第182回 「少女時代」とイノヴェイション

  「韓流ブーム」は日本でまだつづいているのですか?もう下火になっているのですか?
  その辺りのことをここフィリピンで感じるのは難しいのですが、こちらのケイブテレヴィで放映されているKBS国際放送の番組「ミュージック・バンク」を見る限りでは、いわゆるK(韓国)−POPSは着実に成長、成熟しているように見えます。単純に言ってしまえば、「見て聴いて楽しむことができる」歌手と歌手グループ、曲が韓国ではまだまだ次つぎとプロデュースされている、ということです(「WONDER GIRLS」というグループは昨年2009年からことしの前半にかけて「NOBODY」という曲で大ブレイクしました。マニラのスーパーマーケットやモールでもこの曲をよく耳にしましたし、フィリピンMTVでもそのヴィデオがしょっちゅう放映されていました)(<12日、米ビルボードチャート(www.billboard.biz)によると、、ワンダーガールズの「ノーボディー」が「2010 ホットシングルセールス100」中、堂々31位に入った> <ワンダーガールズは11日、マレーシアで単独コンサートを大盛況のうちに終えた。 来週は香港でコンサートを開く>2010年12月14日 中央日報記事から)。
  「見て聴いて楽しむことができる」歌手(あるいはグループ)の代表は(当然ながら異論もあるでしょうが)いまなら「少女時代=GIRLS' GENERATION」だと言ってもいいのではないかと思います(女性グループに限定して言えば「KARA」「AFTER SCHOOL」「T-ARA」などが「少女時代」をすぐ後ろから追いかけています)。
  韓国の新聞をインターネットで読んだところによると、その「少女時代」はすでに日本でCDを売り出しています。プロモート・キャンペインも大成功させています。女の子9人組みのこのグループは、他の東、東南アジアだけではなく、日本でも高い人気を得始めているわけですね。
  「少女時代」が(世界中でとは言いませんが)アジア各国の若者を熱くさせているのには、なるほどと思える理由があります。日本で最高の人気を誇っているという女の子のグループ「AKB48」と(“YouTube”などで見て)比較すると、そのなぜかが分かる気がしますよ。
  日本中の若者と、世界のアニメファンの一部に熱心に支持されていると言われている「AKB48」が、古くは「おにゃんこクラブ」、比較的に最近だと「モーニング娘。」の流れをくむ、子供むけの、ただの“かわい子ちゃん”グループで、歌やダンスの実力、曲の良さよりは全体のかわいらしさを(1970年代のアグネス・チャンのデビュー当時よりはいくらか多い運動量で)強調して売られているのに対して、「少女時代」は、全員が、ダンスの基礎を身につけた、きれいな顔と体型を持った、斬新なテンポとリズムの曲を歌うことができる、大人の鑑賞にも堪えうるグループなのです。
  アニメと関連させなければ国外では売れないと思える「AKB48」に対して、「少女時代」はグループ自体が(少なくとも東、東南)アジアで立派に通用する力を持っているのです。
  この二つのグループ間にそんな違いが生じた理由を推測するのは難しいことではないようです。それぞれのプロデューサーのイノヴェイションに対する考え方がの差。それが理由です。
  「AKB48」のプロデューサーは、おそらく、このグループの売り方(販売戦略)を革新したいと考えたのではないでしょうか。「モーニング娘。」が限界に突き当たったのはなぜか、どうすれば「AKB48」を永続的に売りつづけることができるか…。女の子たちの小グループ化やその小グループ間の(見せかけの)競争、リーダー選出過程のショウ化、メンバーの“卒業”によるセンティメンタル効果の演出、恋愛禁止などの公開“お達し”によるファンの共感獲得…。
  「少女時代」のプロデューサーの頭にあったのは、多分に、このグループの質をどう高めるか、だったはずです。日本の少女アイドル・グループの研究と分析にも時間を割いたに違いありません。その結果として到達したのが、第一に、(顔がちょっとかわいければメンバーになれるらしい日本のアイドル・グループとは違って)顔と体がともに美しい女の子を揃える、第二に、(お遊戯の延長程度の動き=振りつけにいつまで満足している日本のアイドル・グループとは異なり)ダンスの基礎をちゃんと身につけさせる、第三に、(かわいい女の子の寄せ集めにすぎない日本のアイドル・グループがとうてい歌えないところまで)曲のポップ化を徹底させる、などだったように思われます。「(悪くとも)アジア全体に受け入れられる、高い質のグループにする」という強固な意思がそれを支えていたはずです。
  販売方法を革新することでグループを成功させようとした「AKB48」のプロデューサー。商品=グループ自体の質を高めることで市場を拡大することができると考えた「少女時代」のプロデューサー。
  国際的に見れば、現時点での勝者は「少女時代」のようです。
  さて、さて…。韓国の「中央日報」(インターネット版 12月8日)に<ドイツ誌「自動車韓日戦」で韓国が勝利>という見出しの記事がありました。<ドイツで行われた「自動車韓日戦」は、韓国が3勝2敗2分けで日本を降した>という内容です。<ドイツ自動車専門雑誌「アウトビルト」が最近、2回にわたり連載した「韓国・日本車の決闘」特集記事>には<7部門で行われた今回の対決で、韓国は現代「i20」がマツダの「マツダ2(デミオ)」に、起亜「ソウル」が日産「ジューク」に、起亜「シード」がトヨタ「オーリス」に勝ち、3勝を収めた><現代「ix20」「サンタフェ」はそれぞれホンダ「ジャズ(フィット)」、日産「ムラーノ」と引き分けた。日本はトヨタ「RAV4」が起亜「スポーテージ」に、スズキ「アルト」が現代「i10」に勝った2勝にとどまった>と書いてあったのです。
  興味深いのは、記事の<今回の結果について同誌は「一見すると、韓国車の勝利に驚くかもしれないが、詳細に見ると当然の結果」とし「現代・起亜車は速く学び、批判を受ければ速やかに改善する企業文化を持っている」と評価した。「現代・起亜車の発展速度は欧州企業を含む競合他社にとって脅威」とも伝えた>という個所です。
  質のイノヴェイションに関する現代・起亜自動車の姿勢がこの「勝利」をもたらした、という評価です。
  電子機器…。自動車…。アイドル・グループ…。
  連戦連敗の日本…。
  日本人が全体として、創造性をなくしてしまい、高い品質を必ずしも追求しなくなっているのでなければいいのですが…。  
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  <「少女時代は9人全員がビヨンセ」米国ファンクラブ会員12万人> 中央日報 2011年1月17日(http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=136699
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  「朝鮮日報」 2011/08/18 12:24:03 崔洪烈(チェ・ホンリョル)記者
  <<K−POPブームをリードするSMエンタ成功の秘訣とは  メディア学会セミナーで論文発表>>
  <韓流・K−POPブームを主導している韓国最大の芸能プロダクション「SMエンターテインメント」の成功の秘訣(ひけつ)について細かく分析した論文が発表された。(水原大のイ・ムンヘン教授)>
  <イ教授は論文で、SMエンターテインメントが成功した中心的な要因として「オーディションを通じて選抜した練習生たちを、少なくとも2−3年間かけ、徒弟式・詰め込み式の教育を施す韓国型アイドル育成システム」を挙げた。イ教授によると、SMエンターテインメントは、人材を発掘しスターとして育成するのではなく、まずアイドルグループのイメージを作り上げ、それに合わせてメンバーをキャスティングするという方式を取っているという。例えば「少女時代」の場合、グループのイメージを左右するエース(ユナ)、音楽面で責任を持つボーカル(テヨン)、明るく純粋なイメージで好感度が高い最年少メンバー(ソヒョン)などのイメージを作り上げ、それに合わせて人選を進めた>