第240回 銀行が経営破綻 さあ 預金は?

  外国で暮らしているのですから、当然のことながら、“何もかもが日本でのものとおなじ”というわけにはいきません。
  住んでいるマカティ市での超高層ビル建築ブームぶりだけを見ていると、フィリピンをいまでも開発途上国と呼んでいいのかと、ふと首を傾げてしまう瞬間もありますが、国全体に目を向ければ、ここはやはりまだまだ貧しい国です。ですから、特に、一般に裕福だと見られる外国人としては、強盗や詐欺、というよりは、あらゆる種類の犯罪の被害者になる危険がすぐ身の回りにあることをちゃんと自覚ながら暮らさなければならない国です。
  そこで、過去6年間を現実にそう自覚しながら暮らしてきたのですが、自分が利用しているE銀行が経営破綻してしまってフィリピン預金保険協会(PHILIPPINE DEPOSIT INSURANCE CORPORATION=PDIC)の管理下に置かれることになろう、つまりは、ある種の“危険”がそんなところにもあろうとは、まったく考えたことがありませんでした。
  いえ、そのE銀行の経営状態がよくないようだということは、利用者としてうすうす感じてはいたのですよ。でも、この銀行よりも規模が大きくて経営も安定しているはずのB銀行に吸収されることがこの二つの銀行のあいだで昨年の中ごろに合意されたと聞いていましたから、E銀行の将来についてはほとんど心配してはいませんでした。
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  E銀行がPDICの管理下に置かれたことを知ったのは、4月の最後の金曜日の夕方のことです。偶然にチャンネルを合わせたGMAニュースが、その日、予告なしで、E銀行が営業をとりやめ、その他の業務も停止していると報じていたのです。インターネットで調べなおすと、どうやら、E銀行を吸収するという話をB銀行が、ここに来て、拒否したために、E銀行は破綻処理される以外に道がなくなった、ということのようでした。拒否の理由については、E銀行がB銀行に提出していた書類に重大な不備があることが判明したからのようだ、と報じられていました。
  テレヴィと新聞の報道が強調していたのは、預金は50万ドルまでをPDICが保証しているので、預金額が1万ペソ(およそ2万円)以下の過半数(62〜63パーセント)の預金者は格別に心配することはない、ということでした(そのせいなのでしょう、預金者がE銀行の各支店に押しかけているというようなテレヴィ画像は一度も見ませんでした)。返済申請の手続きは、そのための説明会が、ほぼ支店単位で順次開かれるから ①預金者はそれに出席するように ②預金額1万ペソ以下の(E銀行からの借入金などがない)顧客への返済は、PDICの審査なしで、5月末までに開始される ③預金額が1万ペソ以上の顧客については、その返済申請受けつけが6月末までには開始されるだろう、とも報じられていました。
  わたし自身の預金額は後者に該当しますから、6月末にただちに手続きをすませたとしても、自分のカネと再び出会うのは何か月も先のことになります。
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  さて、そんなに経営基盤が脆弱なE銀行を利用するようになったのは、わたしが2006年に購入したコンドミニアムの持ち主が、売買・権利書受け渡しの場所をE銀行のある支店に指定したからです。フィリピンには生活の足がかりが何もなかった身としては、コンドミニアム購入資金を日本から動かした実績を評価して、当座を含むいくつかの口座を開くことを(簡単な審査で)ただちに了承したE銀行は、とりあえずは、最も“使いやすい”銀行だったわけですね。
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  わたしが使っていた支店の預金者を対象とした説明会の開催を待たずに、5月4日にPDICのマカティ・オフィスに出かけて返済申請書類を受け取ってきました。申請書は一口座について一通(3枚)です。その一通ごとに(顔とサインが確認しやすいように)二倍ほどに拡大した、パスポートとフィリピンの運転免許証の(自筆サインを添えた)コピーを付します。わたし自身は口座を四つ開いていましたから、4セットの申請書を提出することになります(E銀行からの借入金などはないと宣誓して、それを公証人に保証してもらわなければならないかもしれませんが、それについては5月4日には確認し損ないました)。
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  “外国暮らしでは何が起こるか分からない”から、財政的に緊急の不安がない状態に自分を置いておこうというので、わたしの四つの口座には(ドル預金を含めて)合計で50万ペソを超える預金がありましたから、その超えた分は戻って来ない=失くしてしまったことになります。それが、B銀行によるE銀行吸収話を安易に信じてしまったことの“つけ”だといえますね。
  外国での暮らしでは、何につけても、いくら警戒しても警戒しすぎるということはない!いまは、改めてそう感じています。
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  ところで、E銀行の過半数の預金者がそれより小額を預けているという1万ペソというのは日本円にすれば、いまの外国為替交換レイトでは、2万円ほどになります。さて、その2万円のフィリピンでの“価値”となると…。
  フィリピンの物価は日本と比べると、一般的には低いわけですが、日々の暮らしの中で“では、何分の一ぐらいか”を感じるのは簡単ではありません。たとえば、電気・電子機器や自動車などの高級耐久消費製品、ガソリン、電気使用料などについては国際価格なみですし、食料品なども、外国からの輸入品は安くはありません。つまり、どういう暮らし方を選ぶかで感じるところは大きく変わってくるわけですね。アメリカや日本でのものと似た都会暮らしを選べば、フィリピンの物価はあまり低くはない、ということになるでしょうし、つつましやかな田舎暮らしを選べば、かなり低い、と思うに違いありません。
  これまでに聞きかじったところによりますと、1万ペソ(およそ2万円)があれば、現金収入の源が限られている田舎では、5人から6人の家族がなんとか食いつないでいけるようです。しかし、フィリピンのビジネスセンター、フィリピン第一の近代都市であるマカティ市でなら、1万ペソがあっても、(広くもない1部屋を4〜5人で使って、1人1000ペソから1500ペソの部屋代を払う)ボーディング・ハウスに住んで、故郷の家族にいくらかのカネを送金しながら、独身者1人が控えめに暮らすのが精一杯、というところのようです。