して企業献金を行うという)不正を小沢氏側=公設第一秘書が知っていたかどうか、ということだということです。
  だとすれば−。この秘書がとことん「知らなかった」と言い通しても、検察はちゃんと起訴ができるのでしょうか?
  <小沢代表は「西松建設献金と認識していたら、政党は企業献金を受けることが許されているので、政党支部で受領すれば、何の問題もなかったわけだ」と述べた>(読売新聞)ということです。
  そのぐらいシンプルな構造の“事件”なのですよね、これは。

  ペイパーバックの主人公なら、取調べる刑事や検察官に向かって「俺が真犯人なら、出所が明らかでない拳銃を手に入れて、それを使い、死体は山の中かどこかに埋めるぐらいのことはしていただろう」というようなことを言うところです。

  いえ、小沢氏が違反しているはずはない、と主張しているのではありませんよ。
  ただ、小沢氏は、自民党員だった昔から、何かにつけて他人に恐れられるほどの(裏技が得意の)政治家ですからね。検察が言っているような、こんな単純な構造の違反を犯すでしょうかね?

  犯したのだとすれば、もちろん、小沢氏の政治生命はもう終わりです。あの“大連立”画策のあとに(その愚行の責任をとって)政界を引退していて当然だった人ですから、ここはもう、じたばたせずに、潔く身を退いてもらいたいところです。
  民主党は、小沢氏の“豪腕”に頼りすぎてきたことを真剣に反省して、新たな党作りを始めるべきです。−「政権奪取」の四文字は、とりあえずは、頭から消し去って。
  
  ああ、それとも…。
  検察は、どんな理由でもいからとにかくこの秘書を逮捕して、この人物から、たとえば、「献金の見返りに西松建設に仕事をふってやった」とでもいうような“自白”を引き出そうとしているのでしょうか?
  それだと、西松の献金は実は<贈収賄>のカネだった−ということになります。政治資金規正法違反は二の次の問題になります。
  小沢氏は<政界からの引退>以上に厳しい“老後”の暮らしを強いられることになりますよね。

  麻生首相が次の衆院選挙の実施を遅らせているあいだに、政界の動きがみょうに生臭くなってきました。