第99回 お願いです こんな言葉づかいはやめてください 2008/10/15  閲覧(255)

 NHKが日本語を壊しています。
  そのことは<ステアク・エッセイ><苦言熟考>でこれまでにも何度か指摘してきました。

  今回その使用をやめるようNHKに求めたいのは「不具合」と「過去(最高・最低・最大・最小)」の二語です。

  NHKではこの二語をそれぞれ次のように使います。

  まずは「不具合」  JALXXX便は離陸直後、左エンジンに“不具合”が生じ、羽田空港に引き返しました。

  例によって、辞典を開いてみましょう。

【具合】 <新潮国語辞典 現代語・古語> ①加減。調子。②体裁。体面。③健康状態 
     <小学館 現代国語例解辞典> <1>①物事の状況や機能、調子。また、健康の調子。あんばい。 <2>都合や、体面。
     (“不具合”はどちらの辞典にも項目として挙げられていません)

  ここの例での“不具合”の“具合”が意味するところは、それぞれの辞典の①に当たっています。わたしたちは“具合”と聞けば「加減」「調子」「状況」「機能」といった意味をまず頭に浮かべるわけです。
  その単語にいきなり<不>をつけてよしとする?ここに問題があるはずです。
  “具合”はふつう「いい(良い)」か「悪い」かで示されます。「加減」「調子」「状況」もおなじく「いい(良い)」か「悪い」かで示されます。“不”とはつながりません。
  つまり「不加減」「不調子」「不状況」という表現が気色悪く感じられるように“不具合”も薄気味悪い言い回しなのです。
  「機能」についても(たとえば)「機能不全」はあっても“不機能”はありえません。

  “不具合”という、落ち着きが悪い、意味がはっきりしない言葉を上の例文のような状況でNHKが使うようになったのはいつごろからでしょうか。
  機長が「左エンジンの“故障”(あるいは“機能不全”)に気づき」ではマズイとNHKはなぜ考えたのでしょうか?
  “不具合”は飛行機から自動車、乳母車、ガス・ヒーターなどなど、工業製品のすべてで起こりえます。NHKはこれらの製品のメイカーに気を使ってアカラサマな“故障”や“不良(部品)”という単語を使わなくなったのでしょうか?
  トゥラブルの本質をぼかして表現する道具として“不具合”を考案したのでしょうか?メイカーのために?

  次に「過去」   東京株式市場の本日の上げ幅は“過去最大”を記録しました。

  以前は“過去”ではなく“史上”を使っていました。「東京株式市場“史上”最大」といったふうに。「プロ野球“史上”」「観測“史上”」などもおなじ使い方でした。
  「“過去”最多の一試合の投球数」「旭川では“過去”最低の気温を記録」などとは言っていませんでした。

  この“過去”の最大の問題は(主として)事の<起点>を示さないことにあります。
  たとえば、ある気温が最高であるとは「観測史上」としては言えても、太古までさかのぼった“過去”全体のことについては知りようがありません。プロ野球が発足する前の投球数の記録は調べたうえでの“過去”なのでしょうか?

  いまは気温のことを話題にしているのだから、“過去”といえば“観測史上”のことだと理解してもらえるはず?
  あまえてはいけません。視聴料を取る“公共放送”NHKは美しく意味が明確な日本語を語り伝える義務があります。
  「東京株式市場史上」や「観測史上」では、見出しにする際に長すぎるなどといった安直な考えで、その意味が曖昧模糊とした“過去”という単語を使い始めたのだとしたら、NHKはその義務を放棄しているといわなければなりません。

  “不具合”や“過去”をこんなふうにぶざまに使わないでください。おかしな日本語をもうこれ以上、広めないでください。