第171回 筋を通さないのは支持者もおなじ?

  <郵便不正に絡む偽証明書発行事件で、虚偽有印公文書作成などの罪に問われた厚生労働省元局長の村木厚子被告に、大阪地裁が無罪判決を言い渡した><検察の完敗といえる内容だ。判決は「犯罪の証明はない」として、検察が描いた事件の構図をことごとく否定した。検察は一連の捜査を徹底検証しなければならない>。9月11日の読売新聞の社説からの引用です。
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  その数日前の毎日新聞には<北海道開発局発注工事を巡る受託収賄など4罪に問われた衆院議員、鈴木宗男被告(62)=比例北海道ブロック新党大地=に対し、最高裁第1小法廷(金築誠志裁判長)は7日付で上告を棄却する決定を出した。懲役2年、追徴金1100万円とした1、2審の実刑判決が確定する>という記事がありました。
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  インターネットを使う人たちの中には、民主党の小沢前幹事長を愛する人たちが多いように見えます。彼ら自身が【実施中の民主党の代表選に関して、インターネット世論調査を見る限りでは、小沢氏支持が圧倒的だ。マスコミが言う<一般のあいだでは菅氏優位>というのは菅氏と官僚をサポートするためのデマだ】というようなことを主張してますから、実際にもそうなのでしょう。
  その小沢氏の熱烈な支持者たちが、鈴木宗男氏の有罪が確定したときに、口を揃えて主張したのが【上告棄却は、代表選で戦っている小沢氏にもカネの疑惑があることを国民に思い出させるために、あえてこの時期に発表されたもの。最高裁=官僚による、小沢氏を落とす=菅氏を当選させるための陰謀である可能性が高い】というようなことです。
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  何かにつけて【これはXXによる陰謀だ】という人がいつもいるものですよね。特に、自分は他人よりも賢いと信じているらしい、そんな口調で発言する人たちの中に。大方は、証拠を挙げる手間もかけずに。口先だけで、そう言い張るわけですが。
  さて、そんな人たちが村木無罪判決を受けても、けっして言わないのは【検察の悪質な捜査が明らかにされた。小沢氏に対する捜査も同様に、強引に行われたのではないかと国民のあいだに検察不信を広めかねない、村木氏に対するこの無罪判決が、民主党代表選の真っ最中のここで出されたのは、裁判所による陰謀だ。こんな無罪判決をいま出して、裁判所は、小沢氏のイメッジを好転させ、彼を党首選で勝たせようとしているのだ】というようなことです。
  いや、もともと、公正な議論をしたかったわけではない小沢氏支持者たちが、こんなことを言うわけはありませんよね。鈴木氏の上告が棄却された際には【最高裁=官僚の陰謀とも戦わなければ代表選に勝てない孤高の政治家】だと小沢氏を位置づけようとした小沢氏の支持者たちが、ほんの数日後の村木判決のあとで急に【裁判所の判決に助けられてイメッジを回復する小沢氏】という図を受け入れるわけにはいかないでしょうからね。
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  そこが大問題です。
  小沢氏の支持者たちが鈴木氏の上告棄却後に喧伝しようとした【陰謀説】には無理がありすぎるのです。
  彼らが主張するように、裁判所が意図的に【陰謀】をめぐらせるものなら、裁判所は組織全体として、いったいぜんたい、小沢氏を葬り去りたいのか、助け上げたいのか?どちらなのでしょう?この上告棄却と無罪判決の二つからは分かりようがありません。
  つまり、インターネット上で小沢氏を支持する人たちの【陰謀説】には一貫性というものがまったくないのです。小沢氏自身の政治姿勢にそれがないのとおなじです。自分の都合のいいように物事を解釈することに忙しすぎるのでしょうね、この人たちは、たぶん。
  小沢氏と自分たちの都合に合わせて【陰謀説】を持ち出したり引っ込めたりして何かを論じるのは、この上なく卑怯な態度だと言えます。筋が通っていません。