第246回  だれもかれもが悪質な言い逃れ

  日本語をきちんと話そうという人間が減りつづけているために、日本は全体として、正しい筋道で物が考えられない国になっている。だから、どの分野、どの社会においても、行くべき方向に事がまっすぐ進まない…。これでは日本は衰退してしまう。「苦言熟考」の持論です。
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  【首相「誤解生んだ」意見聴取会の運営改善へ】(日本テレビ系 NNN 7月18日 水)
   <将来の原発依存度などのエネルギー政策について国民から直接意見を聴く意見聴取会の発言者に電力会社の社員が含まれていたことについて、野田首相は18日の参議院一体改革特別委員会で、運営方法の改善に取り組む考えを示した>< 野田首相「残念ながら、意見聴取会で、国民の皆さまに誤解を生むような動きもございました。そういうことを手直ししながら、丁寧に国民的な議論を進めていきたいというふうに考えております」>
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  「国民の皆様に誤解を生むような動き」ですって?
  「国民の皆様に誤解を生むような」という言い方そのものがまず稚拙すぎます。一国の首相としては、恥じるべきほどだと思います。「国民の皆様に誤解されるような動き」あるいは「国民の皆様のあいだに誤解が生まれるような動き」などと言うべきところでした。
  こんな日本語を使う人ですから、野田首相は、自分の発言の根幹が狂っていることに気づきません。いえ、首相は、実は、もっとずる賢くて、発言の根幹を故意に狂わせ、この問題の本質がどこにあるかを国民には悟られないようにしようとしたのかもしれません。
  でも、野田首相、国民を甘く見すぎてはいませんか?
  「国民から直接意見を聴く意見聴取会の発言者に電力会社の社員が含まれていたこと」を知って、それはおかしい、いや、そもそも、この意見聴取会というのは「国民から直接意見を聴く」意図で開かれたものではなかったのではないか、と国民が疑うのはあまりにも当然のことです。その疑いを「誤解」ですって?「電力会社の社員」であるのにふつうの、善意の「国民」であるふりをして発言した者が、三か所の意見聴取会のそれぞれ10人程度の発言者の中に、一人ずつ、これまでにすでに3人もいたのでしょう?個々の電力会社が、あるいは、電力業界が総意として、電力業界の強弁や言い逃れ(「放射能の直接的な影響で亡くなった人は一人もいない!」など)を国民に聞かせようと、組織的に送り込んだ、と考えるのが自然でしょう?
  それを「誤解」と言い放って、そこに悪意はなかったかのように電力業界をかばう首相。何のための意見聴取会だと政府が考えていたかが、ここからも知れますよね。国民を愚弄する態度です。
  そこにとどまりません。「そういうことを手直ししながら、丁寧に国民的な議論を進めていきたい」とも野田首相は言っています。ですが、電力会社が“にせ国民”を送り込んだことは「手直し」ですませていいような小さな問題ではありません。国民をたぶらかそうという(福島第一原子力発電所での大事故のあとに東京電力が何度も見せてきたものとおなじ)こんな悪質なやり方は、厳しく追及されるべきです。電力業界のどこが、あるいは、だれが、この送り込みを発案し、どこが、あるいは、だれがそれを承認したのかを完全に明らかにして、関係者を厳しく処分するべきです。そうしなければ、電力会社・業界の傲慢体質は直りません。
  たとえば、見た目をよくしようと、本来は許されていない危険な薬品を混ぜて食品を販売すれば、食品会社は罰せられます。この悪質な“にせ国民送り込み”の当事者にも、当然のこととして、何らかの罰が科せられなければなりません。
  それができないようであれば、日本に明るい未来はありません。
  「丁寧に国民的な議論」というのも大きなごまかしです。だって、原子力発電所がない沖縄を除くすべての電力会社の営業区域での、この意見聴取会では発言者数、発言時間などが不要に制限されているし、意見への反論さえも許されていないのですよ。そんなもののどこが「国民的」で、どんな「議論」が「丁寧に」できるというのでしょう?
  野田首相、「丁寧な国民的な議論」などという、まったく事実とは異なる表現を振りまいて国民を騙そうというのは、三流の人間の頭にしか浮かばない、卑劣な考えです。
  日本国民は、こんな人物をいまだに首相として担いでいることを恥じるべきなのかもしれませんね。この人がほかでも同様のごまかしに走っている可能性は大きいはずですから。
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  政府や監督官庁に罰せられることはないと信じているらしい電力業界の醜さもかなりなものです。
  【電事連会長、電力社員発言「問題ない」】(TBS系 JNN 7月20日 金)
  <将来の原発依存度をめぐり国民の意見を聴く会で電力会社の社員が発言していた問題で、業界団体のトップが「問題はない」と反論しました><「電力会社社員が意見聴取会で発言するということ自体には私は問題があるというふうには考えておりません」(電気事業連合会 八木誠 会長)><電気事業連合会の八木会長はこのように述べた上で「電力会社の社員というだけで個人の意見表明も自粛しないといけないのは違和感を感じる」と反論しました>
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  八木会長も国民をなめきっています。「個人の意見表明」?
  そもそもこの意見聴取会は「国民の意見」を聴くために開かれたものでしょう?電力業界の原子力発電に関する姿勢に対する意見を…。電力業界は、あくまでも、意見を聴く立場にあったのですよ。
  八木会長。電力業界がどう考えているのかは、わざわざ場を設けて知らせてもらわなくても、業界の日ごろの活動や言動から分かっています。
  それに、電力会社の社員が、電力会社に利する意見を、電力業界に送り込まれて発表するというのは、けっして「個人の意見表明」には当たりません。国民への意図的で、たちが悪いごまかしです。
  送り込まれて、というのが曲解だというのなら、3人の電力会社社員が選ばれた経緯を詳細に、ごまかすことなく、公表するべきです。
  この「国民の意見を聴く意見聴取会」から「電力会社の社員」を排除することに「違和感を感じる」という八木会長の理性と感性は完全に腐っています。
  そこから自然に類推できることは、電力業界の原子力発電に関する考えも腐っている恐れがおおいにある、ということです。怖いことです。
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  【聴取会で組織的な意見表明自粛を 電力各社に徹底を指導】(2012年7月18日 東京新聞 共同)
  <政府のエネルギー・環境政策に関する意見聴取会で電力会社社員が原発推進を訴えた問題で、経済産業省は18日、組織として聴取会や意見公募での意見表明の応募を社員に促さないよう、電力会社を行政指導した><各社への要請書は、過去の原発関連シンポジウムで発覚した電力会社の「やらせ」に対する国民の不信感を指摘、「国民に疑念を持たれないよう十分留意する」ことも求めた>
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  この程度ですませるつもり?
  国民の不信感を高める「やらせ」を連発して恥じないごまかし常習犯=電力会社・業界を罰するつもりは、今度も、政府にはないようです。
  いまの電力会社・業界は、どこから見ても、罰を少し受けたぐらいでしおらしくなるような組織ではないのに、取ってつけただけの「行政指導」ですませて、自らの責任を果たしたふりをする政府。
  政権交代を、もう一度、いや、あと二回か三回か、経験すれば、日本もいくらかはよくなるのでしょうか?