第65回 これは便利!「テロとの戦い」 2007/11/15 閲覧(357)

  11月9日の<朝鮮日報>日本語インターネット版にこんな記事が掲載されていました。

  <アフリカのソマリア近海で海賊に襲われた北朝鮮の大紅湍(テホンダン)号(6390トン)の救出作戦を展開した米国に対し、北朝鮮が公式に感謝の意を伝えた>

 <北朝鮮朝鮮中央通信は8日に、アフリカのソマリア近海で北朝鮮の船舶が海賊に襲われた「大紅湍号事件」について報じ、「米国がわが国の船員たちを助けてくれたことに感謝の意を抱いており、今回の事件はテロとの戦いにおける朝米協力の象徴となった」と伝えた>

  あの北朝鮮が「テロとの戦い」でアメリカと協力?

  大紅湍(テホンダン)号が海賊に襲われた様子について同通信は次のように伝えているそうです。

  <大紅湍号は停泊中に警備員に変装して船に乗っていた7人の武装海賊の襲撃を受け、船員全員が操舵(そうだ)室と機関室に強制的に捕らえられた。海賊たちは威嚇射撃を繰り返しながら1万5000ドル(約169万円)の現金を要求してきた>が<船員たちは機関室を監視していたテロ犯二人の武器を奪って激しい銃撃戦を展開し、操舵室が海賊に占拠された状況でも非常操舵機と羅針盤を利用して公海上へと向かい、残った海賊を捕らえるために銃撃戦を続けた>
  そこへ<米国海軍の駆逐艦ジェームズ・ウイリアムズ号とヘリコプター1機が現場に出動し、海賊たちに投降するよう要求しながら銃撃戦を支援した。銃撃戦が始まってから20時間後、海賊たちは武器を捨てて投降した>

  北朝鮮は、この(単に金品奪取が目当てだと思える)<海賊>行為を「テロ」と名づけているのですね。
  「テロ」をこんなふうに拡大解釈されると(オレたちは政治的・宗教的信条に基づいて真摯に活動しているのだと信じ込んでいるらしい)本物の“テロリスト”たちが気を悪くするかもしれませんね。
  
  で、日本は?

  日本の<テロ対策特別措置法>がいうインド洋上での「海上阻止活動」は、いったい何を阻止しようというのかが分かりにくいままになっていますよね。
  でも、まさか…。
  こんな(単純な)海賊行為を“阻止”することは、とりあえず現在は、いわゆる“想定外”になっているはずですよね。

  あの、自らが<テロ支援国家>だとブッシュ政権に指定されている北朝鮮でさえ「テロとの戦い」という表現が使えるところに問題があります。
  「テロとの戦い」というときの「テロ」がきちんと定義されていないということです。

  日本政府もこれまで、厳密な定義を示すことなく「テロとの戦い」という表現を使いつづけてきています。
  厳密に定義すれば、海上自衛隊が給油した油のアメリカ軍による対イラク戦争への“転用”が改めて問題視されるから‐というのが主な理由だと思われます。
  定義をあいまいにしておけば、<オタクは「テロとの戦い」に参加しないの?>とだれかを脅しやすいから‐でもあるでしょうね。
  脅して、ブッシュ政権による愚かな対イラク戦争を支え、自民党政府の対米“協調”路線を何がなにでも維持したいから‐なのでしょうね。
  それが自民党政府の国際・外交戦略のすべてだから‐なのですね。

  愚かなことです。
  そんな態度を取っていれば(言葉の上で、とはいえ)いつかは北朝鮮の“仲間”にされてしまいかねないことがこの「大紅湍号事件」で分かりました。

  「テロとの戦い」というあいまいな言葉には大きな落とし穴が含まれています。その落とし穴の危険さを認識せずに使っていると、使っている者が(いまアメリカが現実にそうなっているように)抜き差しならない状態に追い込まれかねません。

  嘘とあいまいさは民主主義の敵です。
  その<嘘とあいまいさ>を特徴としているブッシュ政権の機嫌を取るために、給油関係法案の国会審議をおろそかにしてはなりません。
  ブッシュ政権はもう(相撲でいう)“死に体”になっています。
  アメリカ国民の大半はすでにブッシュ政権を見限っています。
  ブッシュ大統領が不機嫌になっても“日米関係”は格別に悪化することはありません。
  間に合わせの給油支援活動を何年間もつづけているのに、アフガニスタンで対タリバン・アルカイーダ戦争の状況は好転していません。
  イラクでの愚かな戦争も終わりません。

  何千億円もかけて行ってきた(らしい)日本による、インド洋上でのアメリカ艦船などへの給油活動は、愚かな戦争をつづけるブッシュ政権を財政的には助けていますが、それだけのことです。
  歴史的にみても無駄なことだった‐と後日、評されることでしょう。

  きょう、福田首相が訪米します…。
  悔やまれることですが、無理ですよね。いまの自民党政権に<真の外交>を行うよう求めても。