第231回  もう救いようがない? NHKの日本語

  きのう、17日に、2月になって初めて、NHKテレヴィの「ニュースウォッチ9」を見ました。
  ふだんはよく見るこのニュース番組をほぼ半月間も見なかったのは、2日の夜にマニラ(首都圏のマカティ市)の我が家にやって来て13日の昼に去って行った兄(ステアク=www.suteaku.com=編集長)夫婦とその友人一人をあちこちに案内することに忙しかったし、そのあとも、この旅行のあいだに兄が撮影した写真をインターネットに載せようというのでコンピューターの前で長く時間を過ごしたりしたからでした(「ステアク写真集5」http://d.hatena.ne.jp/suteaku2012)。
  今回が三回目となった三人でのフィリピン旅行の訪問先としてわたしが選んでいたのは、第一にはルソン島北部の“世界遺産=スペインが統治していた時代に築かれた町並み=がある町”ヴィガン(イロコス・スル州)、第二には、その途中にあるリゾート「サンダーバード ポロ・ポイント」(サン・フェルナンド市、ラ・ウニオン州)でした。
  マニラ首都圏からヴィガンまでは、自動車を走らせつづけて8時間、あいだで食事などに時間を費やせば10時間はかかります。タールラック市(タールラック州)から北には高速道路がありませんので、一般道路を、(サイドカーつきのオートバイ・タクシー)トゥライシクルや(10人前後の乗客を運ぶことができる乗合自動車)ジープニー、それに、日本やアメリカでは考えられないほど乱暴な運転をする長距離バスなどを避けながら、ひたすら走ることになりますが、今回は、疲労を避けるために、行きも帰りも、ほぼ中間地点に位置するサン・フェルナンドでひと息入れることにしたわけです。
  さて、17日に見たNHKのニュースのことに戻りますと…。
  NHKが使う日本語が劣化しつづけているという意見を「苦言熟考」はこれまで何度も述べてきました。その日本語の劣化が、日本人から論理的な、まともな思考能力を奪い、日本全体をだめにしている、と言いつづけてきました。
  政治家も財界人も、報道関係者も一般人も、押しなべて、建設的に思考することができなくなってきています。
  現実に、多くの日本人がすでに、たとえば「…できると思います」とは言えずに「…できるかなと思います」あるいは「…できるといい(かな)と思います」などと言うようになっています。「…したい」と言うかわりに「…になればいい(かな)」「…になれればいい(かな)」と逃げを打つことが、大半の日本人のあいだでごく普通になっています。自分の発言に責任を取ることができない、あるいは、取りたくない人間だらけに日本はなってしまっているのです。 
  17日にNHKがまたまた使った最低の日本語は「(気象庁は)路面の凍結(など)に注意を呼びかけています」というものでした。言うまでもありませんが、「路面の凍結」に何か注意を呼びかけても「路面」は絶対に反応しません。この日本語はおかしいのです。「路面の凍結に注意するよう(に、この地域の住民に)呼びかけています」とでもいうふうに言わないと正しい意味は伝わらないのです。
  こんなに初歩的な誤りなのに、それに気づき、正すことができる人物がNHKの組織内にはいなくなっています。放送から悪文=ずさんな日本語を追放しようという心構えを持つ人物がいないのです。
  「次は気象情報。井田さんです」などという表現もNHKは好んで使います。こんな手抜きの日本語がNHkを劣悪な報道機関にしているとはだれも思っていません。
  「次は気象情報の時間です。井田さんに伝えてもらいます」「次の気象情報を担当するのは井田さんです」などなど、手抜きではない表現はいくらでもあります。視聴者から受信料を取っている“公共放送”NHKには、より正しい、美しい日本語を使う義務があります。報道界の先頭に立って日本語の劣化を推し進めるのは、日本人全体に対する犯罪だとさえ言えます。
  こんな日本語しか使えないNHKがこのニュースの冒頭で野田首相にインタヴューをしていました。しかし、国民にとって真に重要なことを首相から聞き出すことができたとは思えません。
  日本語をNHKの例にならって使っていれば、やがて、すべての日本人が物事を事細かに詰めて、綿密に考えることができなくなります。いえ、政治の世界はすでにそうなっています。日本の政界は、ずさんな日本語=思考が大手を振って闊歩する魔界に成り果てています。社会保障制度の改革や財政の健全化、そうするための公費削減、増税などの重要な議論が進まない最大の理由は、進めるために必要な日本語力を政治家たちが持っていないところにあります。
  日本の未来は日本人がどこまで“日本語力”を回復できるかに大きくかかっています。
  NHKの劣悪な日本語を再び耳にして、兄たちとのルソン島北部・中部への旅行の記憶の温もりが、いささか冷めてしまいました。
  NHKの日本語能力がもう“回復できない”ほどひどいところまで来ているのでないように、と願っています。