かつて「問題は、事実を踏まえず、相手のことを考慮しない、その場の“ウケ”だけを狙う、渡辺氏の粗雑な思考法だ」と書いたことがあります（「時事往来 １９８８年８月１１日 【渡辺式思考法】 http://d.hatena.ne.jp/ourai09/20090415/1239749274）。
ここで渡辺氏というのは、当時の自民党政調会長、渡辺美智雄氏のことです。
「渡辺氏の粗雑な思考法」というのは、たとえば、こういうふうに表れていました。
＜渡辺氏の“最新版”の放言は今月五日、自民党の税制勉強会で飛び出したものだ。同氏は「所得税の最高税率を高いままにしておいて金持ちを追い出すような“ひがみ根性”では、国を誤る」と述べたうえで、「中国も台湾、香港、シンガポールに逃げて、“ゼニのないのだけ”残った」と具体的に“例”を挙げて自説を補強したという＞
＜今回の「ひがみ根性」発言でみれば、所得税の最高税率を下げるべきだとの見解は一つのりっぱな政治的意見だ。だが、税率引き下げに反対する意見が「ひがみ根性」から出ている、とするのは「本当の話」でも何でもない。渡辺氏の単なる“決めつけ”にすぎない。所得税が高すぎるために日本を追い出された「金持ち」の話もあまり耳にしたことがない＞
＜中国には「ゼニのないのだけ残った」というのも根拠がない発言。上海などの都会には、富裕層がたしかに存在しており、中国の最近の経済運営上の方針転換を実務的に支えているといわれている。また、中国の相対的な貧困と日本の税制改革問題は、基本的に何の関係もない。この二つをあえて関連づける経済・政治感覚には首を傾げさせられる＞
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渡辺氏には、その「粗雑な思考法」を示すもっと顕著な発言もありました。
＜「日本人は破産というと夜逃げとか一家心中とか重大に考えるが、クレジットカードが盛んな向こうの連中は黒人だとかいっぱいいて『あしたから何も払わなくていい』。それだけなんだ。ケロケロケロ、アッケラカのカーだよ」（自民党軽井沢セミナー、一九八八年七月二十三日）＞というものです（「時事往来」 １９８８年８月２３日 【続々 黒人差別】 http://d.hatena.ne.jp/ourai09/20090418/1240006699）。
＜「誇張と簡略化」が＜差別＞の有効な手段であることは間違いない。渡辺政調会長の「ケロケロケロ、アッケラカのカーだよ」発言が問題になったのは、それがまさしく「誇張と簡略化」の有効性を“活用”した差別発言だったからだ＞
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２０１６年２月１７日の新聞各紙は、自民党の丸山和也参院議員が１７日の参院憲法審査会で「今、米国は黒人が大統領になっている。黒人の血を引く。これは奴隷ですよ」（読売新聞）と発言したことを報じています。
朝日新聞は【「黒人・奴隷が米大統領に」 自民・丸山氏が発言し陳謝】 （ 2016年2月17日20時23分）と題した記事を掲げました。その詳細は＜バカみたいな話をすると、こう思われるかもしれませんが、例えば、いまアメリカは黒人が大統領になっているんですよ。黒人の血を引くね。これは奴隷ですよ、はっきり言って。リンカーンが奴隷解放をやったと。でも、公民権もない、何もない。ルーサーキングが出て、公民権運動の中で公民権が与えられた。でもですね、まさかアメリカの建国、あるいは当初の時代にですね、黒人、奴隷がですね、米国の大統領になるなんてことは考えもしない。これだけのですね、ダイナミックな変革をしていく国なんですよね＞だということです。
丸山議員の言いたかったことが「（アメリカは）ダイナミックな変革をしていく国なんですよね」という点にあったはずだと理解を示したうえでも、この発言の底の浅さを単なる事実誤認として見逃すわけにはいきません。上記の渡辺発言に通じる「誇張と簡略化」＝「差別の有効な手段」がそこにあるからです。
「ルーサーキングが出て、公民権運動の中で公民権が与えられた」という言い方にも“白人優位の視点からくる黒人蔑視”のにおいがします。事実を確認してから発言しようという真摯さがそこにはありません。“黒人”は公民権を（白人の慈悲で）「与えられた」のではなく自ら“勝ち取った”のだという事実……。
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「オバマ米大統領は、アフリカ系（黒人）初の大統領だが、ケニアから米国に留学した黒人の父と白人の母との間に生まれており、奴隷の子孫ではない」（朝日新聞）という「事実を踏まえず」に、丸山氏は「その場の“ウケ”だけを狙」って上のように発言したとしか思われません。
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渡辺発言から四半世紀以上が過ぎています。
日本の（殊に自民党の）政治家の中にはまだこんな浅薄な人物が少なくないようです。実に心寒い現状ですね。
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【民主、丸山氏に辞職決議案提出へ＝自民は陳謝】時事通信 （2016/02/18-14:12） http://www.jiji.com/jc/c?g=pol&k=2016021800504
＜民主党は１８日、緊急の参院常任役員会を開き、オバマ米大統領について「黒人の血を引く奴隷」などと発言した自民党の丸山和也参院議員に対し、議員辞職勧告決議案を提出することを決めた。
＜民主党の加藤敏幸参院国対委員長は、自民党の吉田博美参院国対委員長にこうした方針を伝達、吉田氏は陳謝した。加藤氏はこの後、記者団に「不用意に、十分な考察もせずに言うこと自体が侮蔑罪に近い。参院の名誉や権威をおとしめる発言だ」と厳しく批判した＞
