イッテQ”上納”コント 再掲載: 第333回 リアクション芸人・出川哲朗らの“セクハラ”感覚 2014年12月21日

  「“セクシャル・ハラスメント”について言えば、日本のテレヴィ局は欧米のものよりはずいぶん甘い基準を設けているようだ」という話をします。
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  アメリカに住む日本人の友人に「フィリピンででも、インターネットで日本のテレヴィ番組が見られるはずだよ」と教えられたのはもう3年以上も前のことだったと思います。しかし、その情報提供に感謝しながらも、しばらくのあいだは、その友人が教えてくれた通りにわたしが日本の番組を見ることはありませんでした。
  気が変わって、ちょっと覗いてみることにしたのは、日本に帰省したときに、夕食をとりながら兄夫婦と一緒に見た番組も見られるのだろうか、とふと思ったからでした。
  インターネットで検索してみると、友人が名を挙げてくれた「パンドラ」だけではなく、中国や台湾のヴィデオ発信サーヴィス、さらには最大手の「YouTube」も日本のテレヴィ番組のリ・ランを提供していることが分かりました。
  そこで、著作権(知的財産所有権)の問題がどうなっているのかについては考えないことにして、兄夫婦が好んで見る「なんでも鑑定団」「秘密のケンミンSHOW」「大改造ビフォーアフター」などを見てみることにしました。
  やがて、会話が無料でできるSKYPEを利用して、視聴した番組の感想を兄と述べ合う、という別の小さな楽しみがあることも発見しました。
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  そんなことをしているあいだにたまたま出合ったのが日本テレヴィが日曜日に放送している「世界の果てまでイッテQ!」でした。
  「日本のテレヴィ局の“セクシャル・ハラスメント”に関する認識には問題がある」と改めて感じたのは、この番組の「春のシャッフルSP2014  お祭り男 出川哲朗 アメリカ 凍結祭り」と副題がつけられた部分の放送を見たときでした。
  出川哲朗というのは自らを「リアクション芸人」と称している著名コメディアンですよね。
  その日の放送の中で出川がアシスタントの「出川ガール 元国民的美少女コンテスト・グランプリ受賞者」河北麻友子とともに参加したのは、アメリカのコロラド州ネダーランドで開かれた「凍結祭り」でした。
  この「凍結祭り」では、 1)十分に濡らしたあとでがちがちに凍らせたTシャツを早く体に着け終える 2)大きなグラスに入っている、シャーベット状の冷え切った飲み物を、額の奥の痛みをこらえて早く呑み終える=ブレーンフレイズ・コンテスト 3)自分が好む仮装をして、水温が0度に近い人工池に飛び込んで、観衆のできるだけ大きな笑いを勝ち取る=パフォーマンス飛び込みコンテスト という3種目を多くの参加者たちが競い合うことになっていました。
  出川と河北は3種目すべてに参加しました。
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  出川と日本テレヴィの番組制作スタッフの「“セクハラ”に甘い体質」が顕わになったのは競技前のイントロダクションと第三の競技とにおいてでした。
  第一の問題 : それがどんな「祭り」であるかを彼らに説明してくれている人物が「祭り審査の最高責任者 村長・ジョーさん」であることが分かると、彼への“敬意”を表して審査で甘い採点をしてもらおうと、出川がいきなり土下座しました。河北も出川に倣いました。二人のそんな卑屈な“演技”も不快には感じられましたが、まあ、そこまでは視聴者に笑ってもらうための“リアクション”芸だと受け入れられないこともありませんでした。しかし、そのあと出川は、あろうことか、いきなり川北を「審査の最高責任者」に“売ろうとした”のです。「審査の最高責任者」に向かって川北を押し出しながら出川は「あとでネ ベリーチップ ベリーチップ」「トゥナイト トゥナイト」と何度かくり返したのです。河北は「人を安売りすんなって」「ふざけんなって」と抗議しましたが、出川はかまわずに、「審査の最高責任者」に向かって更に「トゥナイト プレゼントOK?」と突っ込みました。村長ジョーさんはただ苦笑いをしているように見えました。
  そんな“セクハラ”リアクションが間違いなく視聴者に受けるはずだと信じている芸人出川。そんな出川のリアクション芸が視聴者をおおいに笑わせるはずだと思い込んでいる番組制作スタッフ。
  第二の問題 : それは、3種目中の最大の呼び物である三番目の、凍りかけた池に参加者が思い思いに仮装して飛び込む「パフォーマンス飛び込みコンテスト」で起こりました。出川と河北は、番組制作スタッフが用意していた「侍」と「振袖姿の町娘」といういでたちで登場しました。しかし、二人が演じたのは、なんということか、出川「悪代官」が河北「町娘」の帯を強引に解いてレイプしようとするという“セクハラ”芝居でした。帯を解かれそうになる河北「町娘」はぐるぐる回転しながら池に落ちて見せました。その演技は、この競技の主要審査基準である観衆の「笑い」をかなり集めました。「笑い」を集めはしましたが…。出川が自分自身の演技に備えるために河北とともに池から離れようとしたときに、番組制作に関わっていた者たちが予期していなかった、ちょっとした騒動が起こりました。出川に向かって雪の玉がいくつも投げつけられたのです。観客からのこの反応について出川は「(河北がそうしたのに)お前は(池に)飛び込まないのかと会場からブーイング。なんでお前はやんねーんだという感じで、超、雪ぶつけられた」と、自分なりの解釈をして見せました。しかしながら、番組を見ている者には、出川の解釈は間違っているとしか思えませんでした。雪の玉を出川が投げつけられたのは、出川が「町娘」をレイプしようとした「悪代官」だったからに違いありません。たしかに、多くの観客が出川と河北の演技に大笑いさせられはしたのですが、「悪代官」によるレイプの試みを快く思わなかった人も少なくなかったのです。快く思わなかったから、彼らは出川「悪代官」に雪の玉とブーイングを投げつけたのです。
  「町娘」を「悪代官」がレイプしようとするシーンで“笑い”が取れるはずだと考えて、出川と河北にそんな“セクハラ”芝居をさせた番組制作スタッフ。(河北がどう感じていたかは分からなかったのですが、とにかく)嬉々として「悪代官」を演じた「リアクション芸人」出川。
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  最大の問題 : 自分の“セクハラ”体質を自覚していない「リアクション芸人」出川が、子どもたちのあいだでも人気が高いといわれるこの番組の中で、「あとでネ ベリーチップ ベリーチップ」「トゥナイト プレゼントOK?」と「出川ガール」河北を“売ろうとした”こと自体があきれるほどに破廉恥なことであったのに、番組の制作スタッフがそうとは気づかずに、単に視聴者に笑ってもらえるものとして、この場面を堂々と放送してしまったことをどう思えばいいのでしょう?
  出川「悪代官」が河北「町娘」の帯を解こうとするというアイディアを用意した番組制作スタッフには、そんな寸劇が良識の世界ではどう受け取られるかについて事前にいくらかでも思案したような形跡がまったくなかったことをどう解釈すればいいのでしょう?
  この番組のホストで、製作にも関わっているらしい、コメディアン内村光良、放送内容に全責任を負うはずの日本テレヴィが、そんな二つの破廉恥“セクハラ”シーンを臆面もなく放送させてしまったことをどう受け取ればいいのでしょう?
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  いやいや、“セクハラ”に関する日本人の認識の程度は、一般的には、こんなものなのでしょうね。“セクハラ”とは何であるのか、その弊害はどういうものなのかなどについて、日本人はほとんど理解していない、と世界の良識人に見られても仕方がない、ということなのでしょうね。
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  安倍晋三首相を代表とする日本の超保守派の人びとが、いわゆる“従軍慰安婦”問題は存在しない、と言い張る根本的な理由はそこにあるはずです。“セクハラ”、女性蔑視という考えがそもそも彼らの頭にはないのです。その視点から“慰安婦”問題を見つめ直すことが彼らにはできないのです。
  ですから彼らは、日本軍による強制的な“連行”はなかったのだから、と問題を極限まで矮小化させて、しまいには日本軍は“無罪”だ、“性奴隷”はいなかったのだ、と一方的に言い張ることができるのです。
  (子どもの視聴者も多いとされるこの)番組で、自分の女性アシスタントの体を売り渡そうとする「リアクション芸」を許したり、「町娘」の帯を解こうとする「悪代官」を登場させたりすることがいかに女性を侮蔑する、恥知らずなことであるかを大テレヴィ局が自覚していない、というのがいまの日本の実情なのです。国民全体のそんな無自覚が、“従軍慰安婦”問題に対する安倍首相らの傲慢な姿勢を下支えしているのです。
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  「たかがテレヴィ番組」と言うなかれ。
  「凍結祭り」のような、明らかに女性を蔑視するシーンが含まれた番組を放送して恥じることがない日本の現状を改められないようでは、日本はいつになっても、世界の尊敬が集まる国にはなれません。
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