第355回 1990年の「露骨な対日要求」

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  「加州毎日新聞(California Daily News)」のコラム「時事往来」の担当者の一人だったころの1990年9月17日に、こんなことを書いていました。
  突然に対クウェート侵略を開始したイラクに対してアメリカが始めた「湾岸戦争」に関するアメリカのメディアの論調を紹介したものでした。
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  [緊急追加 10月20日]  ジャーナリストの田中良明氏が19日に【日本に勝ってから一度も戦争に勝てない「軍事大国」アメリカ】と題する記事を「THE JOURNAL」掲載しました(http://ch.nicovideo.jp/ch711/blomaga/ar894971)。
  数か所を引用させてもらいます。
  ソ連を「悪の帝国」と呼ぶレーガン大統領が登場し、アメリカに「反共イデオロギー」が復活した。ところが軍事費の膨張で財政と貿易の「双子の赤字」が深刻になると、平和憲法を盾に「安保タダ乗り」で経済を成長させた日本への反発が強まり、日米経済戦争が勃発した>
  レーガン時代の赤字を消したのは湾岸戦争である>
  <この戦争で日本が人的貢献をしなかった事に国際社会から厳しい目が向けられていると言われるが、それはアメリカが都合よく作り上げたまやかしである。アメリカは本音では大変に評価していた。しかし経済戦争で煮え湯を飲まされた日本には一物ある
それが「ショウ・ザ・フラッグ」とか「ブーツ・オン・ザ・グラウンド」という一種の脅しを言わせ、日本はそれを本気にしてそれがトラウマとなり、アメリカの言うまま安倍政権が集団的自衛権行使容認にまで突き進むことになった
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  【日本の分担】    =加州毎日新聞(California Daily News)は1931年から1992年までロサンジェルスで発行された日系新聞です=
  <イラクが引き起こした湾岸危機の長期化が明確になるにつれて、同地域で産出される石油の大輸入国である日本に対する「貢献要求」の声ががますます大きくなってきている>
  <『ウォールストリート・ジャーナル』紙はすでに先月三十一日、米国の木材製品の輸入、特許、関西新空港工事の入札などの問題で、日本は以前に行った約束どおりには市場開放を行っていないとの見方が多いと述べたあとで、湾岸危機に言及、「危機の影響を受けた諸国に対する日本の援助計画は不十分だと多くが見ている」と指摘している。ケンパー・ファイナンシャル・サービスの経済専門家デイビッド・ヘイル氏の「(中東の)石油産地を守る軍事行動費を含めて、米国の費用の三五%から四〇%を出すよう日本に期待してもおかしくはない」という意見がその代表例だ>
  <『ニューヨーク・タイムズ』紙は同三十日と三十一日の「社説」で同じ問題を取り上げた> <三十日は、湾岸危機に対するブッシュ大統領の対応を「ほとんど欠点がないもの」と賞賛したうえで、米国の同盟国全体に対し、「同盟国ははたして(米国の)軍事・経済的負担に対する公正な分担を行っているだろうか」との疑問を提出、英国とフランスに関しては「サウジアラビアへもっと軍隊を送ることができるはずだ」、エジプトについては「数千人の派遣では十分とは言えない」とそれぞれ注文をつけている>
  <同紙は日本と西独に対しては「石油供給を確実にするために必要な水準の貢献を両国ともまだ開始していない」と指摘している> <翌三十一日には同紙は、今度は日本だけを標的として「貢献」問題を再論している。日本が前日発表した十億ドルの資金提供計画につて同紙は「前線で包囲されている湾岸諸国家を支援するという東京の約束がまだぼやけたままであるのは残念なことだ」と述べ、さらに、この金額は「日本の湾岸石油に対する依存度、世界で重要な役割を果たしたいという新たな望みにふさわしい日本の貢献度にはまだ近づいていない」と強調している>
  <米国政府は、さきに訪日したブレイディー財務長官を通じて日本政府に対し、すでに支援が決定しているエジプトとトルコ、ヨルダンの三か国への二十億ドル、多国籍軍への十億ドルのほかに、多国籍軍支援額をもう十億ドル上積みするよう求めている> <連邦下院は十二日、日本が湾岸危機で十分な貢献を行っていないとして、在日米軍五万人の費用の全額負担を求める法案を賛成三七〇、反対五三で可決した>
  <『ロサンジェルス・タイムズ』紙は十三日、ほかとは異なる調子の「社説」を掲載した。「なぜ日本と西独をスケープゴートにするのか」「サウジアラビアやその他の国も十分には拠出していない」との見出しがつけられたこの「社説」は、国外に一千億ドルの資産を持つといわれるクウェートがことし、米軍派遣費として二十五億ドルしか出さないこと、危機発生以来の原油価格高騰で、サウジだけでも“毎月”三十億ドルの増収があることなどを指摘、日本や西独などの「他の友人や同盟国」がいっそう貢献することは当然だとしながらも、サウジやアラブ首長国連邦バーレーンオマーンなど、米国の出兵で政権が直接守られている国々にとっては、出兵費用の大半を引き受けたとしてもその費用は安いものだ、と述べている>
  <今度の危機でも、日本政府の対応は遅かった> <だが、一部の“外圧”に負けて拙速を重ね、国の基本を曲げるようなことがあってはならない。世界、特にアジア地域で広く認知されている日本国憲法の枠内で、どう世界に貢献できるかを日頃熟考してしていれば、国際的な緊急危機に際しても、特にうろたえることはないはずだ
  <政治的バックボーンを欠く自民党政府がこれから打ち出さざるを得ない対応策を国民は十分に監視する必要がある
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  25年後に自民党政府は、日本国憲法を蹂躙・凌辱しきるやり方で「亡国好戦法」を(形の上では)成立させてしまいました。ほとんど"決定的"なまでに「一部の“外圧”に負けて拙速を重ね、国の基本を曲げ」てしまったのです。
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  上の『ウォールストリート・ジャーナル』紙の主張に目を向けてください。<米国の木材製品の輸入、特許、関西新空港工事の入札などの問題で、日本は以前に行った約束どおりには市場開放を行っていないとの見方が多いと述べたあとで、湾岸危機に言及、「危機の影響を受けた諸国に対する日本の援助計画は不十分だと多くが見ている」と指摘>していました。
  アメリカが行う戦争への協力と経済的対米譲歩を同時に求める同紙の姿勢は、まるで、違憲「亡国好戦法」を無条件に歓迎し、一方で、TPP(Trans-Pacific Partnership)で多大の譲歩を日本から引き出そうという、いまのアメリカ政府の方針を代弁しているかのようですね。
  自民党政権が(アメリカが経済力と軍事力の両方を衰退させてしまった)25年後のいま、「亡国好戦法」を(形式上)強行成立させたのは、まるで、『ニューヨーク・タイムズ』の当時の<この金額は「日本の湾岸石油に対する依存度、世界で重要な役割を果たしたいという新たな望みにふさわしい日本の貢献度にはまだ近づいていない」>という批判に応えたものであるかのようですね。
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  25年前のアメリカ側の上のような露骨な論調を重ねて見れば……
  安倍晋三政権がどこに顔を向けながら憲法違反の「亡国好戦法」を(形の上で)成立させたかが知れますよね。『ニューヨーク・タイムズ』が言う「世界で重要な役割を果たしたいという新たな望み」の「望み」を「身の丈に合わない野望」とでも書き換えればその理解が容易になります。
  TPP交渉では、日本国内の農業団体との事前の約束を無視し、"ありえない"ほどの"譲歩"を見せている理由が分かりますよね。自民党の選挙公約<「聖域なき関税撤廃」を前提にする限り、TPP交渉参加に反対します>を平然と、完全に無視しきって。
  つまり、安倍自民党政権は「アメリカ政府の顔色をうかがいながら、あるいは、アメリカ政府が押しつけてくる要求を呑む形で、日本の軍国化・大日本帝国化を進める」売国・亡国政権だということです。
  国民との約束など守る気がない(「丁寧な説明」などまったくやったことがない)大嘘つき・卑劣政権なのです。
  そして、無念なことに、自民党政府を「十分に監視」してこなかった「国民」が、傲慢極まりないいまの自民党を、結果として、作り上げてきたのです。
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  しかし、まだ、間に合います。安倍自民党から政権を奪うことは可能です。彼らに勝手気ままに振る舞われないようにすることはできます。
  安倍自民党の大嘘「積極的平和主義」が国民を導こうとしているところは、外交軍事上では対米従属路線、国内的には、主権在民立憲主義もない「日本の中国化」「日本の北朝鮮化」です。
  共産党支配下にある中国、労働党がすべてを牛耳る北朝鮮に、あなたは住みたいと思いますか。
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