2010年元日に掲載した「“少子化”で国が傾く 」から10年が過ぎています・・・
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【参考記事】
【日本は「人口減少」の深刻さをわかっていない】東洋経済 2O18/05/05 https://toyokeizai.net/articles/-/218313
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【人口減少が止まらない日本に、残された手段】Forbes Japan 2019/11/04 13:00
https://forbesjapan.com/articles/detail/30441
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【日本の人口1億2558万人 過去最大の前年比30万人減】 東京新聞 http://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201707/CK2017070602000130.html
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2017年1月8日、毎日新聞はこんな社説を掲げました。「歴史の転機 人口減少 深刻な危機が国を襲う」(http://mainichi.jp/articles/20170108/ddm/005/070/002000c)
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朝日新聞 「外国人との共生 生活者として受け入れを」(http://www.asahi.com/paper/editorial.html?iref=comtop_gnavi)
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日本の政治家というのは(マスコミ同様に)ずいぶん視野がせまく、遠望もきかない人たちの集まりのようです。
国の将来に目をやったとき、いま一番真剣に考え、対策に乗り出さなければならないのは、[あえて極論すれば] 米軍普天間基地の移転問題でも、もちろん、鳩山首相の政治献金問題でもありません。日本の少子化についてです。基地の移転が多少遅れようと日米が敵国同士になることはありえませんし、かりに(自民党にはその力がないので、マスコミが大騒ぎして)鳩山首相を辞職に追い込んだところで(その人物が優秀かどうかはともかく)新しい首相はすぐに決まります。日本が大きく傾くことはありません。
だが、少子化を軽視しつづけると…。
自民党長期政権による最大の失政は(利権関係を全土に張り巡らせて税金を無駄に使いつづけてきたことなどではなく!)少なくとも1970年代以降はその傾向が顕著になっていたのに<日本の少子化を防ぐためのに必要な対策をほとんど打ってこなかった>ことかもしれません。
一方、期を画する政権交代を実現した民主党も、そのマニフェストで少子化問題に触れてはいたものの、政権獲得後の動きを見る限りは、事の深刻さをちゃんと自覚しているようには見えません。必要な危機感を抱いているとは思えません(情けないことに、マスコミは政権交代の後も前も、目の前に出現した個々の問題の枝葉末節をただ針小棒大に取り扱うことしかできない、進取の気とバランス感覚に欠けた怠け者でありつづけています)。
厚生省が発表している統計によると ①1973年に生まれた子の数は209万人 ②2006年は109万人 ③出生率は1971年には2.16 ④2006年には1.32(人口を維持するために必要な出生率は2.07)
2002年に発表されたほかの調査は ⑤2000年の人口は1億2,693万人 ⑥2060年の推定人口は1億59万人 ⑦2050年の推定年齢構成比は:子ども人口11%、働き盛り人口54%、高齢人口36% などと述べています。
日本の将来がどうなるかを考えると、いずれも、きわめて深刻な数字です。2060年には総人口は2000年より2600万人も減少しているだろうというのです。労働生産性の向上などでは絶対に追いつけない類の減少です、これは。
国民を豊かに保つための生産を誰が担うのでしょうか。農業の後継者は?生産した物をだれが消費する?国を動かすのに必要な税金はだれが納める?高齢者を誰が看護・介護する?
上の統計や調査・研究に見られるような急激な人口の減少は、間違いなく、国を傾けるのです。
国の経済的な繁栄を保つためには適度な人口増とインフレイションがなければならないはずです。自民党は昨年秋の衆院選で<経済成長政策がない>と民主党を非難しましたが、自らは何十年ものあいだ、その経済成長に欠かせない人口増加(少なくとも、減少防止)のための手を、事実上、何も打ってきていません。
自民党政権時代の貧弱な経済政策が引き起こした税収不足に足を取られている民主党も<こども手当て>や<高校無償化>などを何らかの形で実現しようとしてはいますが、少子化をどう防ぐかという長期的なヴィジョンは描いていません。
人口対策には即効薬はないのですから、政権を担当するのが何党であれ、国の指導者は数十年先を見つめながら、国民の目に見える形で、何かに着手しなければならないというのに……。
将来の人口を増やすための方策は二つしかないように思えます。
1.若い世代に引きつづいて子を、一夫婦当たりで平均2人以上生んでもらう
2.日本への移民を積極的に受け入れる
2人以上生んでもらうためには何をすべきか?保育所などを増やし、充実させて、子を産みやすい環境を作る?育児休暇をもっととりやすくする?子を持つ家庭に養育費を支給する?高校までの授業料を無償化する?
そういう個々の対策も必要で、ある程度は有効でしょう。だが、いままでできていなかったことをやろうというのは、あくまでも現状の“繕い”です。そこには子育ての“将来像”がまったく見えていません。
40年後、50年後には日本はこうなっています(こういう国になろうといま最大限の努力をしています、だから安心して家族を持ってください、子を産み、育ててください)という“像”がないのです。親に、あるいは親になろうという世代に、明るい展望を与えていないのです。
これからの路線として自民党がいま真剣に考えているのは正統保守への回帰(?)だそうです。政党としては、それは勢力回復方策の一つではありえるかもしれませんが、こんな路線をどう高らかに謳い上げようと、これで若い世代が子育てに希望を抱くとは思えません。そこには明るい未来像がないのですから。
一方の民主党もそれを示したことがありません。鳩山首相の<友愛>精神は国際社会での日本のあり方や、人間同士のつながり方を理想主義的に語っているのでしょうが、子をどう育てていくかという、日本の親の世代が直面している厳しい現実を良い方に変えていく力はありません。
政治はいま、分かりやすい言葉で、若い世代に“夢”を与えなければなりません。
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*原稿推敲中に<時事ドットコム>(2009・12・30)がこんな記事を掲載しました。
<政府は30日、臨時閣議を開き、鳩山政権の新たな経済成長戦略「輝きのある日本へ」の骨格となる基本方針を決定した。2020年までに環境、健康、観光の3分野で100兆円超の需要を創造して400万人以上の新規雇用を創出する目標を提示>
<鳩山由紀夫首相は、臨時閣議に先立って開いた成長戦略策定会議で「日本はこの道を進めば大丈夫だという自信、希望を(国民に)持っていただく。『人間のための経済』に変えていかないといけない」と述べた>
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移民の積極的な受け入れ。
アメリカが長い間にわたって世界一の国力を維持できてきた理由の一つは、間違いなく、外国人の移民を(積極的に)受け入れてきたことにあります。白人至上主義者や極端な保守主義者が極度に嫌う移民が実は生産・消費・労働・納税などの下支えをしてきたからアメリカの長期繁栄があったのです。
ヨーロッパの先進各国も移民を受け入れることなしには国が動かなくなってきているようです。犯罪の増加などの多くの問題を抱えながらも、否応なしに“多民族国家”への道を歩ませられているようです。
さて、日本。移民の受け入れをどうするかについて真剣に発言している政治家やマスコミはまだいません。
<苦言熟考>はこれまでに、看護士・介護士の国家試験を外国人が英語で受けられ(合格者が増え)るようにすべきだと訴えています。移民受け入れを肯定する意見です。この辺りから始めるべきだと考えているわけです。
政治家(とマスコミ)は移民受け入れへの意見を真剣に語り始めるべきです。移民受け入れに反対する者は、それなしでもこの国は将来やっていけるという根拠を示すべきです。
多くの民族系の人々が住み合うなかで自らを鍛え行く……。日本人はそんな覚悟をしなければならなくなっている−と思います。
日本は<数十年後に国が傾くかどうか>の分岐点に差し掛かっています。何かを始めなければならないときに来ています。
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<▼東京・新宿の大久保通り沿いに暮らして四半世紀になる。外国人に優しい不動産屋や、イスラム教徒向け食品店はすっかり日常の風景だ。そのはず。今回、新宿区の新成人の45%が外国籍だ。多様な民族衣装や、振り袖で式典にのぞむ。隣人として彼らと苦楽を共にする。この街に兆す希望は、日本の進路と重なるはずだ>
日経新聞 「春秋」 2020/1/13付