第230回 読売新聞が追いついてきた

  正直にいいますと、読売新聞の社説が論じるところと意見が一致することはあまりありません。でも、あまり、というのは例外もある、ということです。2012年1月29日の社説はその一つでした。
  【外国人介護士 日本語の障壁をもっと下げよ】(http://www.yomiuri.co.jp/editorial/news/20120128-OYT1T00857.htm
  <難解な日本語を障壁にして、外国の有能な人材を拒む制度は、根本的に見直すべきだ>
  <インドネシアから介護福祉士を目指して来日し、3年間、介護現場で働きながら勉強してきた約100人がきょう29日、国家試験に挑戦する>
  <看護師の場合、日本でずっと働き続けるには、認められた3年の在留期間に国家試験に受からねばならない。だが、過去3回の試験で合格者は計17人にとどまる>
  <一方、介護福祉士の場合は4年以内に合格する必要がある。「3年の実務経験」が受験の条件であるため、滞在4年目の受験が“一発勝負”となる>
  <筆記試験のあり方にも、大きな疑問符が付く。看護師試験で合格者が少なかった理由は、問題文に「褥瘡」「仰臥位」といった、日本人でも難しい漢字や専門用語が並んでいるためだ>
  <そもそもこれほど高度な日本語能力が必要なのか、という批判は専門家からも出ている。速やかに抜本的な改善策を講じるべきだ>
  <フィリピンからも看護師と介護福祉士の候補者を受け入れているが、状況は変わらない。今後ベトナムからも受け入れるが、今の試験内容や制度のままでは日本嫌いを増やすだけではないか>
  <優秀な人材を、もっと積極的に受け入れるべきだ。それは、少子高齢化が進む日本が、活力を保ち続ける道でもあろう>
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  「苦言熟考」と読売社説がどのぐらい“一致”しているかについて知りたい方は、下の二つのエッセイを読んでください。
  【第116回 だから英語で受験できるように! 外国人の看護士・介護士】(http://d.hatena.ne.jp/kugen/20090415/1239748122
  【第84回 介護看護士・福祉士の国家試験は英語ででも受けられるように!】(2008−5−23)(http://d.hatena.ne.jp/kugen/20081107/1226025968
  その一部を書き写します…
  <一年ほど前のことだった思います。NHKの国際放送が、その協定が締結された後で日本で働こうという介護士をフィリピンに探しに来たという日本人医療関係者の話をリポートしていました><ところが、この人が訪ねた看護士・介護福祉士学校では…><将来は日本で働きたいという学生がほとんどいなかったのです>
  <フィリピン国内の学校の授業(講義)ですでに馴染んでいる英語がそのまま使えるうえに、実務暦3年で永住権まで付与される(という)カナダを希望する学生が最も多いようでした><フィリピンで得た資格が(ほとんどそのまま)使える(らしい)アメリカを希望する学生も少なくありませんでした><ヨーロッパ諸国と中東の数か国がつづいていたようです>
  <日本が嫌われていた理由は明白だと思えます><「日本語の国家試験に受からなければ帰国する」><これに違いありません>
  <この、先見性に欠けた、愚かな条件がついているために、協定は結んだものの、果たして本気で看護士・介護福祉士を受け入れる気が日本政府にはあるのか−と疑われているのです><英語でその国の資格試験が受けられる国ぐにと比べてみてください>
  <「日本語の国家試験」を受けなければならない?><3、4年間日本で働き学んだあとで、日本語の国家試験に受からなければ帰国させられる?>
  <あなたがインドネシア人やフィリピン人だったら、どうしますか?あえて日本で試してみますか?一か八か、日本を選んでみますか?>
  <そんなことで日本の将来の高齢者介護はだいじょうぶなのでしょうか?><介護福祉士などの将来の不足を本気で心配しているのなら、日本政府はその<国家試験>を(英訳して)外国人には英語で受けさせるべきです><英語の教科書・参考書も用意すべきです>
  <看護士にしろ介護福祉士にしろ、基本的な専門用語を日本語にすることができて、日常の用が足せるだけの日本語力があれば、実務に支障はないはずです><英語で脳に収めた知識は、何の問題もなく、日本語として仕事に引き出すことができるでしょう><「国家試験」を「日本語で受けさせる」必要はまったくありません!>
  実質的なところで読売社説と異なっているところは、読売が「速やかに抜本的な改善策を講じるべきだ」と主張していることを「苦言熟考」が「国家試験を英訳して英語で受けさせるべきだ」と具体的に述べているところぐらいです。
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  日本政府、いや日本人は、日本がすでにそこに到っている“少子高齢社会”について、いまだに、深刻には考えていません。少なくとも、深刻に考えていると思える証拠は、ほとんどどこにも見当たりません。
  数少ない例外の一つは…
  いわゆる“秋入学”に移行しようという考えを東京大学が明らかにしましたね。外国の“知性”を日本に招きやすくすると同時に、日本の“知性”にも外国の大学への留学をしやくしようというこの案が、ほかの多くの大学を巻き込む形で実現すれば、日本と外国の“知性”の交流が活発になるでしょうし、知的外国人の日本への移民を促すことにもなるに違いありません。
  日本に(特にこれから)必要なのは外国人の看護師や介護福祉士だけではありません。日本は、分野を問わずに、幅広く、“知的”外国人の移民を受け入れるべきです。日本人への外国語教育を含めて、そうするための準備、制度づくりに、日本政府はただちに取りかかるべきです。
  読売新聞が<優秀な人材を、もっと積極的に受け入れるべきだ>ではなく「優秀な移民を」とまで踏み込む覚悟を固めなければならない日は遠くないでしょう。<人口減の流れにできるだけ歯止めをかけるには、安心して子どもを産み、育てることができるよう、政策で支えることが大事だ><労働力人口を確保するには、女性が就業しやすい社会環境を整えることが第一だ><若者の雇用を損なわぬようにしつつ、意欲ある高齢者には長く働いてもらうことも重要だ>(読売新聞 社説 2012−1−31)というだけでは“歯止め”は十分にはかからないでしょうから。
  「分野を問わずに、幅広く、“知的”外国人の移民を受け入れ」たりすれば、同等の能力を持つ日本人が排斥されるなどと恐れていては、日本は遠からず二流、三流の“先進国”に成り下がるに違いありません。
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  【中川少子化相「移民政策を視野」…政府で議論も】
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20120223-OYT1T00988.htm?from=main3  <中川少子化相は23日、読売新聞などとのインタビューで、日本で少子高齢化が進んでいることに関連し、「北欧諸国や米国は移民政策をみんな考えている。そういうものを視野に入れ、国の形を考えていく」と述べ、移民を含めた外国人労働者の受け入れ拡大を目指し、政府内に議論の場を設けることを検討する考えを示した>(2012年2月24日08時04分 読売新聞)
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  読売新聞は2012年2月26日にも次のような社説を掲げました。【外国人介護士 受け入れ策の見直しと拡充を】
  先月の社説内容から目だって変わった個所があります。<専門知識の水準は母国語か英語で測り、介護や看護の現場で必要とされる日本語コミュニケーション能力は、これとは別に試験するのも一策だろう>
  読売が事実上「専門知識の試験は英語で受けさせてはどうか」と一歩踏み込んできました。