第337回 フィリピン 道路の渋滞・混雑を解消して…

  道路の渋滞・混雑への対応の仕方しだいでフィリピン経済の成長速度が変わってくるような気がしています。
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  兄夫婦がマカティ市のわたしの住まいを1月から2月にかけて、2〜3週間にわたって訪ねてくるのは、(ドイツ在住の旧友を兄たちが訪ねた年を例外として)2007年からの恒例行事となっています。わたしの記憶に間違いがなければ、そのうちの5回では、兄の長年の友人一人が兄夫婦に同道しています。
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  兄たちが滞在しているあいだの、ハイライトとなる活動は、やはり、わたしが自分で車を運転して行うリゾート地訪問です。これまでに、バタンガス州のいくつかのビーチ、ラ・ウニオン州のカシノ・ゴルフ場つきのビーチサイドホテル、イロコス・スル州の世界遺産指定都市ヴィガン、フィリピンの夏の“首都”バギオ、カヴィーテ州の観光名所タガイタイ・タアル湖、ラグナ州の温泉地、リサール州のやはりカシノ・ゴルフ場つきの丘陵地ホテル、ケソン州の旧荘園などなどを訪れています。
  そのいずれもがそれぞれに楽しい思い出をわたしたちの胸に刻んでくれています。時が経ってからの回顧を助けてくれるに違いない記念の写真も数多く手元に残っています。
  自分の死ということを考え始めざるを得ない、70歳前後という年齢になっているわたしたちには、フィリピン国内でのそんな旅行は実に貴重で有意義な体験となっているわけです。
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  さて、そうではありますが−−。
  マニラ首都圏から自動車を走らせてリゾート地を訪問するに際しては、ほとんどの場合で、いくつかの困難に出合うことになります。道路交通事情が日本やアメリカでのものとは異なることによる困難だ、と言えるでしょう。
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  マニラ首都圏から南と北とに向けて建設されてきた二本の幹線高速道路は、そのほとんどの区画で工事が終わり、わたしがフィリピンに移住してきた2006年と比べれば、車の流れは実に滑らかなものになっています。しかしながら、残念なことに、ルソン島での、大きく目につく道路交通事情の改善はここら辺りまで、と言わなければなりません。
  いったんこの二本の高速道路から出てしまうと−−。
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  ・車線の数が(たいがいは予告なしに)ころころと変わる道路に遅かれ早かれ乗り入れることになります。車線数が急に変われば、車の流れが少しでもよさそうな車線に向かって、すべての車が頭を突っ込ませようします。片側2車線の道路上に、対向車線に乗り出す形で、車4列の流れができあがることも稀ではありません。そうなれば、車間距離への心配は車の前後だけではなく左右についてもしなければならなくなってしまいます。
  ・それがフィリピン経済の成長ぶりを象徴しているのだともいえますし、経済成長中の日本でもそういうことがあったわけですが、道路拡幅や下水道敷設などのための工事現場に(こちらも予告なしで)頻繁に行き当たります。しかも、日本やアメリカの場合とは違って、工事作業員と車の運転者との安全を守るための監視・警備員がしかるべき場所に立っていないことが普通なのです。そのせいで車の流れが滞るのではないかとは、工事関係者は考えないようです。
  ・少なくともマニラ首都圏とその周辺では、道路上で見かける新車の割合が急速に高まってきています。新しい車を傷つけたくないという思いからか、一般的な言い方をすれば、個人が所有していると思われる車を荒っぽく運転する者が減ってきているように見えます。しかし、大半が車を日借りして営業しているタクシーやジープニーのドライヴァーたちの、少しでも売り上げを増やそうという運転ぶりには、以前との大きな違いは見られません。そのために、全体としては、車の頭の突っ込み合いはあまり減ってはいないようですし、その頭の突っ込み合いがいまもまだ、いたるところで交通の流れを無用に悪くしています。
  ・公共のバスとジープニーが公共の道路を停車・駐車場として使っていることも大きな問題です。たとえば、片側4車線の道路があっても、客を乗り降りさせるバスやジープニーがそのうちの2車線を占拠してしまえば、当然のことながら、そこにはひどい渋滞が生じてしまいます。占拠しているバスやジープニーが取り締まりの対象になっているところを見ることはありません。また、たとえば、1時間のうちに10台以上のバスが発着していると思われるターミナルにほんの数台分の駐車スペイスしか持っていないバス会社も少なくないようです。自社の駐車スペイスに入りきれないバスは路上で時間待ちをするしかありません。
  ・以上に加えて、真に自動車運転者の身になって道路標識や案内板が備えられているとは思えないことにも困らせられます。その辺りの地理・道路に精通していない運転者もいるはずだという視点を欠いたままで標識などが設置されているようにしか見えないということです。せめて、市販されている道路地図にある程度以上の太さで表示されている道路については、運転者が迷わない程度には分かりやすく標識・案内板を備えるべきだ、としょっちゅう感じさせられます。
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  その原因はさまざまなのですが、とにかく、マニラ首都圏とその周辺の交通渋滞はフィリピンの経済活動に大きくブレイキをかけているに違いありません。
  参考材料として、この1月の中旬から2月初めにかけて兄たちと行ったリゾート訪問のうち、その距離とかかった時間を記憶している二つの例を紹介します。
  まずは、海抜700メーターの高所にある観光地タガイタイ(とタアル湖)までのドライヴ。サンタ・ローサの出口まで南ルソン高速道路を使い、あとはタガイタイまでの一般道路を登りつづけましたが、今回は、幸いなことに全行程で車を順調に走らせることができました。フィリピンが誇る観光地にいたる道路は比較的によく整備されてる、といったところですね。走った距離は、マカティ市中心部からおよそ60キロメーター。90分間かかりました。平均すると、10キロメーターを15分間で走り抜けたことになります。
  一方、リサール州のリゾート、サンダーバードまでは30キロメーター。こちらには、高速道路が利用できる場所にないこともあって、1時間45分もかかってたどり着きました。10キロメーター走るのに35分間もかかってしまったわけです。交通渋滞を生じさせる要因として上に上げた例のすべてにその途中で出合ってしまった、ひどく骨が折れるドライヴでした。
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  フィリピンでは、道路交通事情も少しずつは改善されています。しかしながら、その改善は、国としての経済成長の速度に追いついてはいないように見受けられます。
  政府が真剣に、早めに、改善に取り組んで、渋滞・混雑から生まれる経済的損失を減らさなければ、国民全体が後悔する事態にもやがてなりかねない、という気がしています。
  わが身に引き寄せた言い方をしますと、フィリピン中の幹線道路の多くが外国人にも運転しやすいものになったころには、フィリピン経済も、そう、一人前になっているはずだ、ということですね。
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