第132回 駐米大使のまったく正しい“不快感”

  数日前にこんなニュースが報じられました。

  たとえば、ANNニュース(2009年09月10日)の見出しはこうでした。「インド洋給油活動「強く継続を求めたい」米国防総省
  国防総省・モレル報道官が「日本が行っている給油活動は、我々の大きな利益になっている。我々は、日本の新政権に活動の継続を非常に強く促すことになるだろう」と語ったという記事です。

  朝日新聞(2009年9月10日)も「米国防省報道官、インド洋での海自の給油活動継続促す」という見出しの記事を掲載しました。
  他の新聞にも、共同通信の配信を基にした同様の見出しが見られました。

  そこで、ANNの記事をさらに読んでみると−。
  
  <日本政府がこれまで続けてきたインド洋での給油活動は、国防総省からすれば最低限の貢献にしか見えません。つまり、その「最低限の貢献さえ打ち切るなら、ほかに何ができるのか」といういら立ちの表れでもあります。これから信頼関係作りを進めようというオバマ政権と鳩山新政権にとって、この給油問題が大きなトゲとなるのは間違いありません>という“解説”がつづいています。

  日本のマスコミというのは、相変わらず、アメリカの“有力マスコミ”や“政府高官”などによる対日批判に弱いようです。過剰に反応せずにはいられないようです。
  ANNは、親切にも、国防総省の“いら立ち”まで読み取って、その意思を代弁しています。日本の一報道機関にどうしてそんなことができるのでしょうか!
  <インド洋での給油活動は、国防総省からすれば最低限の貢献にしか見えません>?
  <この給油問題が大きなトゲとなるのは間違いありません>?
  ANNは何を恐れてこんなばかげたパニックに陥ったのでしょう?

  <「ほかに何ができるのか」>というのは、日本で民主党政権が正式に発足したら、まさしく、真っ先に日米両政府間で話し合われることの一つです。分かりきったことです。モレル報道官は<そういうことが話し合われることになろう>と言っているにすぎません。“外交的な発言”というのは、そういうものでは?国防総省を代表していら立って見せるのは彼の仕事ではありません。

  それに、給油問題が“大きなトゲ”になるかどうかも、日本の民主党が給油停止の方針以外にはまだ何も述べていない段階では“間違いない”かどうかは分かりません。
  民主党の代案も日米間の話し合いの行方も見ずにこういう断言ができる頭の持ち主も、世の中には、いるのですね。

  ところで、この給油を日本は無償で行っています。<2007年秋までに、油代だけで220億円、給油活動自体にその倍額を日本は費やしていた>というような報道もあったように記憶していますが、では2009年秋までには?
  通算の支援総額を自民党政府から聞いたことはありません。1000億円?2000億円?
  こんな支援が打ち切られそうになれば、アメリカでなくても、あらゆる理屈をつけて、“強硬”に反対するでしょう。まして、日本は、油の使い道をまったく詮索しない=ほんとうにアフガニスタンで使われていたのかさえ知ろうとしなかった=のですから、アメリカにとってこんなに都合のいい同盟国はほかにはなかったかもしれません。報道官に「我々の大きな利益になっている」とわざわざ言われなくても、分かることです。
  ですから、そこで、日本政府が、たとえば、「給油はやめた!」と言えば、アメリカも<ブッシュ政権がその油をほんとうはどう使ったか>を、少なくとも鳩山政権には、明らかにしなければならなくなるでしょう。そこから両国の話し合いが改めて始まります。−そういうのが本来の、対等な外交交渉なのではありませんか?

  さて、モレル報道官の“促し”を受けた形で−
  中曽根弘文外相は11日<インド洋での海上自衛隊の給油活動に関し「アフガニスタンのテロ対策の円滑な実施を下支えするものだ。各国から高い評価を受けており、継続すべきだ」と述べ、浜田靖一防衛相も<「テロに対する取り組みの中で、(給油活動は)われわれにできる最善の方法だ。当然、今後も続けていくのがベストだ」と指摘した>そうです(「外務、防衛相、給油支援の継続求める」時事通信)。

  (9月16日に失職する)自民党の閣僚が、自分たちがこれまで行ってきたことを、報道官の発言を受けてここ幸いとばかりに、正当化したいという気持ちは、まあ、分かりますが、建前上は、“給油”を自然続行することはないと主張して民主党衆院選に圧勝したのです。“テロとの戦い”=事実上は対イラク戦争=で決定的な戦略的間違いを犯した(自民党政権のお友達)ブッシュ政権はとうに消滅しているのです。しばらくは沈黙して、鳩山政権とオバマ政権のあいだの交渉・判断に任せるべきではりませんか。

  「でも、そのオバマ政権の国防総省報道官が…」?

  こんな報道もありました。「米報道官の給油継続要求に不快感 藤崎駐米大使」(共同通信 2009年9月11日 )
  <藤崎一郎駐米大使は10日の記者会見で、米国防総省のモレル報道官が9日に海上自衛隊によるインド洋での給油活動の継続を求めたことについて「日米間は報道官を通じてやりとりする関係ではない」と述べ、不快感を表明した>   駐米大使のこの“不快感”の表明を、日本の政治家や報道機関は見習うべきでした。ちょっと“促し”を受けたぐらいで、大慌てで、それこそ“対米追従”そのままの反応をしてしまったことを恥じるべきです。
  アメリカ政府高官、まして報道官の発言をいちいち“圧力”だと受け取るようでは、日米間の関係はけっして良くなりません。

  特に報道機関は、まずは、落ち着くべきです。50余年ぶりに真の政権交代があったのです。あちこちで動きがいくらかぎくしゃくするのは当然です。
  ですが、パニックに陥ることはありません。
  藤崎駐米大使は<日本のアフガニスタン支援策について「新しい政権が発足した時に日本政府として検討し協議すると思う。どういう貢献をするかを決めるのは日本だ」と述べ、日本外交の主体性を強調した>(共同通信)そうですよ。
  立派な見識、まったく正しい“不快感”の表明でした。

     −

<9月16日 追加>

  【ワシントン共同】米国防総省のモレル報道官は15日の記者会見で、民主党が検討しているインド洋での海上自衛隊の給油活動撤収問題に関し「継続することが望ましい」と述べるとともに、日本政府が判断するべきとの考えを強調した。

  9日の会見で「活動継続を強く促したい」と述べたのに対し、藤崎一郎駐米大使が不快感を表明したことを踏まえ「要求」から「要望」にトーンダウンした。

  (略)ゲーツ国防長官が活動継続を日本に求めているわけでもないと力説した。(2009年9月16日 06時19分)