百田尚樹という似非愛国者

  東京新聞が2015年6月26日に【安保法案で報道批判続出 自民改憲派の勉強会】と題する記事を掲載しています。
  <安倍晋三首相に近い自民党の若手議員約40人が25日、憲法改正を推進する勉強会「文化芸術懇話会」の初会合を党本部で開いた> <講師として招いた作家の百田尚樹氏に助言を求める場面も目立った> <出席議員からは、安保法案を批判する報道に関し「マスコミをこらしめるには広告料収入をなくせばいい。文化人が経団連に働き掛けてほしい」との声が上がった> <沖縄県の地元紙が政府に批判的だとの意見が出たのに対し、百田氏は「沖縄の二つの新聞はつぶさないといけない。あってはいけないことだが、沖縄のどこかの島が中国に取られれば目を覚ますはずだ」と主張した>
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  「苦言熟考」は第299回【安倍首相の“お友達”はやはりこんなふう】(2014-01-01)で安倍首相の“お友達”の一人である百田氏を批判していました。
  その第299回を下に再掲載します。
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  「ブロゴス」に掲載された「赤旗」のブログ【NHKに今、何が?/異常な秘密保護法報道/まるで政府報道官】(http://blogos.com/article/75984/)の中に<新たに経営委員会に加わった4氏の横顔>が次のように紹介されていました。「赤旗」自体の意見が記されている部分ではないので、そのまま書き写します。
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  長谷川三千子氏(哲学者) 「民間人有志の会」発起人。右翼・改憲団体「日本会議」代表委員。 ▽「国家が一切の力を放棄するという日本国憲法の『平和主義』は、国家主権の放棄であり…全くめちゃくちゃな憲法なのです」(「産経」4月30日付)
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  百田尚樹(作家) 昨年の自民党総裁選時、「安倍晋三総理大臣を求める民間人有志の会」発起人。 ▽「もし他国が日本に攻めてきたら9条教の信者を前線に送りだす。そして他国の軍隊の前に立ち、『こっちには9条があるぞ!立ち去れ!』と叫んでもらう」(ツイッター
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  本田勝彦氏(日本たばこ産業顧問) 安倍首相が小学生のときの家庭教師。首相を囲む財界人が集う「四季の会」のメンバー。
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  中島尚正氏(海陽学園中等教育学校長)「四季の会」の主要メンバーであるJR東海葛西敬之会長が海陽学園の設立に関わる。
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  “4氏の横顔”を見ると、今回のNHK経営委員人事は、総じていえば、“恥も外聞もなく”という表現では間に合わないぐらいにまで“お手盛り”(自分に都合のいいように、物事を取り計らうこと:現代国語例解辞典小学館)された、醜悪なものですよね。
  せめて“体裁をつける”ためにも、一人ぐらいは“無色の人物”を加えておこう、というような面倒くさい“配慮”は俺たちは一切しないのだ、という姿勢をこの際に露骨に国民に見せつけておこう、そんな魂胆も丸出しになっている人選ですよね。
  つまり、安倍自民党は“なりふり構わず”公共放送NHKの支配に乗り出したわけです。政府・自民党への批判は、NHKにも許さない、という姿勢を鮮明にしたわけです。
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  さて、その“4氏”のうちで、過去のコメントが付されている二人について、思うところを述べることにします。
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  長谷川三千子氏(哲学者) ▽「国家が一切の力を放棄するという日本国憲法の『平和主義』は、国家主権の放棄であり…全くめちゃくちゃな憲法なのです」(「産経」4月30日付)
  −−いかにも「産経」に掲載されそうな意見なのですが、そうなのですかね?
  −−自国の在り方を自ら決定する権利を“主権”というのですよね。つまりは、その“国家主権”の中には、当然なことに、だれにも邪魔されずに『平和主義』を選ぶ権利も含まれているということです。「一切の力を放棄する」というのも「永世中立国でやっていく」「わが国では女性にはほとんどの権利を与えない」「人種隔離政策を維持して行く」などというのも、その是非はどうであれ、それぞれがそれぞれの国による“主権”の行使であるわけです。
  −−いつでも他国と戦争できる体制、あるいは、何かというと武力を背景にして他国を脅す(北朝鮮や中国のような)国に日本をしておくのだ、というのは、言うまでもなく、“主権”が内包している選択肢の一つでしかありません。
  −−“哲学者”という看板のない普通の頭で考える限りでは、「国家主権の放棄」という事態は、その国が消滅しないかぎり、ありえません。ある国が憲法あるいはそれに準じるものを定めて国のあり方をこうだと宣言すれば、たとえそれが「わが国は一切の主権を放棄する」というものであっても、その国は、ほかでもありません、そう宣言することで、その国としての“主権”をちゃんと行使しているわけですね。
  −−「全くめちゃめちゃな」のは、ですから、根拠に欠ける自説を喧伝するためにはどんなデマでも平然として飛ばすことにしているらしい“哲学者”長谷川三千子氏の頭の中だということになります。
  〔主権〕国家の最高の意思および国の政治を最終的に決定する権力(現代国語例解辞典小学館
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  百田尚樹氏(作家) ▽「もし他国が日本に攻めてきたら9条教の信者を前線に送りだす。そして他国の軍隊の前に立ち、『こっちには9条があるぞ!立ち去れ!』と叫んでもらう」
  −−このNHKの“安倍首相のお友達人事”で、どんなに無責任で自尊心に欠けた人物が選ばれたかを典型的に示しているのが百田尚樹という作家のようです。
  −−<「もし他国が日本に攻めてきたら9条教の信者を前線に送りだす。そして他国の軍隊の前に立ち、『こっちには9条があるぞ!立ち去れ!』と叫んでもらう」>という“冷やかし”“当てこすり”は、たぶん、いわゆる自称“愛国者の人達のあいだでポピュラーなものの一つなのでしょうね?
  −−でも、待ってください。<もし他国が日本に攻めてきたら>ですって?
  −−“愛国者”を自認しているはずの人物によくもこんな恥知らずで情けないことが言えたものですね。
  −−だって、<他国が日本に攻めてきたら>というのは、つまりは、百田氏が愛してやまない(安倍)自民党・日本政府が外交に完全に失敗した結果としてそうなった、ということでしょう?他国に攻められるような外交活動しかできていなかった、してこなかった、ということでしょう?
  −−いや、それだけではなくて、攻めてこられるまで、日本の情報収集機関は有効な活動を何もしていなかった、ということでしょう?外務省と防衛省自衛隊は諜報活動で負けていた、ということでしょう?
  −−そもそも、百田尚樹という作家が本物の“愛国者”なら、日本政府(外務省)の外交の失敗と防衛省自衛隊の情報収集・諜報活動の不足を、まず、憂えるべきなのではありませんか?そんな政府と“軍”しか持っていなかったことを後悔すべきではありませんか?それが本物の“愛国者”が持つべき大局的見地というものではありませんか?
  −−もっといえば…。やすやすと他国に攻め込まれたら、その責任を取って、あんたたちに第一に<他国の軍隊の前に>立ってもらいますよ、だから攻め込まれないように日ごろからちゃんと外交・情報収集活動に努めておきなさい、と首相と閣僚たち、防衛省自衛隊の幹部たちに普段から言っておくのが真の“愛国者”がするべきことでは?
  −−もしも攻め込まれたとしたら、「9条教の信者」に何をしてもらおうか、などという能天気な思案に耽るまえに、そんな程度の政府と“軍”しか持っていなかったことを“愛国者百田尚樹”は、だれよりも先に、恥じるべきです。
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  憲法9条があろうとなかろうと、日本にはすでに、世界が認める“世界有数の軍隊”があるのですよ。
  そんな“世界有数の軍隊”を持っているのに、政府や防衛省自衛隊の無能・無策のせいで他国に攻めてこられてしまったら、その責任は、だれにですって? …憲法9条の支持者に負わせる?彼らを「他国の軍隊の前に」立たせる?
  いったいどんな頭を持っていたらこんなノドカナことが言っていられるのでしょう?
  考えたら分かるでしょう?
  「日本に憲法9条があるうちに攻め込んでおこう」と考えた“他国”がありましたか?
  「憲法9条がなくなったから、攻めどきをなくしてしまった」と考える“他国”がありますか?
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  ちゃんと思い出してもらいたいものです。日本の(少なくとも)30倍もの国力があることが十分に知れていたアメリカに、無謀にも攻め込んだ=安倍首相の祖父・岸信介氏も“東條内閣の大東亜戦争開戦時の閣僚”(ウィキペディア)として率いた=大日本帝国という狂気に駆られた国が、ほら、けっして遠くない過去に、日本にはあったのですよ。
  それは、仮にいまの日本が憲法9条を廃止して“他国”の30倍の軍備を備えても、“他国”が攻めてこないとは言い切れない、ということでしょう?
  大日本帝国と同類の狂気に囚われた“他国”が存在していたら、憲法9条のあるなしにかかわらず、その“他国”が日本に攻めてくるという恐れは十分にある、ということでしょう?
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  ですから、重要なのは、(優れた情報収集活動に支えられた)外交。…でしょう?大日本帝国が抱いていたのとおなじ類の狂気を“他国”に持たせない外交上の努力、ということでしょう?
  “愛国者百田尚樹”氏が唾棄したくなるらしい、その憲法9条を保持した状態で、日本はすでに65年も“他国”を攻めることも“他国”に攻められることもなしに、つまりは平和にやってきたのですよ。それは、百田氏がいかに嫌おうと、厳然たる事実なのです。
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  さて、さて、“4氏”を選んだ安倍自民党の方はというと…。
  「もし他国が日本に攻めてきたら9条教の信者を前線に送りだす。そして他国の軍隊の前に立ち、『こっちには9条があるぞ!立ち去れ!』と叫んでもらう」というような子供じみた発言をして、まるで鬼の首でも取ったかのように得意がっているらしい百田尚樹氏のような、“筋”が通らないことしか言えない、無責任で知性に欠けた、卑怯な人物をNHKの経営委員にしたのですから、安倍自民党自体がどのぐらい幼稚で破廉恥な政治外交感覚で動いているかが知れますよね
  これは危険極まりない状態ですよ。
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  しかも、NHK経営委員の人選は単に“一例”にすぎません。安倍自民党が近くに置く多くの“有識者会議”なども、同様に安倍首相の“お友達”で占められているはずです。国会の議席数で圧倒的な多数を占めていることをいいことに、安倍自民党は政治のすべてを、この程度の幼稚で、わがままな、身内の“お手盛り”感覚で行っているのです。
  そのことを国民が怖いと感じなければ、この国はどんどん傾いていきます。
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  あの唐突な“靖国参拝”で改めて明らかになりました。安倍首相というのは“他国に攻め込ませないように外交の場で最大限の努力をすること=国益を守ること=よりは偏狭な“私情”を満足させることの方を重視する”亡国政治家です。そんなまがい物の“愛国者”たちに日本を滅ぼさせてはなりません。
  外交を“放棄”して、やたらと武器を持ちたがる、それをひけらかしたがる…。安倍自民党と中国・北朝鮮とは、たがいに、どんどん似通ってきています

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