第312回  最初の賛同者は公明党から

  「苦言熟考」は2013年2月8日に次のように書いています。
  <さて、法律のしろうと・門外漢が日本国憲法を素直に読むと…><第九九条に「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とあるのに、第九六条に「改正の手続」が定められているのはおかしい、あるいは、矛盾するのではないか、という疑問に襲われます><だって、「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」国会(議員)が「この憲法の改正」を「発議」することができる、というのですから><どういうことなのでしょうか?>
  <憲法論議には、それに加わる人の数とおなじ数の説があるのかもしれません><しかしながら、この問題に関する最も自然な憲法解釈は…><「この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ…天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」は“日本国憲法内の文言を削除したり改変を加えたりすることは一切できないが、新たな文言を追加して憲法を改正することはできる”というものではないでしょうか?><第九条を削除したり、その文言を改変したりすることも、第九六条の「三分の二以上」を書き換えることも「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員」にはできないということです。日本国憲法の「改正」は、「章」あるいは「条」を“追加”する形でしかできないということです
  <安倍首相が日本国憲法の文言を削除したり改変したりする道を強引に選ぼうとしても、その「行為」は日本国憲法の「条規」に反するわけですから、初めから「効力を有しない」ということになります>
  【第267回 文言の“削除・改変”は不可 “追加”は可】(http://d.hatena.ne.jp/kugen/20130208/1360321251
               *     *
  「苦言熟考」の上の意見に、事実上の賛同者が現れました。山口那津男公明党代表です。
  【「時代に合わせ、憲法の『加憲』必要」 公明・山口代表】 朝日新聞 2014年5月2日 (http://www.asahi.com/articles/ASG526J93G52UTFK00T.html
  <山口那津男公明党代表> <これから先、いかなる憲法の改正をなすべきか。公明党は、日本国憲法は優れた憲法であるけれども、時代の変化で、新しい価値が国民のコンセンサスを得られているとするならば、憲法に加えていく、いわゆる「加憲」を進めていくことはあってしかるべきだと考えている。例えば、基本的人権の中で、自らの環境を、人類が地球という環境のもとで、生存をまっとうできるようなそういう権利を人権として位置づけてはどうか>
  <公明党の加憲という考え方は、良い憲法をもっと良くしようということである。しかし、同じ憲法改正を主張する党派の中には、今の憲法は基本的に悪い憲法で、あるいは他国から押しつけられたものだから、これを変えるべきだとネガティブな憲法改正を主張している人たちもいる。同じ憲法改正でも、基本的な立場が必ずしも同一ではない。憲法のあり方について、落ち着いて、しっかりと国民の理解を求めながら進めていくことが極めて重要だ。(東京・JR新宿駅前の街頭演説で)>
               *     *
  「苦言熟考」と山口代表とのあいだには明確な違いがあります。「苦言熟考」が「現憲法に合法的に改変を加えるとすれば、それは「章」あるいは「条」を“追加”する形でしかできない、と手続き論を述べているのに対して、山口代表が「新しい価値が国民のコンセンサスを得られているとするならば」「加憲を進めていくこと」は「あってしかるべきだと考えている」というところです。
  “追加”または「加憲」が現在あるいは近い将来に必要だとは、「苦言熟考」は考えていない、ということです。
  「苦言熟考」はまた、山口代表が言う「例えば、基本的人権の中で」という考えにも同調はしません。「中で」である限りはそこに改変が伴うからです。「追加」は現行の条項の外部に“追加修正条項”としてなされて初めて筋が通るものになります。
  とはいうものの、両者は、いまの日本国憲法が制定・公布されてから65年も過ぎているのだから、現行憲法は時代の実情に合わなくなっている、あるいは「今の憲法は基本的に悪い憲法で、あるいは他国から押しつけられたものだから、これを変えるべきだ」という改憲派による、その主張に裏づけと説得力がまるでない、ただただ国民の情緒に訴えるだけの主張には与していない、という点では相通じています。
               *     *
  その公明党が「基本的な立場が必ずしも同一ではない」自民党と組んで与党にとどまっているのはどういうことなのでしょう?国の形を決める、日本国憲法という大根幹について自民党とのあいだにそれだけの、埋めようがない隙間があるというのに……。
  筋が通っていないではありませんか。
               *     * 
  そんな公明党の考えに配慮して自民党は、集団的自衛権の行使に関する政府解釈の変更を遅らせることもありえると言い出しています。両党が互いの意見をすり合わせればどこかに合意点が見つかるという前提に立ってのことですよね。
  しかし、その「解釈変更」というのは、そもそもが、第九六条の存在を完全に無視する、明確な憲法違反行為です。憲法に従って憲法「改正」の手続きを進めるという、あまりにも基本的で当然な道理を無視しきった“ならず者”の手口です。
  この問題で自民党公明党が合意点を見出すことがあってはなりません。街頭演説で「加憲」の必要性を強調し、自民党流の改憲を否定した山口公明党代表が、かりに、遠くない将来に自民党に歩み寄ることがあるとすれば、公明党は国民に向かって大嘘をついたことになります。
  安倍政権による、憲法の解釈変更は絶対に許されない、と言い切る道しかもう、公明党には残されていません。
  筋を通して考えれば、そういうことになります。
  ですから、自民党公明党とのあいだに、これから、もし、解釈改憲に関する何らかの合意が成立したら、公明党を利する怪しげで重大な裏取引がそこにはあったはずだと疑うしかありません。
               *     *
  “ならず者”安倍自民党・安倍政権の理不尽を許して日本を醜悪で、息苦しい、住みづらい国にしてはなりません。
  “ならず者”安倍自民党・安倍政権の無知で、恥知らずな横暴のせいで国が滅びるようなことがあってはなりません。
               *     *
  【「憲法9条の議論、閣議決定で済まない」結い・江田代表】 朝日新聞 2014年5月8日 (http://www.asahi.com/articles/ASG586WGSG58UTFK01B.html
  江田憲司・結いの党代表 <集団的自衛権の行使を安倍政権が閣議決定で容認しようとしているが、歴代政権が数十年かけて積み上げてきた憲法9条の解釈を変えるかどうかという議論は、一内閣が閣議決定すれば済む話ではない。国会で審議を尽くしたうえで結論を出すべきだ><国民の生命や財産を守るために、どこに安全保障上の穴が開いているのか、具体的な支障が生じているのかといった具体的なケースをまず抽出し、現行の憲法解釈の範囲内や個別的自衛権の解釈の延長線上で読み込めないのかを検討するという手順が大事だ。いま(安倍晋三首相の私的諮問機関)「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」で検討されている具体的事例は、個別的自衛権の解釈の延長線上でとらえられる問題ばかりだ>
               *     *
  【「急げば了承得られず」 自民・野田総務会長が注文】東京新聞 2014年5月8日 (http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014050802000141.html
  <野田氏は、安倍晋三首相(党総裁)直属機関での集団的自衛権をめぐる党内論議について「(憲法解釈変更を)進めたい側のプレゼンテーションだ」と批判><憲法改正でなく、解釈変更を目指す手法に関し「違う政党の政権になった時にまた解釈を変えることが可能になる。政策の安定性がなくなるのではないか」と指摘。「人を殺す、殺されるかもしれないというリアリズムを語るべきだ」と注文を付けた>
               *     *
  国力衰退をとめることができないアメリカの下院軍事委員会が安倍政権による憲法の解釈変更を支持!
  これも筋が通らない話ですね。財政・経済力の衰えを補うためにアメリカは、その制定に自らが深く関わった日本国憲法の基本精神・理念をここで安易に踏みにじろうとしているわけです。“ならず者”安倍自民党政権の違憲・脱法行為を賞賛するという形で……。同様の“ならず者”に自らをしてしまうことで……。
  自国が世界のリーダーではもうないことを、そんなふうに世界に対して見せつけていることを、アメリカ政府と議会はちゃんと自覚しているのでしょうかね。
  【集団自衛権念頭に支持明記=国防権限法案可決−米下院委】(2014/05/09 http://www.jiji.com/jc/c?g=pol&k=2014050900137)ワシントン時事
  <米下院軍事委員会は8日、2015会計年度(14年10月〜15年9月)の国防予算の大枠を定める国防権限法案を全会一致で可決した。法案は、安倍政権による国家安全保障会議(日本版NSC)設置や防衛費増額を歓迎。その上で、憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認を念頭に「日本がさらに重要な同盟の責任を負うことを可能にする他の動きを支持する」と明記した>
  「憲法解釈変更による集団的自衛権行使容認」以外のやり方ででも日本に「さらに重要な同盟の責任」を果たさせることができるのではないかとは、ゆとりを失った“老衰”アメリカの下院軍事委員会はまったく考えてみなかったようですね。
               *     *
【追加】【安倍政権が狙う集団的自衛権行使はアメリカのために日本が世界中で軍事力を行使するためのもの】(http://blogos.com/article/86540/)  国家公務員一般労働組合 2014年05月16日
  <――以上が「news Watch9」からですが、安倍政権の狙いがとてもよくわかる解説です。財政負担が大変で世界の警察官たるアメリカが軍事費を削減しているから、日本が軍事費を増やして、世界の警察官を支えなければいけない。集団的自衛権の行使は、アメリカのために日本が世界のどこにでも行って軍事力を行使するためのものだということです> 

               *     *