第134回 マニフェストに束縛される“愚”

  先の衆院選挙向けに(自民党に先んじて)マニフェストを発表した民主党が選挙前、選挙中にその一部を修正したとき「苦言熟考」は<内容に間違いがある、もっと良い案があるなどといったことが明らかになれば、書き換えればいいのだ><納得できない内容のまま押し通すのは国民=有権者のためにならない><“ぶれた”という批判は的外れだ>というような趣旨の意見を述べています。

  さて、その選挙に大勝して−。
  民主党政権運営は、大方のところでは、順調に始まったと言えそうです。
  何より、テレヴィ・ニュースで見る限りでは、鳩山政権の多くの大臣が<官僚のお仕着せではない自分の言葉で語ろうとする“働き者”>であるように見えます。自公政府にはなかったことです。

  いえ、亀井静香金融・郵政改革担当相のように一人で先走っている “お調子者”もたしかにいるにはいるのですが、そこにも、新政権の全体の動きを妨害するほどの危険度は、いまのところ、感じられません(その時が来れば、鳩山首相が手綱を引き締めるだろうということです)。

  50余年間で(事実上)初めての政権交代です。動きと流れがいくらかぎくしゃくするのは当然のことで、マスコミのように、何かと言うと“懸念”して見せる必要は、いまのところは、ありません。

  民主党新政権に問題があるとすれば−。
  それは、首相自身を含めて、党全体で“マニフェスト中毒”にかかっているように見えることです。<マニフェストで国民に約束したことだからやる。絶対にやらなければならない>症候群とでも名づけましょうか?

  民主党はもっと現実的になるべきです。
  衆院選民主党に投票した国民=有権者のうち何パーセントがマニフェストのすべての項目に賛同していたでしょう?大半は、自公政権にはもううんざりしたという思いに重ねて<ここはあまり気に入らないが、あそこの提案が良いから>などといった選択をしたあとで民主党に投票したはずです。
  つまりは、民主党マニフェストにも良いところと悪いところがあるだろうということです。完璧なんかではないのです。ですから、このマニフェストで選挙に大勝したから絶対にその内容どおりに政策を実行していくのだと力み返るのは、現実離れした“大人気ない”ことなのです。
  投票日前にもマニフェストを修正しているのですよ、民主党は。まずいところがまだあると思えば選挙後といえども修正するべきです。
  ただし、もちろん、国民=有権者の声・意見を十分に聞いて!

  自民党がここまで衰退した理由の一つは(「苦言熟考」も前に指摘しているように)国民=有権者の声・意見に同党が真剣に耳を傾けてこなかったことにあります。衆院の議員数が自公合わせて三分の二を超えてからは特にそうでした。
  選挙で国民=有権者の絶対的な支持を得ている自公政府が決めたことだからやる!(世論調査内閣支持率がいくら下がろうとも)不平は聞き入れない!
  自公政権のそんな態度に国民=有権者はとうとう我慢しきれなくなったのです。

  <マニフェストで約束したことだから、何が何でもやる!>というのでは、民主党自公政権と同様の愚かさを競うことになってしまいます。

  国民=有権者に信頼されたいのなら、マニフェストに関して民主党はもっと柔軟になるべきです。<選挙後もわれわれの声・意見を聞く政党だ>と国民に思われなければ、民主党の長期=安定=政権はあり得ません。