第308回 首相、どんなふうに「歴史の事実に向き合う」の?

  空虚な言葉を吐き連ねて、そのことを恥じることがない安倍晋三という人物を首相にしている日本は不幸な国です。
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  【首相「歴史の事実に向き合う」 アンネの家訪問】 2014年3月24日 東京新聞 (http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/news/CK2014032402000214.html
  <【ハーグ=後藤孝好】安倍晋三首相は23日午後(日本時間同日夜)、オランダのアムステルダムにある博物館「アンネ・フランクの家」を訪問した。安倍首相はロナルド・レオポルド館長に「20世紀は戦争の世紀で、人権が抑圧された時代だった。そうしたことが起こらない21世紀にするため、歴史の事実に謙虚に向き合い、次の世代に語り継ぐことで世界の平和を実現したい」と述べた> <安倍首相は1月のスイス・ダボスでの会見で、今の日中の緊張関係と、経済依存が高かったにもかかわらず第1次大戦で対決した英独関係との類似性に言及したとして、海外メディアに報じられた。今回の訪問は、平和主義を強調することで、首相の歴史認識に対する欧米の懸念を取り除く狙いとみられる> <「アンネの日記」が破られた事件について、首相は館長に「大変残念だ」と遺憾の意を伝えた>
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  安倍晋三首相が「述べた」とされる上の言葉が首相の「平和主義を強調」していると思いますか?これで、安倍首相と日本政府が意図したとおりに「首相の歴史認識に対する欧米の懸念を取り除く」ことができたと信じられますか?
  上の発言は、逆に、日本が「歴史の事実に謙虚に」向き合ってはいないことを証明するものではありませんか?
  「首相の歴史認識に対する欧米の懸念を取り除く狙い」は、ものの見事に、外れてしまっていると感じませんか?
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  だって……
  「20世紀は戦争の世紀で」? ……まるで、その「20世紀」の「戦争」に、日本(=安倍首相がこよなく愛する大日本帝国)が自らの意思で突入したことはなかったかのような、ずいぶん距離をおいた、無責任な“定義づけ”ではありませんか。
  「人権が抑圧された時代だった」?  ……まるで、その「人権」の「抑圧」を、日本(=安倍首相がこよなく愛する大日本帝国)が自らの意思で(周辺アジア諸国民と日本人自身に)やったことはなかったかのような、ずいぶん距離をおいた、無責任な“認識”ではありませんか?
  「そうしたことが起こらない21世紀にするため」? ……まるで、その「そうしたこと」を日本(=安倍首相がこよなく愛する大日本帝国)が自らの意思で起こしたことはなかったかのような、ずいぶん距離をおいた、無責任な“目標”ではありませんか?
  「歴史の事実に謙虚に向き合い」? ……まるで、その「歴史の事実」を、日本が自らの意思で無視し、歪めようとしたことはなかったかのような、ずいぶん距離をおいた、無責任な“意志表明”ではありませんか。
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  「20世紀は戦争の世紀で、人権が抑圧された時代だった。そうしたことが起こらない21世紀にするため、歴史の事実に謙虚に向き合い、次の世代に語り継ぐことで世界の平和を実現したい」という発言の中のどこに、あの当時の日本の真実の姿が描き出されていますか?
  世界の中でいま、もっとも「歴史の事実に謙虚に」向き合っていない国としてと他国から鋭く批判されているのは、ほかならぬ、安倍首相が率いる日本ではありませんか。
  「歴史の事実」を歪めつくして「次の世代に語り継ぐ」ことに異常なまでに熱心な国は、ほかならぬ、安倍首相が率いる日本ではありませんか。
  世界の主要民主主義国の中で、安倍首相が率いる日本ほど、その歴史認識のあり方を批判されているところはありません。日本は批判されている唯一の国だ、と言っても過言ではありませんよね。
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  上のような、主体を抜きにした、自らを“免罪”することを主目的した空虚な“言い逃れ歴史観”が世界で通用すると安倍首相が思い込んでいるところ、その幼稚さ、軽薄さが、日本国民にとっては、大きな大きな、深刻な問題点です。
  自分の国と自分自身を“無謬”の存在にしていたいために、世界に向かってはまるで通用しない大きな嘘を平然としてつきつづける一国の首相!
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  加えて……。「アンネの日記」破損事件について「大変残念だ」と述べながら、一方で、日本国内で頻発している大小の民族差別事件については、まるで手を打たないどころか、その種の事件にまつわる保守・排他的な政治的ムードを、裏で利用しようとする安倍首相を、博物館「アンネ・フランクの家」の館長は、その言葉どおりに受け取ることができたと思いますか?
  安倍首相がさまざまなポストに就けた“首相のお友達たち”が極端な排外・民族差別主義の信奉者であることを、レオポルド館長は知らないと思いますか?
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  安倍首相は「どう言ったら誠実な発言に聞こえるだろうか」と考えるだけの、口から先に生まれた、詭弁好きの人間です。「誠実な発言とは何か、誠実さとは何か」とはまったく考えない、うすっぺらな、自分本位の、卑怯極まりない人間です。
  アムステルダムでの上の発言は、安倍首相がいかに矮小な、真摯さを欠いた、うぬぼれまみれの人間であるかを実によく示しています。
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  どういうふうに具体的に、現実的に「歴史の事実に謙虚に」向き合うのかにまるで触れない発言をしゃあしゃあとしてくり返しているだけでは、日本は、良識を備えている国ぐにからますます蔑まれる存在になっていくことでしょう。
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  【習主席「南京で30万人虐殺」 独で講演、日本を名指し批判】 東京新聞 2014年3月29日 (http://www.tokyo-np.co.jp/article/world/news/CK2014032902000246.html
  <【ベルリン=共同】ドイツ訪問中の中国の習近平国家主席は二十八日、ベルリンで講演し、日中戦争時に旧日本軍が南京を占領した際に起きた南京大虐殺に言及し「日本は三十万人以上を虐殺した」と強調した。習主席は「日本軍国主義による侵略戦争で中国人に三千五百万人以上の死傷者が出た」とも述べ、日本を名指し批判した> <習氏は、日中戦争当時、ナチスの南京支部幹部だったジョン・ラーベが日記に南京大虐殺の様子を書き残していたことで「三十万人が殺害された」事実が世界に伝わったと語った>
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 【習主席の南京大虐殺発言で抗議 政府が中国側に】 2014年3月30日 東京新聞 (http://www.tokyo-np.co.jp/s/article/2014033001001284.html
  <菅義偉官房長官は30日、中国の習近平国家主席がドイツでの講演で南京大虐殺をめぐり「日本は30万人以上を虐殺した」と発言したことに対し、外務省が29日、中国側に抗議したと明らかにした。都内で記者団に語った> <菅氏は南京大虐殺に関し「旧日本軍が南京で殺傷や略奪をしたことは否定しないが、犠牲者の数についてはさまざまな意見があり、日本政府は断定していない」と説明。戦後日本の歩みについて「一貫して世界の平和のために貢献してきた。安倍晋三首相を先頭に平和国家を目指して取り組む。全く揺るぎはない」と述べた> (共同)
  その「戦後日本の歩み」に満足しないで、戦後体制を見直し、昔の日本を取り戻す、と公言しているのは安倍首相ですよ。
  「一貫して世界の平和のために貢献してきた」日本国憲法を誹謗し、改悪しようと躍起になっているのも安倍首相ですよ。
  第二次安倍政権が成立してから積極的に「目指して」きたのは(安倍自民党が力任せで成立させた、成立させようとしている法律・法案を見れば分かるように)日本を、民主主義に背を向けた軍事強権国家にする、ということだということは、すでに、あまりにも明らかではありませんか。
  「旧日本軍が南京で殺傷や略奪をしたことは否定しないが、犠牲者の数についてはさまざまな意見があり、日本政府は断定していない」という「説明」がまるで説得力を欠いているのは、この「説明」が、大日本帝国をこよなく愛する安倍首相の内閣官房長官によってなされているからです。
  それにしても、「犠牲者の数」の大小についてしかできない「抗議」に、どんな大きな正義があるというのでしょうね。
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  【習氏「南京」発言 一方的な主張は看過できない】 読売新聞社説 2014年04月01日 (http://www.yomiuri.co.jp/editorial/20140401-OYT1T50002.html
  <日中両政府の合意で発足した日中歴史共同研究委員会が2010年に発表した報告書でも、日本側は「20万人を上限として、4万人、2万人などの様々な推計がなされている」と指摘している> <南京事件当時、避難民を保護したとして、習氏から称賛されたドイツ人ジョン・ラーベ氏も、ヒトラーへの上申書に、犠牲者は「5万〜6万人」と記している>
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