<「目先の政局ばかり意識して、国民不在の政治闘争を続けることは、参議院の第1党という権力の乱用にほかなりません」。福田首相は10日付の「内閣メールマガジン」で、9日の党首討論に続き民主党への憤りをぶちまけた>(朝日新聞インターネット版 2008年4月11日)
民主党が<権力を乱用している>と最初に公言したのは(わたしの記憶に間違いがなければ)伊吹文明・現自民党幹事長でした。
聞いたとき、時代劇のせりふ風に「これは異なことを!」という感想を抱いたものです。
ですから、福田首相の“二番煎じ”を耳にしたときにはほとんど笑ってしまいました。「自民党の中枢部にいるこの人たちの感覚はここまでゆがんでしまっているんだな」というぐあいに。
なぜといって…。
そういう言い方をすれば、第一に、自民党がこれまで一度も<権力の乱用>をしたことがないように聞こえるではありませんか!
「冗談はやめてください!」
衆院で3分の2以上の議席数があることをいいことにして<話し合いはもう無用!“再可決”でもなんでもやっちゃえ>というやり方で政治を仕切ってきたのが自民党でしょう?
超長期政権の座にありつづけてほとんどすべての政策を自らの意のままに動かしてきたのが自民党でしょう?
そういうことができる力を<権力>というのでしょう?
〔権力〕①他人を強制して服従させる力②(法)自己の意思によって他人を強制する法律上の力(新潮国語辞典)
<参議院の第1党という権力>?
参議院の第1党である民主党は自民党を<服従>させていますか?
自民党に何かを<強制>していますか?
民主党はただ“抵抗”しているだけでしょう?
他党を<服従>させ、他党に何かを<強制>するというのは長いあいだ政権を握りつづけている自民党の“専売特許”でした。他の政党は戦後、事実上、一度もそんな<権力>を手にしたことがありません。
それが事実(史実)です。
昨年夏の参議院議員選挙で有権者が民主党と他の野党に過半数を与えたことの意味が福田首相、伊吹幹事長にはまったく理解できていません。
「自民党に好き勝手なことはさせるな!」
「野党の意見も聞く政党に自民党を変えろ!」
単純なことです。
国会運営と政治はいくらか混迷しているかもしれませんが、あえて言えば、それは有権者が望んでいたことです。国民の多くはそんな“混迷”に驚いたり失望したりはしていません。
むしろ、事態は、昨年有権者が望んだとおりになっています。
首相は上のメールマガジンで民主党の対応を<国民不在>だとなじっていますが、福田内閣の支持率は30%以下まで下がっています。現在の状況に最も責任があるのはだれと国民が考えているかは明らかです。
道路特定財源の一般財源化。
読売新聞インターネット版は11日<福田首相は10日夜、首相官邸で自民党の伊吹幹事長、谷垣政調会長ら党四役と会談し、道路特定財源制度を2009年度から廃止し、全額一般財源化することを、11日に政府・与党間で正式に合意することを確認した>と報じました。
自民党が−道路族議員たちが−天下りさきを確保しておきたい道路関係官僚たちが長年反対しつづけてきた改正が、やっと国民大多数の意思どおりにできるようになろうとしているのは、民主党など野党が自民党の<権力>づくのやり方に強力に“抵抗”したからです。
参議院選挙で野党を多数派にした有権者が自民党の<権力>に、正当に制限を加えたのです。
福田首相や伊吹幹事長は、己知らずで恥知らずな民主党批判をやめて、有権者が望んだこの“混迷”から何かを学ぶべきです。
ただただ<民主党への憤りをぶちまけ>ているときではありません。
いままでの自民党支配が簡単すぎたのです。国民はいま、日本に良質の二大政党時代がやってくるかどうかに注目しています。
一党(あるいは公明党と組んだ二党)支配の時代の驕りを自民党はいま捨てるべきです。
民主党の単なる“抵抗”を<権力の乱用>などと呼んで泣き言を並べるしかできない自民党に何かを望むほうが無理なのかもしれませんが…。
ついでに言えば…。
民主党は“小沢依存体質”から早く脱却しなければなりません。小沢氏は自民党支配体制下で成功してきた政治家です。これまでの動きを見ていると、この人は、そんな過去の政治の良し悪しは見えても、新しい政治がどうあるべきかを論じられる人物ではなさそうです。
小沢氏が代表の座を去ろうとしたときに、翻意を求めるという愚を民主党はすでに犯しています。
福田氏を長にして自民党が悪あがきをしているあいだに<小沢からの脱却>を実現しないと、民主党はさきの参議院議員選挙で国民に託された仕事ができなくなってしまうでしょう。